『小説太平洋戦争』

*風のメルマガ「つむじかぜ」696号より転載

8月には戦争に関する本を読むことにしている。今年は太平洋戦争を概観してみたいと思い、山岡壮八の『小説太平洋戦争』(全9巻)を読んでみた。『太平洋戦争 上下巻』児島襄著(中公新書)も考えたが、最近は楽な方につい流れてしまう。

山岡壮八は、1942年から従軍作家として各戦線を回り時局小説を書いて、戦後は公職追放になっている。とはいえ、保守系の政治家との付き合いが多く1974年には「日本を守る会」(のちの日本会議)の結成にも加わっている。そういう人物だと了解の上で読んでみた。

真珠湾攻撃、マレー作戦、フィリピン作戦、蘭印進行作戦など開戦緒戦は破竹の勢いで東南アジアに攻め入っていくが、陸軍はガダルカナルで躓き、ニューギニア戦、ビルマ戦線(インパール作戦)と大敗を喫し、海軍はミッドウェー海戦で思わぬ敗戦、マリアナ沖海戦で決定的な打撃を受ける。太平洋戦争は、北はアリューシャン列島のアッツ島から、南はニューギニア、ジャワ、西はインパールと広大な範囲でしかも同時進行していく。後半は、アッツ島、サイパン、ペリリュー島、フィリピン、硫黄島、沖縄と敗退が続く。その実態は悲惨を通り越して地獄である。

著者の意図は、その地獄を描きだすことではなく敗戦の理由を明らかにすることだ。その理由は、米国との物量の差、国力の差だと一言で片付けられない。海軍には、山本五十六がいて米軍の戦力も国力の差も自覚していたものの、陸軍は、そもそも米国と戦う準備が全くなく、開戦時はおろかその後も、敵戦力の分析も把握もしないまま常勝軍という思い上がりで敵を甘く見て失敗したと指摘している。特に、個々の戦いでは将によって勝敗が決し、何人かの愚将について詳しく述べている。

インパール作戦は、弾薬、食料の補給を無視した史上最悪の作戦といわれるが、日本の補給は陸路。その補給路を英軍に断たれてしまう。一方、英軍は空輸で自軍の弾薬、食料を潤沢に補給。日本軍が英軍を包囲しても、武器弾薬が不足し攻めきれず、兵糧攻めもできないまま、自軍の弾薬が尽き飢えとの戦いになってしまい敗退していく。それでも、幾つかの勝機があったが、日本陸軍の愚将たちによって機を逸してしまったと指摘する。逆に勇将の話も沢山出てくる。その賛美の仕方は皇軍をたたえる著者の思いが滲んでいる。

日本軍は、武器も食料もなく夜襲と切り込み突撃作戦。連合軍は、接戦をさけ徹底的な砲撃と空爆で対処。死ぬことを恐れない日本軍と死なない作戦をとる連合軍。その闘い方は対照的である。個々の将の話も確かに興味深いが、やはりこの考え方の違いに改めて驚く。まるで源平の武将が、突如、近代兵器をもった軍隊と戦ったようなものだ。あまりにも違いすぎる。


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