『エンデュアランス号漂流』 –極寒の南極の海から奇跡の生還–

つむじかぜ467号より


『エンデュアランス号漂流』(アルフレッド・ランシング著 新潮文庫)は1914年に南極大陸横断という“無謀”な冒険に出た隊長アーネスト・シャクルトン率いる28人の男たちの物語である。22ヶ月に亘って、南極の海を漂流し、見事に全員が生還(ロス海支援隊は除く)した奇跡は、偶然ではなく人間の生きる力の凄さの証明のように感じる。

南極大陸は、既に1911年の12月にノルウェーのロアール・アムンゼンによって南極点到達がなされている。しかし、この偉業は、大英帝国の威信を大いに傷つけた。同時期に南極点目指して大英帝国は、都合10年、3回にわたり隊を派遣しているが、ロバート・スコット隊は、35日差でアムンゼンに敗れた上に帰途遭難し隊員5人全員が死亡していたからだ。

シャクルトンは、この3回の南極探検隊の内、1回目には隊員として加わり、2回目には隊長として隊を牽引した。特に、後者では、食料不足で断念し南極点到達はかなわなかったものの、後180kmの地点まで到達し、一躍英雄になった。

1914年7月に勃発した第一次世界大戦が続く最中、1914年8月9日に英国のプリマスを出航し、ブエノスアイレスに滞在した後、サウス・ジョージア島に上陸し南極に向かう態勢を整えた。もちろん、まさか、数日後にたった7m程しかない救命艇のジェームズ・アーケード号で再びこの島に戻ってくるとは思いもよらなかったはずだ。

1914年12月5日、南極大陸に向けてグリトビンゲンを出航。ウェッデル海を南下した。しかし、エンデュアランス号は、1915年1月17日頃、氷に閉じ込められて立ち往生。そのまま動けなくなり、船の中で南極の冬を越すことになってしまった。

この間、隊員は、アザラシ、ペンギンなどを獲って食料を確保し、マイナス40度にもなろうという極寒に耐えた。太陽が昇らない暗闇の中でじっと耐えた。夏になってもっと北に流され、氷のない海に出て、エンデュアランス号で再び航海することを夢見た。

しかし、1915年11月21日、ついに、エンデュアランス号は、氷に押しつぶされるようにして沈没。シャクルトンは、450km西方にあるポーレット島を目指そうと犬そりを使っての移動を試みた。しかし、浮氷上の移動は、圧力隆起した氷の塊に阻まれ、ほとんど進めず、結局、元の浮氷に戻ってそのまま流されることにした。北西に向かえば、南極半島付近の島に行ける。浮氷が割れたら、3隻の救命艇で、その島に向かおうとシャクルトンは考えた。

しかし、浮氷は、北へ北へと流された。1916年4月9日、ついに氷が割れた。シャクルトンは、南極半島付近の島、デセプション島に向かおうとした。しかし、北へ流され、エレファント島かクラレンス島を目指すことへと変更を余儀なくされた。しかし、この2島が見つからず通り越してしまえば、荒れ狂うドレーク海峡が待っている。その結果、どうなるかは、火を見るより明らかだ。

さて、ここらへんから、私はこの本から離れられなくなった。全500ページ程の本だが、3隻の救命艇で大海に乗り出してからがほぼ半分強になる。それを一気に寝床の中で読みきることになった。

つづく

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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