2013年8月30日(日)〜9月5日(火) 文●竹嶋 友
昨年春に立ち上げた、KAZEの新ブランド「学生スタディーツアー」(略称・学スタ)の新企画コース「バングラデシュ 地元NGOと一緒に村の自立を支援する活動」を実施し、無事終了いたしました。
バングラデシュは、国土がヒマラヤの雪解け水がベンガル湾へと注ぐ大河の通り道上に位置し、水と河の国と知られています。一方、1971年の独立以降、NGO大国としての一面もクローズアップされ、マイクロクレジット制度などを中心に世界中に注目されるようにようになりました。
このツアーではダッカを離れ、地方の村の地元NGO「PAPRI」によるマイクロクレジットの現場を訪ね、村人やNGOスタッフとの対話からその意義や実際を確かめます。またNGOが組織する少女グループ「キシュリ」と一緒に村にトイレを作るなどの福祉作業を通して交流。首都ダッカでは、世界最大のNGO「BRAC」本部やストリートチルドレン施設、スラム地区などを訪れます。
エネルギーに満ち溢れる首都ダッカと、地方の農村部で活動するNGOの現場、果たしてどんな学びの旅となったのでしょうか。ぜひご覧下さい!
DAY1 バングラデシュへの道!
成田空港に9名全員集合。1名渋滞に巻き込まれ空港到着が遅れる人も出ましたが、無事離陸。乗継地の香港では、乗り継ぎの時間を使って全員で車座で座り、日程表を手に今回の旅の目的と、これからの日程の確認をしました。これで意識を共有し一心同体のチームとなりました。そしてバングラデシュの首都ダッカへ。出発が遅延したためダッカ空港到着が1時間ほど遅れましたが、現地スタッフは笑顔で迎えてくれました。
空港から車に乗り込み、ホテルまでは約30分の道のり。ホテル到着後、明日のストリートチルドレンとの交流に備え、出し物の準備に取り掛かります。参加者全員それぞれ持ってきた折り紙やけん玉、提灯、扇子などをすべて広げ、「何ができるかねぇ」と悩んだ末、アイディアが固まり作業へと取り掛かるのでした…。
DAY2 ダッカ市内 スラム地区・ストリートチルドレン施設などを訪問
早めに起きた朝、賑わう魚市場の脇の線路沿いにあるダッカ市内のスラム地区を訪れました。スラム地区への移動中の車窓から、近代的な造りの車ディーラー店や高層ビルを見ていたので、ここスラム地区とのギャップに、一同驚きを隠せません。
スラム訪問後、水と河の国バングラデシュを体で感じるべく、たくさんの人や物が行き交う港、ショドルガットへ。首都の人口増加に伴い、街には人やリクシャや車が溢れ慢性的な渋滞が問題となっています。向こう岸に行くにも橋が少なく、橋まで大回りしていくにも渋滞があるので、人々は渡し舟を利用しています。我々も渡し舟に乗船し、ダッカで暮らす人々の生活の一片を体験してみました。
ショドルガットからオールドダッカ(旧市街)へと足を踏み入れ、迷路のような細い路地が網の目のように拡がっている路地を散策。車が入れないような細い路地は、車よりもリキシャが活躍しています。刺激的な光景に気を取られ歩いていると、すぐ脇をリキシャが通り抜けていくので油断はできません。約100年前に建てられてまだ実際に使われている建物やヒンドゥー寺院、小さな露店などをじっくり見てまわりました。
オールドダッカを抜け、昼食をとった後、ダッカ市内にあるストリートチルドレン施設を訪問しました。
まずは、施設代表アラム氏のオフィスに招かれ、私たちの自己紹介をさせて頂いた後、施設の概要やこれから子どもたちとの交流に向けたガイダンスを受けました。参加者の皆さんからは「なぜストリートチルドレンが生まれるのか」など積極的な質問が発せられていました。最後に代表がおっしゃった「こどもたちに未来と幸せを見せてあげて下さい」という言葉が、とても印象に残りました。いよいよ子どもたちとご対面です。前夜の練習の成果を出すぞ! オー!!
交流は2時間半という短い時間でしたが、始めは緊張気味だった参加者みなさんも、前夜準備した様々な出し物を子どもたちとやっていくうちに距離が縮まっていき、最後には緊張も解けお互いにとても楽しい時間を過ごすことができたのではと思います。代表からレクチャーでストリートチルドレンにまつわる現状の一部を知れたこと、そんな苦境を感じさせない元気な子どもたちとの交流は大変貴重な経験となりました。施設の皆さん、ありがとうございました!
DAY3 ノルシンディ県のNGO「PAPRI」があるアムラボ村へ!
朝食後ホテルを出発し、ノルシンディー県アムラボ村にあるNGO「PAPRI」へ向けて車を走らせることおよそ3時間、ダッカの喧騒を抜けると徐々に農村地帯が広がってきます。途中数回の休憩を挟んで無事「PAPRI」に到着。以前私が出張で訪問した際にもお世話になった顔馴染みのスタッフが出迎えてくれました。
この日からの2泊は、PAPRIの事務所併設されているゲストハウスが宿泊場所です。荷物を運びこみ、休む間もなくPAPRIスタッフが普段行っているマイクロクレジットの現場に同行します。PAPRI事務所からオートリキシャに分乗し、とある集落へ向かいます。
マイクロクレジットとは |
2008年にノーベル平和賞を受賞した、グラミーン銀行の創始者ユヌス氏が始めた、非常に小額の融資。通常の銀行から融資を受ける条件に達していない、十分に資金のない貧しい人々を対象にしている。少額の定期的返済、個人ではなく女性が構成する5人以上の小規模グループへの貸付け等が特徴。現在は途上国だけではなく先進国にも拡がる画期的な制度だが、最貧困層は対象から外れてしまうなどの問題が指摘され、議論が続いている。 |
ここでPAPRIの紹介もしておきましょう。
アムラボ村の地元NGO「PAPRI(パプリ)」 |
1999年に発足。貧しい農民や、未亡人、身体障害者などの支援に力を入れ、マイクロ・クレジット制度では融資を受けられない人々の為に、極めて低利な「ソフトローン」を組んでいる。また、女性の扶助グループ「ショミティー」や村の少女グループ「キシュリ」を組織し、成人への識字教育、トイレや井戸を作るなどの衛生面の支援や自ら学校運営なども行っている。 |
この日はPAPRIから融資を受けている女性の扶助グループ「ショミティー」が暮らす集落へ、PAPRIスタッフが集金に行く日です。我々もPAPRIスタッフに同行し、そのマイクロクレジットの一種「ソフトローン」の現場を実際にこの目で見に行く訳です。
集落に着くと、女性グループ「ショミティー」メンバーや村人が既に集まっていて、我々の到着を待っていてくれました。ベンガル語で挨拶をし、我々もその現場に立ち会います。PAPRIスタッフやショミティーメンバーからソフトローンの概要を説明いただき、その後我々から質問する時間をとっていただきました。参加者からは「融資を受けるためにはどんな条件が必要か?」、「融資を受けたお金を何に使っているのか?」、「どのくらいの頻度で返済していくのか?」、「返済できなくなることはあるか? もしそうなったらどうするか?」など、様々な質問が飛び交いました。今回参加されたみなさんは、「将来国際的なNGOで働きたい」とか、「将来、地域を陰からバックアップするような仕事がしたい」という方もいらっしゃて、この貴重な機会に色々なことを吸収しようと精力的に質問される姿がとても印象的でした。やはり何かを知るには、データや映像ではなく、直接自分の体をその現場に置き、対話するということがとても大事ですね。
さて、その後再びオートリキシャに乗り込みPAPRIが運営する小学校を訪れます。教育分野は、現在NGO「PAPRI」の重要な活動の中の1つとなっています。到着後、校長室に招かれ、今回の訪問の主旨を校長先生に説明した後、ちょうど授業中ということもあり教室を覗かせていただきました。クラスでは国語の授業が行われていて、「バングラデシュの母語ベンガル語はいかにして守られてきたか」という内容でした。私たちも生徒たちがスペースを空けてくれた椅子に座り授業の一部を受けることができ、バングラデシュの地方の村の学校の様子を肌で感じることができました。授業終了後は、日本人を珍しがって集まってくる子どもたちに何か日本の文化紹介で応えようと、広~い校庭で急遽「ミニ相撲大会」を開催し、ほぼ全校生徒が集まったこの大会は、大盛り上がりを見せるのでした。
その後、今度はいよいよ今回の旅のメインである、翌日に村の福祉作業を一緒に行うPAPRIが組織する少女グループ「キシュリ」のもとへ向かいます。また別の集落に移動したのですが、移動中のオートリキシャに乗る皆さんの様子がだいぶ板についてきていて、何だかとても嬉しくなりました。集落ではキシュリメンバーが全員集合して待っていてくれました。早速、自己紹介からの交流が始まります。お互い同年代ということもあり、名前や出身地、大学名などを初対面にしては比較的親近感を持って伝え合っていきます。
さらにお互いの夢を語り合い、今一番欲しいものという問いに、キシュリメンバーは「バングラデシュという私たちの国の名前を今、皆さん全員で言って欲しい」や、「日本の国歌を唄ってもらいたい」という言葉で返してくれました。その中でも特に印象に残っている言葉は「ここにいる日本の皆さんと握手がしたい」というものでした。普通の日本人の感覚だと「新しいiPhoneが欲しい」や「車が欲しい」という物理的なものが頭の中に浮かびがちですが、キシュリの少女たちが表現した「握手をしたい」に代表されるように「人とのつながりによる心の充足」=自分の幸せ、という価値観を垣間見た気がしました。
PAPRI事務所に戻った私たちをPAPRI代表のバセット氏が迎えてくれました。急遽訪れた代表と直接話すチャンスに、急いでミーティングルームに集まりました。バセット氏はPAPRIの設立から現在に至るまでの歴史や、現在置かれている状況、今後力を入れて生きたい分野とそのために必要な事などを、丁寧にレクチャー下さいました。
バセット氏との対話を終え、夕食の時間まで部屋で休息の時間を取りましたが、ここで停電トラブルが発生。バングラデシュの農村部ではこういった停電が頻繁に起こりますので、こういう事態に備え持参してきたヘッドライトや懐中電灯を荷物から引っぱり出し各自で対応。夕食も灯油ランプの灯りの下での食事となりました。右手を使っての食事にもだいぶ慣れ、少々のトラブルでも動じません。頼もしいかぎりです。
DAY4 キシュリとの福祉共同作業(トイレ作り)
この日は丸一日、キシュリの少女グループと一緒に屋外での肉体労働の日です。幸い天気にも恵まれ作業日和となりました。
バングラデシュの農村部ではトイレ環境が整っていない事が多く、その場合多くの村人は野外で排泄するため、その糞便などによる衛生環境の悪化が以前から大きな問題となってきました。バングラデシュ政府もトイレ作りやトイレの使用を推奨してきましたが、まだまだ普及は十分ではありません。PAPRIが組織する少女グループ「キシュリ」は普段は女性の権利について相互学習を主な活動としていますが、時にはトイレがないそんな村へ行ってトイレ作りや道路補修の手伝いをしています。我々もその作業を少しでも手伝うべくキシュリのメンバーと共にトイレ設置作業をします。
装備を整えいざ出発。まずは材料を調達に、トイレ部品の専門のお店に行きます。
これらの材料購入費は、参加者みなさんから頂いた旅行代金の一部からまかなわれています。
材料調達終了後、実際にトイレを設置する集落へ移動し、キシュリメンバーと合流した後、早速作業に取り掛かります。作業の様子を少しだけ写真で紹介しましょう。
熱を帯びてきた作業の途中、PAPRIから運んでもらったベンガル定食を昼食に、一休み。
昼食後、私はPAPRIスタッフと一緒にトイレの囲いに使うトタン板を調達に近くの町まで出かけ、参加者みなさんの午後のトイレ作り作業は専門技術が必要となる仕上げ作業が多く、それらの作業はお手伝いに来ていた職人さんにお任せし、キシュリメンバーとの交流へと午後のプログラムを変更しました。
私たちの交流の間にも職人さんによるトイレ作り仕上げ作業は佳境を迎え、支柱の周りに買ってきたトタン板を釘で打ちつけ固定し、最後に屋根を取り付けて完成です。最後にこのトイレを実際に使用されるシカさんと一緒に記念写真を撮影し、作業終了となりました。
作業終了後、私たちとキシュリメンバーは集落の皆さんに別れを告げ、PAPRI事務所へと戻ります。その途中に広がる農村の畑に立ち寄り、麻やナスなどの畑の様子を歩いてみてみました。
丸一日の程よい疲労感に包まれたままPAPRIに戻り夕食。デザートにはジャックフルーツが登場! 初めて見る人も多くその見た目の大きな果実からは想像できない、甘~い果肉にしばらく「ジャックフルーツPARTY」は続きました。翌日、いよいよアムラボ村を発ちます。
DAY5 キシュリとベンガル料理作り そしてダッカへ。
この日の昼食は、キシュリメンバーとベンガル料理をつくることになっています。なので、その食材を調達しに、眠い目をこすりながら村の朝市へでかけます。朝市はPAPRI事務所から徒歩1分ほどの場所で、朝6時の市場は多くの村人で賑わっていました。私たちはジャガイモや玉葱やナスなどを購入し、そのまま市場周辺の村散策へでかけました。河辺の船着場や学校、麻畑など朝のさわやかな気温の中の村散策を楽しみました。
朝市と村散策後、朝食をいただき、キシュリメンバー合流までしばしの休息。部屋で休んだり中庭で参加者同士のおしゃべりをしたり、昨日干しておいた洗濯物を取り込んだり、みなさん思い思いの時間を過ごしていました。午前10時頃キシュリメンバーが合流し、今朝朝市で買ってきた野菜を使った昼食のベンガル料理作りを開始。キシュリメンバーの少女たちは普段から料理をしているらしく慣れた手つきで下ごしらえを進めていきます。参加者みなさんも普段使い慣れない調理器具に悪戦苦闘しながらお手伝いをしていました。屋外でかまどをつかって調理をしようとしたところで、今回の旅で一番のスコール! 中庭が湖となり隣の人との会話も顔を近づけないと聞き取れないほどの豪雨が40分ほど降り続けました。そこで急遽火を使った料理は室内の台所へと切り替え調理を続けました。
野菜を使ったベンガル料理は無事完成し、全員でおいしくいただきました!
そして、お世話になったPAPRIスタッフやキシュリメンバーともお別れの時間が近づいた頃、PAPRI代表バセット氏との最後の対話の時間をいただくことができました。バセット氏からは様々な言葉を頂きましたが、「様々な大学から来られた皆さんが日本に無事帰国され、バングラデシュで体験され学ばれたことを、それぞれの大学や社会で広めて下さることを期待しています」という言葉が、今回私たちがアムラボ村滞在中に得た様々な経験の生かし方を象徴しているように思えました。最後にバセット氏から1人1人「活動感謝状」を頂きました。バスが出発するときにはPAPRIスタッフやキシュリメンバーが見送ってくれました。やはり別れは寂しいものです。いや、必ずまた会いましょう! ありがとうございました!
PAPRIを出発し、アムラボ村ともお別れです。ダッカに向かう車中、まるで寂しさと達成感が交互に押し寄せてくる我々の心の中を映し出すかのように、水と河の国バングラデシュは農村部の優しく美しい風景を私たちにみせてくれました。一方、ダッカに近づくにつれ、空を覆っていた雲も一気に晴れてきて、さらに車やリキシャや人が溢れる街の様子が、「首都ダッカに帰ってきた」という実感を我々に思い起こさせるのでした。翌日からダッカ市内で、またスタディです。
DAY6 世界最大のNGO「BRAC」本部を訪問 そして帰国へ。
この日の深夜帰国の途につきますが、何といってもこの日のメインは、世界最大のNGO「BRAC」の本部の訪問です。朝、ホテルを出発し、BRAC担当者との待ち合わせ場所である、BRAC本部の高層ビルの中にある部屋に向かいます。ホテルからBRACまでの道路は朝の渋滞で、待ち合わせ時刻に間に合うかどうか! というところでしたが、ギリギリセーフ。ビルの入口でせわしなくセキュリティチェックを受け何とか間に合いました。
BRAC担当者から歓迎の挨拶を受けた後、10分ほどの活動紹介映像を拝見し、質疑応答へという流れで進められました。参加者の中には、農村部ではマイクロクレジットの現場訪問、都市部ダッカでは「BRAC」訪問をバングラデシュ渡航の大きな2つの目的と考えている方も多く、ここでも具体的且つ実践的な質問がたくさん出て、BRAC担当者を驚かすほどでした。
本部を後にし、次はBRACが運営するフェアトレードショップへ。買い物目的もありますが、どのようなフェアトレード商品が、どのような値段で販売されているか確かめるという目的もあります。その後、セントラルショヒドミナールや国会議事堂などダッカの主要な見所を訪れ、帰国の準備のため、現地手配会社オフィスにて荷物の整理と軽食を頂き、改めて今回の旅の感想などを話し合い、ダッカ空港へと向かいました。
旅を終えて…
今夏、風の学スタに初めて登場した「バングラデシュ」の新企画コース。事前に出張で現地の方々とツアー内容を詰めているのはもちろんですが、いざ参加者と共に実施となると、小さなハプニングは必ず出てくるものです。そんなトラブルも今回参加の皆さまに助けられ、印象深い旅となりました。学スタの他コース「ペルー」、「モロッコ」、「モンゴル」、「ネパール」、「国内」などと同様に、人を成長させる“出会い”や、現地の方々と共に過ごす“時間”を大切に企画しました。その中でも特にバングラデシュは、現地で学び取る要素が濃く、参加される方の目的意識がはっきりしているな、という印象を受けました。
若い世代の方はもちろん「風の学スタ」の趣旨に賛同いただいた社会人の方にも参加いただいています。観光旅行とは一味違った自分を成長させる旅、ぜひご自身で確かめてみて下さい。(竹嶋)
関連ツアー
【地球の歩き方とのコラボレーションツアー】※地球の歩き方のサイトへ飛びます
バングラデシュ マイクロ・クレジットの現場訪問と村の自立支援活動7日間
(今回報告したコース。次回は2014年7月、9月に設定予定です。詳しくはお問い合わせ下さい)
【風の旅行社オリジナルツアー】
ベンガルの伝統農法・技術を護る農村にホームステイ7日間
(2014年4月29日発)
世界一のNGO大国・バングラデシュの村でNGOの活動現場を見る7日間
(2014年5~9月毎週出発)
水・大地・人に彩られた国 バングラデシュの豊かさを知る7日間
(2014年9月14日出発)
関連よみもの
※メールマガジンで連載中「風の向くまま・気の向くまま」より転載。