日曜日の夕方、秋葉原の電気街は外国人だらけだった。予期してはいたが 「日本人はどこだ!」と叫びたくなるほどの外国人の群れ、群れ、群れ! サブカルチャーの聖地は、賑やかさを通り越して頭痛がしてくるほどだ。中野もサブカルを求め外国人は来るが遥かに大人しい。秋葉原はサブカルの雰囲気ムンムンだ。中野でよかった。私には秋葉原は辛すぎる。
この日は、18時半から万世橋区民会館で“異世界の愉しみ!”というイベントがあり、鈴木裕子さんが「3時間しゃべります。誰か来て」というので、私が拝聴しに出掛けた。鈴木さんとは5月に都心の某ホテルで開催されたモンゴル観光の或るイベントで出会った。「こういう本出しました!」と猛烈に営業をかけられた。
この人、面白そうだと直感し、後日、事務所に来ていただいた。わたしは、彼女のことは知らなかったが、会社には、「その人の本読みました!」というスタッフもいたくらいだから、知る人ぞ知る“話題の人”である。その人の本とは『まんぷくモンゴル!公邸料理人、大草原で肉を食う』(私たちの旅ブックス、鈴木裕子著)だ。題名からしてインパクトがある。
鈴木さんは、在モンゴル日本大使館で3年間公邸料理人をされていた。前職は、保育園で18年間、調理師。本人曰く“給食のおばさん”だった。食べることと作ることが大好きで、日本料理、西洋料理、中国料理、すし料理、給食用特殊料理、麺料理に分かれる専門調理師実技技能士の資格をすべて取得。それを活かしたいと思っていて見つけたのが公邸料理人という仕事。
“外国で料理人の仕事をするなんて面白そう”と応募。「あなたモンゴルでも行く?」という窓口の担当者の意味深長なことばに、モンゴルという国を全く知らずに頷いてしまったようだ。しかも、暑いところよりどちらかというと寒いところがいいという理由だけで! “でも”とは「にでも」なのか「であっても」なのか解らないが、どこか、私と経歴が似ている。
期せずして始まった、モンゴルでの公邸料理人の生活で感じた「食べる」に関することを思いっきり文字に落とした一冊だ。私は、「そうなんだよ。その通り、え? 少し違うかも? え? そんなの初耳だぞ!」ってなことを思いながら楽しく読めた。文章は、何故か詩的な感じがする。簡易な文章だが妙に哲学的でもある。
この本の雰囲気を幾つかのキーワードでお伝えしたい。「赤いはいのちの色」「肉こそ人が食べるもの」「聖なるミルクのおかげさま」「知れば知るほどモンゴルのお乳は飲みものであるより食べものだった」「美味しいはいつもしあわせ」「モンゴルにないものは日本にあるかもしれないが、日本にないものはモンゴルにすべてある」。
鈴木さんは、大好きなモンゴルに健康としあわせを贈りたいと「Japanese chef YUKO’s vegetable and cookbook for MONGOLIANS」というモンゴル語の本をモンゴルで出版された。赤、緑、黄色、茶、白の野菜のカラー写真がふんだんに使われている。モンゴル人に野菜料理を教えるなんてなんと大胆なことかと驚いてしまう。第一、モンゴル人に読んでもらうために日本人が本を書いたという話はあまり聞かない。
この夏は2か月間、日本語が通じない遊牧民の世界で過ごすそうだ。もっとパワフルになって帰ってこられるに違いない。楽しみだ。