*風のメルマガ「つむじかぜ」623号より転載
先日、日本航空でグレートキャプテンとよばれた小林宏之氏の講演をトラベル懇話会の例会で拝聴した。テレビでもしばしば出てくる方だからご存知の方もいらっしゃるに違いない。温厚に見える顔から、底深い冷静さが感じられた。
「今は許されませんが」と前置きされながら、操縦室から映したなんとも美しい地球の写真の数々を見せてくださった。北極の氷が解けている様子が映し出された一枚は、私もテレビで見たことがあった。通常なら写せないとても貴重なショットの数々なので、何度もテレビ局が借りに来るそうだ。
「実は、意外と地球は狭いんです」そんな感想をお話しされていたが、飛行機が地球の自転の速度を超えると、太陽が西から登るのだそうだ。そんな速さで地球をぐるぐる回っていると、仰ることが私のような凡人とは違ってくるようだ。
写真に続いて2009年1月15日に起きた「ハドソン川の奇跡」の話をしてくださった。映画にもなったのでご存知の方も多かろう。ニューヨークの空港を飛び立った旅客機が、離陸後すぐ鳥を吸い込み両エンジンがストップ。空港へ戻ることも、近くの他の空港へ着陸することもできないと判断した機長が、市街地への墜落を避けてハドソン川に着水し全員無事に生還したという“奇跡”である。
離陸して着水するまでわずか5分間。その間の機長の判断の素晴らしさを称えながら、機長としての見方を解説してくださった。「2、3秒おいてゆっくりしゃべる。機長が慌てればみんな浮足立ちます。そして自分をコントロールします。決断は腹でするんです。ここです」。言葉少なにさらっとこういわれると、いつもドタバタしている自分が情けなくなる。
小林さん自身は、入社以来42年間、病欠などでスケジュール変更するようなことは一度もなく飛び続け、日本航空が運航した全ての国際路線と主な国内線を乗務されている。総飛行時間18,500時間。首相特別便機長、湾岸危機時の邦人救出便機長なども経験されている。通常はありえない緊張感の中で仕事をされてきたに違いない。
「判断には基準があります。だから部下でもできます。しかし決断には基準がありません。だからトップが腹で決めるんです」。必要な力は胆力である。知識をいくら吸収しても胆力は身に付かない。胆力を鍛えたいと思う。
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