上野の国立西洋美術館で「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」をやっている。展示期間は、来年の1月22日までだから、その内に時間ができたら観に行こうと思っていたが空き時間ができたので立ち寄ってみた。
国立西洋美術館のHPによれば、ベルリン国立ベルクグリューン美術館とは、世界有数のコレクターの1人、ハインツ・ベルクグリューンのコレクションを、2000年にドイツ政府が買い取りこの名称に改称している。今回、同美術館の改修を機にコレクションの一部97点が世界に貸し出され、日本にもやってきたというわけだ。同コレクションはパブロ・ピカソの作品が中心で、本企画展でもピカソの青の時代から晩年までの作品が数多く観られる。これにパウル・クレー、アンリ・マティス、アルベルト・ジャコメッティの4人、さらにはポール・セザンヌを加えての展示となっており中々の観ごたえである。しかも97点中76点が日本初公開だそうだ。(国立西洋美術館のHP参照)
企画展に限らず、絵を見に行くと、体の芯を打たれたような衝撃を受けることがある。今回は、ピカソの「男と女」(1969年)と「闘牛士と裸体の女」(1970年)の2枚並んだ展示、これがそうだ。2枚とも大きな絵で、目に飛び込んできたときのその迫力が凄い。
特に「闘牛士と裸体の女」に引き込まれた。向かって画面左側は濃いが明るい青と赤、右側はくすんだ青と赤、地面は明るい緑に塗られている。その上に白い肌の裸体の女が、絵の中央に浮かび、背後にグレーのマントらしき物を纏っている。左を向いた女の顔の前には女を見つめる闘牛士の顔がある。その顔は、袈裟懸けに右上から引かれた線で区切られ、右半分は牛の顔のようだ。頭には白い2本の角のようなものが左右にプロペラのように伸びている。女の脚の近くに突き立てるようにして持たれた赤い柄の剣が闘牛士の印だ。描かれた一つ一つのフォルムから溢れるような躍動感が伝わってくる。ピカソは、イメージが纏まったら一挙に描くに違いない。且つ、全体の色遣いの絶妙さに瞬時に引き込まれてしまう。
両作品とも、ピカソ晩年の作品である。「アビニョンの娘たち」を描いたのが1907年。その後、一時期は、ジョルジュ・ブラックとキュビズムにまるで実証実験のようにのめり込み、1937年のゲルニカ爆撃に衝撃を受けて「ゲルニカ」を描き、同年のパリ万博に出品している。両世界大戦を経験して1973年没。世界で最も多作な画家としてギネスにも載っているが、ピカソ没を私は高校生のころニュースで知ったくらいだから17年くらいは同時代を生きたといえよう。そのことも衝撃である。
そのピカソが、アンリー・ルソーの作品に衝撃を受けて「アビニョンの娘たち」を描いたのではないか、という興味深い小説を原田マハが書いている。『楽園のカンヴァス』(新潮文庫)である。小学生が描いたようだと一部から揶揄されるアンリー・ルソーの絵は、不思議と心のどこかに妙に引っかかる。世田谷美術館が所蔵しているというから機会をみて行ってみたいと思う。