大人になれない人間たち
最近、「LINEのアプリで仲間はずれにされ登校拒否になった」そんな記事をしばしば目にする。学校で顔を合わせない夏休みの間にネット上の陰湿な村八分が進行し、いじめに繋がっていくのではないかと心配されている。以前から、携帯メールでも同様のことが指摘されていたから目新しいことではないが、スマホを四六時中いじっているわが子を見て心配にならない親はいないだろう。
実際、広島県呉市の山中で高等専修学校2年の女子生徒の遺体が見つかった事件も、LINEのグループチャットでの罵り合いが引き金となった。しかも、共犯の6人は、「女子生徒とは面識がなかった」「雰囲気でつい暴行に加わった」などと供述している。今の中高生は、ネットで簡単に繋がり無自覚のままこういう事件に巻き込まれる可能性をもっている。
それにしても、加害者の少女の行動には唖然としてしまう。少女は6月12日に警察に自首したが、遺体が見つからなかったので一旦家に返されている。その晩、少女は、LINEに「うち逃げたいんよ。つらすぎてやれんのよ。誰か足おらん」と書き込み逃走をはかった。しかし、あえなく14日に捕まっている。逮捕前の13日、LINEに「支えてくれとった皆にちゃんとゆっとかんといけんことがある」「うち、捕まるの嫌で逃げようとした。でも、捕まってすごい動揺しとる」「今ちゃんと事情聴取もしよる。皆裏切ってごめんね」などと書き込んでいる。
どうもLINEは『社会から閉ざされた秘密の空間』だと思ってしまっている。大手コンビニのFC店で従業員が店内のアイスクリーム販売ケース内に寝そべる写真をネット上に公開するような事件も続いたが、彼らには、現実の社会のリアリティーが全く欠如している。あまりにも幼い。ネット社会は、大人になれない人間を日々再生産しているのかもしれない。
狭量で排他的なネット社会
そして、もう一つ、気になることがある。本来、ネット社会はそのネットワークを利用して関係を広げていくものなのに、一部では、嘗ての村社会のような狭量で排他的な人間関係を生み出しているということだ。
LINEのアプリで仲間と繋がるには、四六時中アプリをみて即座に書き込まなくてはならない。書かなければ仲間はずれにされる。友達をブロックして排除する機能がついている。だから、いつブロックされるか戦々恐々としている。その上、グループチャットだから、携帯メールよりも集団性が明確になり、親分肌の人間が権力を発揮し易い。どう考えても、この仕組みが排他性を生み出す元凶になっているように思う。
中高生たちの人間関係は極めて狭い。しかも、それが全てになってしまい、一旦、破綻すると身動きが取れなくなってしまう。大人のように、いざとなれば自分が生きる環境を変えるという選択肢は、彼らにはない。LINEは、まるでそうした中高生の心理をもてあそんでいるかのようだ。
広島県呉市のようなケースは例外だし、そんなに大袈裟なことには殆どならないのかもしれないが、多くの中高生が、仲間はずれにならないように怯えながら思春期を過ごしているとしたら、なんとも哀れである。
しかし、中高生のことを心配している場合ではなさそうだ。大人の世界でも、日々の職場や身近な人間関係の中で日常的に起きているメール禍の問題は、かなり広範囲におよび深刻である。メールで一方的に指示するかのような文章を遠慮なく送りつけたり、相手の考えや行動をこれまた一方的に批判してはばからない、そんな人が増えている。パワーハラスメントと紙一重という場合も多い。実際、企業や大学、様々な組織で問題になっている。被害にあった人は、うつ病になったり、職場をやめざるを得なかったりするケースもあるという。
人間関係の新密度とは「会った回数×時間」
弊社でも、以前は、メール討論などをやったこともあるが、今は、メールでの議論はしないと決めている。それでも、東京本社、大阪支店、名古屋支店、そして海外支店も含めて遠距離間でチャット会議などをする場合もあるようだ。なるべく議論をする場合は、Skype会議などの方法で直接話し合うようにしてもらっている。メールはあくまで情報の伝達手段と割り切って使う。上司が、メールで部下を叱責するなどということは言語道断である。人間関係の新密度とは「会った回数×時間」だと私の知人はいう。顔を突き合わせて何回も話すこと。これが一番大切である。
厚生労働省研究班はインターネット依存に関する調査結果を2013年8月1日に発表した。 ネット依存症の中高生は全国に約51万8000人。その割合は8 %。男女別では女子が10 %、男子が6 %。女子が高いのはチャットやメールを多く使うためだ。ネットにつながっていないとイライラして禁断症状が出る、食事や睡眠を取らなかったり、不登校になったり、やめさせようとする家族に暴力をふるったりするそうだから深刻である。
私自身、仕事も含めて、ネット社会の恩恵を受けている。ただ、拡大と変化のスピードが速すぎて、気持ちがついていけないこともある。だから、あえて人と繋がらず一人でじっくり静かに考える時間を持つようにしている。昔の人は、そんな時間に日記をつけたりしたようだ。
しかし、中高生には大人の支援が必要だ。まずは「依存症になってないか?」と声を掛け、叱らずに一緒に考えてあげることが必要だろう。かくいう私の二人の大学生の息子たちもスマホを始終いじっている。もう大人だから煩くは言わないが、やっぱり、ちょっと声を掛けてみることにしよう。
※風通信・特別増刊(2013年冬号)より転載