漁師見習い中の川上です。前回のブログで「次の機会には、いままで貯めてきた美味しいお魚レシピを大公開します!」なんて気軽に書いてしまいましたが、ほぼ毎日魚を食べている身上、残念ながら大公開するには文字数が足りなすぎる事に気がつきました。という訳で、今回は厳選1品だけをご紹介したいと思います。
栄えあるメニュー名は!?
ダラララララララ……
……ジャン!
「チンチンのチンチン」
はい。決して暑さで頭がやられている訳でも、粗野な漁師達に影響を受けてしまった訳でもありません。
チンチンとはクロダイの若魚のこと。出世魚として知られるこの魚、関東では大きくなるに従ってチンチン→カイズ→クロダイと呼称が変化します。今回獲れたクロダイは30cm近かったので、チンチンと呼ぶにはちょっと大きすぎるサイズですが、そのあたりはまぁ、ファジーな感じでご了承いただければと思います。また、もう一つのチンチンは、中国の蒸し料理・清蒸のこと。現在の北京語では通常“チンジョン”と読むようですが、開高健によると、ベトナムで成功した華僑である蔡氏は“チンチン”と発音していたそうです。
新鮮な魚を蒸す《清蒸》料理のことを、彼がしきりにチンチン、チンチンというので、それは北京語でチンジョンというのではないかと私がいったとき、彼が鋭く眼を上げ、おれたちは北京語を喋らないのだといった
-開高健著 ロマネ・コンティ・一九三五年(文春文庫)より引用-
どこかの方言なのか北京語に共通化される以前の古語なのか定かではありませんが、ここでは誇り高き華僑の蔡氏に敬意を表し、清蒸を“チンチン”と呼ばせていただこうと思います。
お察しの通り、チンチンのチンチンはネーミング重視のレシピですが、白身の魚を使った「清蒸鮮魚」は、中国や台湾をはじめ世界中で広く親しまれている伝統的な高級料理。平野レミさんの「バカのアホ炒め」と同様、名前のインパクトだけではなく味自体も自信を持ってオススメできる一品です。
< How to cook >
- 軽く塩をして1日寝かせたチンチンに酒を振りかけ、腹の中などにショウガの薄切りと長ネギを挟む。
- 魚を皿に入れ、大きめの鍋で皿ごと蒸していく。この際、魚が皿に直接触れないようネギの余りでゲタを履かせる。
- 程よく蒸し上がったら、皿に溜まったスープと醤油、砂糖、オイスターソースを火にかけてタレを作る。
- 白髪ネギと三つ葉を飾ってタレをかけ、煙がたつほどに熱した胡麻油を「ジュワァ〜」とかけ回す。
- Enjoy your meal!
箸で掴むと崩れてしまうほどホロホロに蒸しあがったチンチン。雑食性のクロダイは時に磯臭さを持つ事があるようですが、砂浜の沖で獲れた今回の個体(胃袋にはシラスがパンパン!)に妙な風味を感じることはありませんでした。
時期のせいなのか大きさのせいなのか、さほど脂は乗っていないものの、身質はマダイに似てきめ細やかであり、コクのあるタレに絡めて噛み締めると上品なスープが溢れ出ます。柔らかな皮目の味わいも特筆すべきものであり、微かに感じる香味野菜と胡麻油の香りが加わって、ビールや焼酎がススム、ススム。少しお行儀が悪いかもしれませんが、残った汁で作ったぶっかけメシもこれまた美味。家族でつつき合い、あっという間に皿が空いてしまいました。
油っこい中華料理のイメージと異なり、薄味で素材の旨さを引き出したこの逸品。次回、程よい白身魚が確保できたら、ニンニクや香菜、トウガラシ、ニョクマムでベトナム風に蒸しあげてみたいところです。
色味の地味さから、マダイに比べると市場価値が低いクロダイ。まして小さなチンチンであれば、スーパーでも手ごろに購入できることでしょう。磯臭さが少ないとされる沖で獲れたクロダイは、色味が薄く、黒というよりむしろ銀色に近いものが多いそうです。店頭で光り輝くチンチンを見かけたら、ぜひ「チンチンのチンチン」を試してみてくださいね!
我が家では、名前も味もひっくるめて小学生の子供には大ウケでした。どうか皆さんも童心にかえってお読み、お試しいただければ幸いです。