願望から見通しへ

昨年の4月6日、弊社は営業を止め休業に入った。1回目の緊急事態宣言の前日のことだ。シラス漁の副業を始めたスタッフがいるとHPに書いたらNHKがやってきた。3時間を超える取材を受け、雇調金の不備を訴え旅行会社が置かれた苦しい状況を語ったが、シラス漁にすっかり圧倒され伝えたかったことは何も取り上げられず、マスコミの身勝手さを改めて感じもした。あれから1年。何が変わったのだろうか。

大きな違いはワクチンが登場したことだ。変異種は心配だが希望はある。秋には、国内旅行の本格的な再開を、年明けには海外旅行の段階的再開を期待したい。昨年のこの時期にも、夏には海外旅行が出来るようになるだろうという期待が旅行業界内にはあったが、根拠のない願望に過ぎなかった。

私にはSARSの苦い経験があったので、新型コロナが上陸した瞬間に1年以上の長期戦になると直感した。今でも思い出すと冷や汗が出てくるが、SARSが日本に上陸したら終わりだ、という恐怖感で、あの時は圧し潰されそうなになっていた。“仕事ができなくなる。会社はどうなる。教育費は、生活はどうする” 。私は取り乱し、すぐに人員を削減し出向もさせた。そのせいで、貴重な人材を失い元へ戻すのに数年を要した。今回は、年齢を重ねたせいか、長期化するとは思ったがじっくり対処できている。

雇調金の特例が決まり、6月までの3か月間は15,000円/日の助成が受けられることになったので、「4/6から営業を止め全員休業に入る。今、弊社の“武器”は仕事が全くないことだけだ。だから営業を止めて雇調金の助成を最大限受けることにする。夏には海外旅行ができるなどと期待しツアーを作っている会社もあるが長期戦になる。今は、自分と家族を守り、生活を守ることに傾注しろ。会社のことは考えなくていい。今のうちに副業でしっかり稼いでおけ」と指示をした。

売上の殆どを失って1年経つのに、今もスタッフの雇用を維持したまま生き残っている。これは奇跡に近い。すべては、雇調金の特例がくり返し延長されたからだ。私の力ではない。弊社がツアーを作っている国々は、ほとんど国の支援などない。日本は何と恵まれているのかと感謝も世の不条理も改めて感じた。しかし、今月には雇調金の特例が終わり、且つ、昨年の6月までに助成を受け始めた会社は今度の6月末で助成を受けられなくなるから、弊社も含めほとんどの旅行会社は命綱をきられる寸前に今はある。ここからが本当の正念場である。

新たに出向に12,000円/日の助成金が出るので、そちらへの切り替えを図ってはいるが簡単ではない。勤務地、年齢、勤務時間など難しい条件をクリアーしなければならない。問題は求人の少なさだ。残された時間はあと2か月弱である。

7月以降も、何名かで国内旅行を作りながら縁shopで人の縁をつないでいく。国内旅行も、変異種の拡大が抑えられなければ、暫くはまともにはできないかもしれない。“無理せず休眠した方がいい”という意見もあるが、ここまで粘ったのだから、今さら人材を失うような策は出来るだけ避けたい。

夏を越せばワクチン接種が進み状況も落ち着いてきて、旅行が出来る雰囲気が生まれてくると期待している。願望ではなく、50%程度は根拠のある見通しである。もっとも、海外旅行は、そのずっと先である。

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