*風のメルマガ「つむじかぜ」585号より転載
私は、評論家でも何でもないので、一般的な話題は、この場では、なるべく避けようと思っている。しかし、今回は別問題である、英国のEU離脱に関しては、一言物申したい。
リーマンショックとは訳が違う。経済問題に関心がいきがちだが、明らかに政治の問題である。外向きで国際主義を基調とした流れが、内向きな排外主義やナショナリズムの台頭へと方向を転換しそうである。まさにパンドラの箱が開いてしまったという印象だ。
6/23の国民投票のEU離脱という結果の詳細を見てみると、スコットランドとイングランドでは全く正反対。更には、若年者と年配者、都市部と地方、ホワイトカラーとブルーカラーといった違いで著しく賛否が分かれている。ここにこそ、英国の姿が投影されているのだろうが、階級社会とはよくぞ言ったものである。
そもそも、英国(イギリス)には、4つの“国”がある。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドである。主権国家は、英国(イギリス)だけだが、英国(イギリス)の正式名称は、 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland である。一つの国のように見えるが、実は連合国なのである。しかも、あまり仲がいいとは言えない。
大罪人は、キャメロン首相であろう。残留派勝利を前提に国民投票を行い、こんなに離脱派がいるのだから、EUが英国に有利な条件を出さないと英国はいつでもEUから離脱するぞとEUに迫り、且つ、国内の離脱派に対しては、国民投票の結果を盾に抑え込むつもりだった。狙いは、自己の権力の確立。こんな大博打を国のトップリーダーが自己の権力欲を満たすためにしておいて、負けたらさっと逃げ出すとは最低である。
しかし、再投票を求める動きに首を傾げたくなる。残留派が再投票を求めているのかと思いきや、離脱派も求めているという。まさかこんなことになるとは思わなかったと離脱に投票した人たちが後悔しているというのだ。もう、ここまでくると、成熟した大人の世界とは思えない。
更には、『ブレグジット』という言葉が離脱派の勝利を導いたともいわれている。何のことはない。“離脱派のほうが格好がいい”という軽薄な理由で投票した人たちが大勢いたということだ。英国は、民主主義発祥の地ではなかったのか。
こういう時は、本質論に立ち返ったほうがいい。組織とは、時間とともに肥大化し権力が集中していく。そもそも、個々の構成員のために作ったはずの組織が、逆に、個々の構成員の思いを否定して支配し始めるという倒錯現象が起きる。組織の維持に一生懸命になる人が多ければ多いほど倒錯が激しくなる。
その結果、大きな矛盾が溜まり一挙に爆発へと向かう。それが戦争だったりして人類の大きな不幸につながってきた。丁度いいくらいで組織の成長を止め、むしろ固定化ないしは後退することができれば、逆に組織は安定し続いていく。
私は、“EUという組織には無理がある”とヨーロッパの人々は思っているように感じる。本来は、ヨーロッパこそ、個性尊重の世界であり、統合とは逆のベクトルを、各国もその国民たちも内包しているに違いない。したがって、EUの権力は最小限に止め、各国の独自性を尊重し、相互に異なる世界を認め合うような形にすればきっと長続きするだろう。残念かな、逆の方向に進みそうだが、そうなることを、私は期待したい。
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