今日はいよいよ「チベットガイド列伝」の最終回。 去年冬から新しくメンバーに加わったチベット人ガイド、ヤンゾン・チョーキ(さくら)を紹介します。
彼女の名前の「ヤン」は妙音、「ゾン」は集まる、「チョー」は仏法、「キ」は喜び、の意。 あまりに僕の人格や思考を超えた、素晴らしい名前だったので、いい日本語の名前がすぐ思い浮かばなかった。 そこでこれまた気まぐれインスピレーションで、「さくら」と名付けた。
さくらは僕がチベット大学で日本語を教えていた頃、クラスの学級代表であった。 責任感が強く、真面目に勉強する子だったので、クラスメートから一目置かれていた。 小さい頃から読書好きだったようで、この間もオフィスでみんなが忙しい中隠れて(笑?)ダライ・ラマ6世の伝記を食い入るように読んでいた。 彼女は6世好きで、彼の「哀しい」人生が何ともいえないと、この間僕に語ってくれた。 あまり、彼女は自分の感情を話し言葉で表現するのが必ずしも得意ではないが、小さい頃から文学少女だったせいか、文章を書かせると非常にうまい。 彼女の優しさや素直さが伝わってくるのである。
下はさくらの書いた文章の抜粋で、チベット大学時代、僕が「最近考えていること」と題して日本語の学期末試験で出題したものである。
・・・ 誰のために勉強するのか、何のために勉強するのか、私は分かりません。 義務のためなのか、せっかくのいいチャンスを無駄にしないようにするためなのか・・・ 私は将来の夢は一体何なのか私も分からないのです。 でもこの間、私の頭にこんなことを考えています。 それは、私は今よく勉強して卒業した後、一生懸命仕事して、父に車を買いたいとのことです。 私の父は車が大好きです。 でも彼は弟と私の学費を払うために、自分の好きな車を売りました。 その時弟と私は感動でびっくりしました。 でも父は笑いながら私たちに、「大丈夫だよ。卒業した後に新しい車を買ってくれるといい」。 そういう話は冗談ですけれども、私はその冗談を実現のためにこれからよく勉強して卒業した後、一生懸命仕事したいと思っています。 ・・・
この文章を書いた時、さくらは二十歳。 信じられるであろうか。 一、二年しか勉強していない日本語で、これだけ自分の気持ちを伝えられるのは。 そして、彼女の親思い。 こんな二十歳は日本では半世紀以上も前に死滅したのではなかろうか。
さくらがこのエッセイを書いてから7年。 さくらはお父さんの車を買うために、少しばかりだったらしいが、恩返しをしたらしい。 そして今、上海の大学で勉強している妹の学費・生活費を彼女はまかなっている。
チベット人はよく家族同士で、その時必要な資金をお互いまかないあう場合が少なくない。「習慣」ともいっていいかもしれないが、習慣という言葉だけではおさまりきれないものがある。
そして、そういう彼ら彼女らから今でも「先生」と呼ばれるのは、非常に恥ずかしく思うのである。 僕は家族のことも忘れてフラフラ放浪した年月が非常に長かったので(今でもか!? 笑)、彼らから「先生」と呼ばれるのは本当にチャンチャラおかしいのである。 どういう因果であろうか。
以上三回にわたって、僕の元生徒で、風の専属ガイドを紹介してきたが、曲がりなりにも彼らの元「先生」なので、ひいき目があることは許されたい。 確かに勢い余ってちょっといいこと書きすぎた感は否めないが、彼らの人柄の一部であることも確か。 あとは、実際に彼らに会って、一緒に旅行して、みなさんで彼らのよさ・アホさ・「チベットさ」、いろいろ発見してみてください。
Daisuke Murakami
7月14日
天気 Fine but Rain sometimes
気温 13〜26度
服装 シャツ/Tシャツ+長ズボンが一般的。 チベタンから見て非常にかっこ悪いが、半ズボンも可。 紫外線がかなり強いので、日焼け対策は必須。 異常乾燥注意報も引き続き発令。 あと、雨具は必ず持ってきてください。