*風のメルマガ「つむじかぜ」592号より転載
この夏、久しぶりにブータンへ添乗で出かけた。今回のお客様は、羽田、中部、関西の3空港に分かれて出発。全部で10名。13歳の中学一年生を含むご家族連れと、単独で参加した高校生、大学生各1名、後は、40代、60代、70代の社会人の方々と、年齢層が幅広い。これだけ年齢層に幅があると話題が合うかと少々心配したが、みなさん、ブータンに一角ならぬ興味を抱いてのご参加だったので、話題も尽きることなく、私の心配は全くの杞憂に終わった。
バンコクから飛び立ったAB319、約120人乗りのKB(ドゥルクエアー)の機体は、標高2300m、ブータン西部のパロ空港に降り立った。谷間を縫うようにすり抜けてのランディングは、機体の窓に映る山肌の近さにドキッとする。
さながら壮麗な寺院のような美しい空港ターミナルに5色のタルチョ(お経を書いた旗)が数多くなびく。なんでも、王様が、この2月に生まれた王子を初めて王妃の故郷・中央ブータンに国内線で連れていくのに合わせて、タルチョは新調され、その数も普段に比べるとかなり多かったそうだ。それにしても、こんな美しい空港があるだろうか。幸せの国ブータンの玄関口として素晴らしいの一言である。
ツアーのテーマは“ブータン人になりきる”。どなたも織物体験やブータン料理作りを楽しみ、世界一辛いといわれるブータン料理に当然ながら“辛い!”を連発。もちろん、ケワ・ダツィ(ジャガイモとチーズの煮物)など辛くないものもメニューに入れてあるから大丈夫なのだが、なかなかの辛さである。特にエゼという唐辛子たっぷりの和え物は、とびぬけて辛い。通常はこれまた辛いと言われているエマ・ダツィ(唐辛子とチーズを煮込んだもの)が、まろやかにすら感じるほどだ。それでも皆さん、この“辛さ”を楽しんでおられて、むしろ感心してしまった。
“ブータン人になりきる”ツアーは、お寺に行ってブータン人の信仰心をも体感する。六道輪廻から抜け出すために、ブータン人はお参りをし功徳を施す。五戒のうちの不殺生戒を頑なに守り、蠅も蚊も殺さない。リンポチェ(活仏)は尊厳を保ち、篤い信仰を集めている。そんな解説をガイドから熱く受けた後は、民族衣装(男性はゴ、女性はキラ)に着替えてメモリアルチョルテンヘお参りする。思わず五体投地までしてしまう。
皆さんもご存知の通り、国の発展の度合いを測るのにGNH(国民総幸福量)ブータンは使っている。このGNHを支えているのは、自給自足と物々交換だとされてきた。しかし、ブータンとて、もはや貨幣経済が浸透してきている。果たしてブータンのGNHを掲げた国家政策はいつまで続くのかは疑問である。但し、ブータン人には仏教がある。信仰で救われるという意味ではなく、ブータン人にとって仏教は、精神性の根本にある強い芯のようなものだと感じる。
高いツアー代金をバイトで貯めたという高校生と大学生は、現地で買ったゴ(民族衣装)を着て日本まで帰ってきた。高校生のお母さんからすぐにお礼の電話が入った。無事添乗終了。ほっとする瞬間である。
★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。