口蹄疫の伝染

つむじかぜ285号より


「雇用調整助成金は使えないんです。」宮崎県の従業員5人を抱える畜産農家のまだ40代の経営者は、役所の担当者のにべもない回答に頭を抱えていた。殺処分をした場合は、国の援助があるというのが理由だそうだが、殺処分された牛の補償はあっても、一年半の間、牛が出荷できない状態で、5人の従業員の給料を払うことには援助がないそうだ。

従業員といっても、何年も一緒に仕事をしてきた家族のような存在だ。そんな従業員と仕事を続けたい。そう思って奔走する経営者の心情が痛いほどよく解る。正直、私にとっては、他人ごととは思えない。胸がえぐられるような思いがする。

どんな天災も、罹災者を100%国が助けてくれるわけではない。家族もばらばらになり、人生が大きく変わってしまったとしても、自助努力で苦難を乗り越えるしかない。役所は低利で融資をしてくれるが、借金にはかわりない。返済をするのは容易ではない。

豚、牛、山羊、羊、など蹄が二つに割れている偶蹄目の動物に感染する口蹄疫は、SARSのように、飛まつ感染といった限定的な感染形態ではなく、色々な形で感染し空気感染もするというから、一旦広がると押さえることが難しく、畜産農家に大きな被害が出る。

口蹄疫は、ときどきモンゴルでも発生するが、遊牧生活が基盤となっているモンゴルでは、その恐ろしさをよく承知しているのか、口蹄疫をはじめとした動物の感染症にはかなり厳しい対処がなされる。発生すればすぐに、人の移動すら禁止されたりもする。

対応が遅れたと、割と“軽く”謝る農水大臣に危機感が欠如していたと私は感じる。おそらく、自身に降りかかった災難ぐらいにしか思っていないに違いない。新型インフルエンザは、大事にならずに済んだが、鳥インフルエンザの心配が消えたわけではない。防疫だけは、国がしっかりしてもらわないと、国民は、大変なことになる。騒ぎすぎたと多少非難されても危機を訴えたかつての某大臣の方が、危機感があったように思う。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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