筆触分割

先日、新宿で2時間ほど時間が空いたので、SOMPO美術館に立ち寄ってみた。「スイスプチ・バレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ」をやっていたが、スイスプチ・バレ美術館などといわれても何のイメージも湧かない。SOMPO美術館のHPでは、スイスプチ・バレ美術館は、1968年に実業家オスカー・ゲーズ氏のコレクションを公開する目的で設立され、19世紀末から20世紀世紀初めのフランス近代絵画中心の蒐集だと解った。

なんの予備知識もなく行ったが、釘付けにされた作品が一つあった。オーギュスト・ルノワールの《詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハ肖像》1913年油彩である。首から胸にかけて大きく開いた銀一色の光沢のあるロングドレスを着た夫人が、椅子に腰かけている。右足の上に組んだ左足の太腿がドレスの上からでも窺える。二の腕から露わになった右腕をほぼ直角に曲げて肘掛けに載せ、右肩を少し前に出し、その肩とは逆に左足を右足の上に組んで体を少し捻っている。ふくよかではち切れそうな肉体からは自信が溢れ圧倒的な迫力で迫ってくる。

ルノワールの絵に登場する女性はみなふくよかだが、まるで花に包まれた奇麗なドレスを着ているお嬢様というイメージで、迫力とは無縁だ。実は、私はあまりルノワールの絵が好きではない。それなのに、この絵は全く違っていた。ルノワールは印象派の代表的な画家だが、晩年は古典主義に回帰していたとう。元々印象派の中では輪郭をはっきり描く方だが、この絵は1913年という晩年の作品だから、私のイメージとは違ったのかもしれない。

印象派を紐解くキーワードには、カメラ、チューブ絵具、屋外制作、筆触分割、などがある。19世紀末はカメラが一般に普及し、絵画で物・人をそのまま描くことに疑問が生じた。それに絵画は、時間も費用もカメラとは桁違いにかかる。そこで、対象物を描くのではなく、それを観ている人間のイメージを描く。即ちカメラでは写し取れない絵を描くことが求められた。

特に19世紀中ごろに登場したチューブ絵具は屋外での制作を容易にした。それまでは、絵の具の持ち運びが難しく絵は屋内で描くものだった。屋外で絵を描くようになると、刻々と移り行く一瞬の光を捉えるため、パレットで絵具を混ぜずに原色をそのままカンバスに置く「筆触分離」という技巧が生まれた。色は混ぜれば暗くなる。混ぜない印象派の絵は、当然だが明るい。

SOMPO美術館には、あの《ひまわり》がある。しばし前に座って眺めた。最近『ゴッホの手紙』を読んだので、《ひまわり》を描いていたころのゴッホの心境を想像した。なんであんなにもゴーギャンに恋焦がれたのか。その結果が、あんな悲しい結末ではやりきれない。画家であり、類まれな告白文学者であるゴッホに献杯。

10月11日から全国旅行支援が始まりました。ところが、まだ各県の詳細が出そろっておりません。予約済みの旅行も対象になりますが、既にご旅行代金を受領済み、ないしは割引なしの請求書お送りしているケースがございます。恐縮ですが、各県の詳細が出揃い制度の全容を確認の上、11月中旬を目途に精算したいと考えています。これからご予約の方には、割引をした上でご請求させていただきます。各社、現場は混乱していますが、今しばらくお待ちください。

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