★シリーズ第4シーズンも、すでに12回を数え、とりあげた作家・作品は、大岡昇平「武蔵野夫人」、源氏物語「須磨」、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」、夏目漱石「坊ちゃん」、「信長公記」(桶狭間の合戦)、柳田国男(「遠野物語」)、「古事記」(ヤマトタケルの章)「平家物語」(屋島の合戦)川端康成(「伊豆の踊り子」)など、多岐にわたりました。
★当初、ランダムに「地形関連」の文学をとりあげてきましたが、2019年秋からは通しテーマのもとで3回講座を行っています。古典と現代文学を対比させながら、「地形と文学」にせまります。
2019年秋期は、通しテーマ「やがて悲しき……~英雄たちの挫折~」と題して、「将門記」「太平記」(赤坂城・千早城の戦い)高橋和己「邪宗門」をとりあげました。
2020年春期は、通しテーマとして「水運・海運・陸路の旅」と題して、つぎの三つの作品をとりあげます。「地形と文学」を考えながら、「陸VS水」の視点で、日本の歴史も再考察していこうという意図です。どうぞご期待ください。
〇第13回 2020年2月15日(土)
「船主は有名歌人」~紀貫之「土佐日記」~四国から京への海運~
★「土佐日記」は、紀貫之が「女性に仮託して書いた」、わが国初の仮名文字の日記、という教科書の定説を、だれもがそのまま信じていると思いますが、ほんとうにそうなのでしょうか? 原文には「をとこもすなる日記というものを、をみなもしてみむとてするなり」と、はっきり書いてあります。「男が書く日記を、女である私も書いてみようと思います」そのまま読めば、これは女性が書いた日記ではないのか? という、素朴な疑問から始まった、講師の「土左日記」への旅。そう。これは「土佐」ではなく、「土左日記」なのです。そして実際、日記の大半は、土佐のことなどではなく、海の船旅の話です。そんなことを含め、千年前、ひとびとはどんなふうにして八十島かけて漕ぎだしたのか、ということを、原文にそって読んでいきましょう。
地形は、土佐、阿波、淡路(淡路島)、そして和泉、摂津から山城、京までが範囲です。
〇第14回 2020年3月21日(土)
「先生、舟の用意ができたよう!」~池波正太郎「剣客商売」~江戸の水運~
★言わずと知れた時代小説の雄、池波正太郎。「鬼平犯科帳」とならんで、「剣客商売」は、作家の没後もなんどもドラマ化され、幅広い年代に根強い人気を誇っています。
主人公は老境の剣豪、秋山小兵衛。鐘ヶ淵に庵をかまえ、悠々自適の生活をしています。四十歳も年下の妻おはるは彼を「先生」と呼ぶ、快活な女性。先妻の息子で道場主の秋山大治郎は、おっとりした好男子。妻の女剣客三冬は、老中田沼意次の娘でもあります。個性ゆたかな秋山ファミリーの面々が、江戸市中の武士や町人の間に起きる事件に巻きこまれ、人生の哀しみ、喜びをかみしめながら生きてゆく「剣術ミステリー小説」。
舞台となるのが、隅田川ぞいの下町です。事件が起き、秋山小兵衛は、網目のようにはりめぐらされた「大川」につながる運河に、おはるが竿をさばく小舟に乗って漕ぎだします。
江戸の町人や、武士の暮らしが、浮世絵のように生々しく描かれる名作。当時の交通事情を考えながら読んでいきましょう。地形は墨田区、深川かいわいです。
〇第15回 2020年4月19日(日)
「夜が明けても暗いのは」~島崎藤村「夜明け前」~中山道~
★島崎藤村は、明治期から昭和にかけた戦前の日本を代表する作家のひとりです。「若菜集」(明治30年)でデビュー、明治浪漫主義の先駆者詩人として出発し、「椰子の実」「千曲川旅情の歌」などの詩作はいまも愛されています。その後小説家に転じ、「破戒」(明治39年)「春」「家」「新生」などを書きます。昭和4年から中央公論に「夜明け前」を連載し、昭和10年には日本ペンクラブの会長ともなりました。
「木曾路はすべて山の中である。」から始まる「夜明け前」は、歴史小説の大作で、かれの父をモデルにした木曽・馬籠の本陣庄屋の当主、青山半蔵の生涯を描きます。同時に、明治維新から大政奉還、その後の明治新政府の時代を、木曽路からの視点によって、こくめいに描いています。
地形は、中山道の馬籠(現在の岐阜県中津川市馬籠)を中心にした、木曽街道周辺です。
ファンタジー作家
芝田 勝茂 (しばた かつも)
石川県羽咋市生まれ。児童文学作家。著書にファンタジー『ふるさとは、夏』(福音館文庫・産経児童出版文化賞)『ドーム郡シリーズ三部作』(『ドーム郡ものがたり』『虹への旅』『真実の種、うその種』日本児童文芸家協会賞他・小峰書店)古典に題材をとった『サラシナ』『虫めずる姫の冒険』(あかね書房)。また近未来を描く『進化論』『星の砦』(講談社)がある。編訳に『ガリバー旅行記』『西遊記』『ロビンソン・クルーソー』子ども向けリライトに『銀河鉄道の夜』『坊っちゃん』(学研)伝記『葛飾北斎』(あかね書房2016)『織田信長』(学研2018)など。『空母せたたま小学校』シリーズ(そうえん社2015-2016)や『ぼくの同志はカグヤ姫』(ポプラ社・2018)では近未来と古典文学が融合する、ユニークなファンタジー世界を描く。日本ぺンクラブ会員。
2013年から2018年まで『縄文サマーキャンプ』を山梨県で個人主催で実施した。
HP『時間の木』http://home.u01.itscom.net/shibata/index.html