「突然ですみません。私の知っている西村裕志さんを探しています。西村さんは京都の出身ではないですか? なかったら違う方なのでごめんなさい、もう何十年も前の中学校の同級生なので」
「でも、プロフィールを見て京都の大学を卒業しアメリカに留学とあったので、もしかしてと思いました。突然の失礼、どうぞお許しください」
コロナ禍でSNSをのぞくことが多くなっていた師走のある朝、手元のスマホに飛び込んできたメッセージだった。
京都生まれ、同級生、京都の大学 ……そこに並んでいたいくつかの文字を読み返したあと差出人がM・Sとあるのを見ていてようやく合点がいった。
中学校とあるのは、母校である京都教育大学附属中学校のことで差出人のMさんというのはその頃の同級生である。小学校から高校までを備えた国立大学の教育実験校という役割を担うその学校は、他の地域の公立校や独自の教育理念をもつ私立校とも違う校風があり、エレベーター式に進級する同級生は、自由な雰囲気のなかで兄弟姉妹のような独特の濃密な関係で互いに結ばれていた。
当時、Mさんは男子生徒にとって「マドンナ三人娘」のひとりであった。三人とも、とびきりの美人で、成績も優秀、女性としての魅力も申し分なかった。ただ、勝ち気でいたずら好きだった他の二人と違って、男子の他愛もない話にいつもイヤな顔もせずニコニコしてつきあってくれる優しいところが彼女にはあった。
「突然メッセージをもらって驚きました。中学校でご一緒していた西村です」
何十年もたってなぜ自分を探しているのか、理由が見つからなかったが結局そう返信してみた。そうすると待っていたようにすぐにメッセージが返ってきた。
「本当に西村くん? 流れ星を一緒に見た西村くん? 同窓会で誰も消息を知らなかったからずっと気になっていたの。お元気そうでよかった、あらためてお久しぶりです!」
中学生の頃の遠い記憶をたぐり寄せ、日本海に面して祖父が建てた海の家に、Mさんを含め男女同級生の何人かで泊まりがけの海水浴にいったことがあるのをようやく思い出した。流れ星とはそのとき浜辺で皆と見たことを彼女は言っているのだろう。あれから何十年も経っているのに「流れ星を一緒に見た…」といきなり話し出す彼女の様子を想像して思わず苦笑した。
京都の女性特有の芯の強いしっかりしたところがあったが、同時に無邪気さの抜けない彼女の明るい性格は今もそのままのようだった。
卒業以来初めて出席した同窓会でMさんは私の消息を聞いてまわったが答えられるものは誰もいなかったのだという。
「それからずっと気になっていて……だからSNSでみつけた名前を頼りに思い切ってメッセージを送ってみたのよ」
何度かそんなメッセージの往復があって、年末年始にはMさんの声がけでZOOMを使ったリモート飲み会にも参加させてもらった。そうして音信不通だった懐かしい面々とも久しぶりに会話を交わすことができた。コロナ禍でリモートでのやり取りが一気に当たり前になっていなかったら、長い間しまい込まれていた縁がこうして再び始まることもなかったろう。
父親のあとを継いで税理士になったFくんは今ではヒゲを蓄え貫禄十分でロータリークラブの会長も歴任し京都の名士になっていた。学年でというより全国模試でいつもトップの成績だった天才肌のTくんは京大医学部に進学し医者となり美人の奥さんをもらって悠々自適の様子である。カメラのライカの有名な収集家を父に持つYくんは美大を出て写真家となり今は都内の荻窪に住んでいるという。SNSの大海から私を見つけ出してくれたMさんは、大学を卒業後、日系航空会社の客室乗務員となり、結婚してからは銀行への転職を経て今も地元の役所で元気に勤務している。
皆、順風満帆の様子で羨ましい限りだが、お酒が入りおたがい遠慮がなくなると、それぞれが抱えている仕事や家庭の苦労も実はあったりで、一人ひとりが今も人生を精一杯に歩んでいることに気づかされる。
時が過ぎ、それぞれ容貌もすっかり変わったのに、少し話せばおたがい当時のままの姿に見えてしまう。同級生とはいつになっても、まことに不思議なものだ。
コロナ禍をなんとか乗り越えたら、いつまでもモニター越しに情報交換しているだけでなく、是非とも、どこかで再会したい、できれば皆をクルーズの旅に誘いたいと心から願っている。