まるで大海原に漕ぎ出すかのよう
文●嶋田京一(東京本社)
楽しかった!
どうだった? と聞かれるたびに、こう答えるしかない自分の語彙のなさを嘆きながらも、『楽しかった』の一言の中に含まれる、たくさんの楽しさのひとつひとつを伝えきれないもどかしさでいっぱいの自転車モンゴルツアー。
たとえ写真付きでも、どこまで伝えられるか自信がありませんが、この楽しさを伝えることに挑戦してみます!
砂丘を目指せ! 夕暮れの草原
まずはウランバートルの南、約140kmにあるバヤンウンジュールというところを目指します。といってもこれは車で。自転車ツアーだからといって常に自転車で移動するわけではありません。車の移動をうまく使いつつ、自転車で走って楽しいところに集中するのです。さて、車でたどり着いたのは、砂丘が近くにあるツーリストキャンプ(旅行者向けに作られたゲルの宿泊施設)。日中は日差しが強いため、しばし休憩の後、夕方から自転車で少し足慣らしの意味で近くの砂丘まででかけました。
が! ほんの足慣らし程度のはずだったのに、砂地の多い路面ではペダルを踏み込む足にも力が入ります。うーむ、けっこうしっかりした運動になってしまった… という不安顔の私を尻目に、皆さん楽しそうに(そう見えましたが)砂丘に向かうのでした。
そして、砂丘の手前で自転車を降り、砂丘の中で一番高い小山に徒歩で登りました。しかし、自転車ツアー講師として同行している丹羽さんだけはマウンテンバイクを押して現れ、砂丘のうえからダウンヒルして見せたり、頂上で自転車を掲げたポーズで写真を撮らせてあげたりと、自転車という小道具を無駄なく使うのでした。さすが!
走り方について説明する丹羽さん
やっぱ頂上っていいですよね
いざ出発! 草原の海へ
さて、いよいよこの日から2泊3日の自転車キャラバンがスタートです。目の前には雲ひとつない青空と緑の大地のツートーンだけが広がります。さぁ! どこまで行く(行ける)んだろう、きっと皆さんそう思ったのではないでしょうか。さえぎるものは何もないのにこれから目指すところが見えない、それがモンゴルの大地です。
さぁ行くぞ!
草原をばらばらに走る!
乗馬なら禁止行為!
それぞれのペースで少し進むと、緑の遠景の中に白いものがポツンと見えてきました。遊牧民のゲルです。丹羽さんとは、ゲルが見えたら寄ろうということで打合せしていたので、ゲルにだいぶ近づいた頃、走っていた轍の道から外れ、ゲルの方向に自転車を向けました。
遊牧民のゲル訪問は何度も経験してきましたが、こんな大人数(15名+スタッフ4名)で寄るのはどうかなと思いつつ、ガイドのゾルに聞いてもらうと大丈夫とのこと。さすがモンゴル! しかし、全員は入れるかな… と、遠慮気味にゲルに入っていく皆さんを見守っていると、あれよあれよと全員入ってしまい、中を除くと皆さんきちんと収まりよく座っていたのでした。しかもまだ入れそう。そして、いつの間にか、馬乳酒の入った器を皆でまわし飲み、加工の仕方が違う幾種かの乳製品の入った皿がまわされ、いつもどおりの遊牧民のおもてなしを受けたのでした。それにしてもこんな大人数で食すのも申し訳ないということで、皆で馬乳酒の発酵に少しでも役にたとうと代わる代わる攪拌の棒を握ってガッタンゴットンかき回したのでした。実はこの馬乳酒、日に千回は攪拌しないとダメという話もあり、子供がその役目を担っていたり、隙あらば誰かが棒を手にしていたりしています。馬乳酒は、夏の間だけ作られるということもあり、草原に響くこのガッタンゴットンという音は、モンゴルの夏の風物詩ともいえます。
遊牧民のゲルを後にした一行は、再び草原の海を走ります。しばらくすると今度は見慣れた黄色いバスの姿が見えてきました。先回りしていたキッチン&キャンプスタッフが昼食の準備をして待ってくれているのです。
待ってました! みなさーんお昼ですよー!
こんな感じで食べました
自転車もしばし休憩
正午すぎの日差しは強烈なこともあり、食後はしばし休憩、お昼寝タイム。午後3時を過ぎた頃、午後の自転車をスタートさせます。この時期のモンゴルは日が長く、完全に暗くなるのは9時を過ぎてからなので、暑い日中は避けて夕方に走ります。
午後7時ちょっと前に、この日の宿営地に到着。すでに先回りしていたスタッフがテントを張ってくれています。予定より少し早く着いたこともあり、キャンプ地ではスタッフ用に用意してきていた小さなゲルを建てるのを皆で手伝って(余計時間がかかったような)みたり、近くに見える丘の上まで散策したりして夕餉までのひと時を過ごしました。
夕食は、草原に敷物をひいただけの開放的な草原食堂。草原に夕日が沈むのを眺めながら食べることのできる最高の環境にある食堂、、いや草原レストランなのです。
ゲル作りも体験
これがモンゴルの5つ星レストラン
夕食を終えた頃、日はとっぷりと暮れ、今度は夜空に星がまたたきはじめます。談笑の合間にふと空を見上げると、見るたびに星が群れのように増えていきます。天の川だって勢いよく流れているかのよう。流星群が観察できる時期だったので、流れ星もたくさん見ることができました。こんなレストラン作ろうにも無理!
少々アルコールもまわり始めた頃、横に停めてあった荷物運搬用のトラックのコンテナをスクリーンにして影絵なんぞも始めたりして、キャンプ初日はおおいに盛り上がったのでした。宴も落ち着いてきた頃、今日はここで寝る! と、テントから寝袋を持ち出してきて野宿よろしく寝転がる方が数名いましたっけ。
うねる草原の大海原を走り ただいま! ほしのいえ
翌日もひたすら草原を走りました。草の海とはよく言ったもので、丘を越え、大平原に下り、また丘を越え… と壮大な草原の大パノラマはまるでうねる大海、草原の大海原のようでした。
乗馬と違い、自転車だと皆さんが自分の思い通りに操作できることもあって、乗馬では禁止行為にしている、皆がてんでバラバラに散らばって走ってしまうという場面が何度か起こりました。普段禁止行為にしているだけにこうした光景が目の前で起きるとドキドキしてしまいます。それにしても、バラバラに散って走っているときの皆さんのイキイキとした顔の楽しそうなことといったらありません。そうした姿を見ているうちに私も慣れ、楽しそうに草原を走る皆さんの姿を頼もしく眺めていたのでした。
じつは、自転車とはいえ、こんな風に走れる場所ってそうそうありません。大概は、安全上の問題や、規制、物理的な問題などから道以外のところは走れないことがほとんどです。いくら走りやすいとはいえ、こんなに広々とした草原を走っているのに、轍の跡の道ばかりでは確かに味気ない。たまには道を外れてみろと草原の神サマに言われているようにも思えてきました。それが出来るのが、モンゴルの草原なんだぞ!と。
走りやすい轍の道をぐんぐん走ったり、草原の我が道を走ってみたりしながら何度目かのうねりを越えた後、ゴールである風の旅行社の直営ツーリストキャンプ「ほしのいえ」にゴール! 昨年もほしのいえに来ていた参加者からは「ただいま!」という声が。私もその気持ちがよくわかるなーと、ほしのいえスタッフの顔を見て安堵したのでした。久しぶりに訪れた時には、家族との再会のようであり、初めての訪問でも親戚の家を訪ねたときのような親しみが感じられるのが、ほしのいえの魅力です。田舎の親戚の家でゆっくりと休んでもらうような気分で、昼食後はゲルの中でゆっくりと休んでもらいました。
峠のオボーを自転車で
三周まわっているところ
ほしのいえが見えた!
そして、夜はほしのいえスタッフによる恒例のミニコンサートを楽しみました。キャンプ長のモチコ(女性)による踊りと、ほしのいえスタッフのガナーの馬頭琴演奏、そこに丹羽さんによるギター演奏と馬頭琴のセッションまで飛び出して草原の夜はおおいに盛り上がります。その後、隣の宴会用ゲル(通称、バーゲル)に会場を移し、飲めや歌えやの宴席は終わるところを知りません。途中、熱気あふれるゲルから外に出てみると、空には満天の星が音もたてずに光っており、シンと静まりかえっている夜の草原と相まって、ゲルの中の熱狂(?)空間との対比をより印象深いものにさせていました。
唄っているのはガイドのハグワくん
躍動感あるモチコの踊り
翌日は、ほしのいえ周辺での乗馬を楽しみました。草原を馬の背に揺られて歩く、ちょっとした遊牧民気分の楽しさなど、自転車とは違う魅力があるのですが、その楽しさを語るには、スペースが足りません。乗馬の楽しさは乗馬ツアーコースの報告記に譲ることにします。ただ、ひとついえることは自転車ツアーに参加すれば、自転車と乗馬の両方が楽しめてしまう! のです。
草原からウランバートルに戻り、明日は帰国という最後の夜の夕食は、旅の無事を祝い、お互いの健闘(?)を称えあったのでした。メンバーから一言づつ挨拶していただくうち、感極まって涙する人もあり、ツアーの感動の深さを見た思いでした。
仕事とはいえ、皆さんと同じように楽しみ、その楽しみを皆さんにも伝えたいという思いで一緒に自転車で走ったこともあり、私も皆さんと同じくらい感動し、そして楽しませていただきました。
あんまり楽しすぎて、帰国した際におもわず明日から仕事かぁ… と思ってしまったほど。
添乗も仕事なんですけどね…
旅を終えて(おまけ)
今年の夏は暑かった。帰国後、日本の暑さのためか、皆さんのモンゴル熱は冷めやらず、誰となくまた集まろうという声があがり、約1ヶ月後の9月に東京都内に10名を越えるメンバーが再集合しました。会場である中華料理屋の地下部屋の壁に丹羽さんがツアー中に撮影した写真を投影し、鑑賞していると旅の興奮がよみがえり、まだツアーが続いているような錯覚に陥ってしまいました。
皆さんの心はまだツアーの続きなのかもしれません。