“理性、論理、常識、TISCH(ティッシュ)の芸術学校で?嘘だろ?”
名優ロバート・デ・ニーロは「今日は皆さんと一緒にお祝いするためにお招きいただき、ありがとうございます。TISCH(ティッシュ)卒業生の皆さん、やり遂げましたね。でも、君らは終わっている。」と酷いslang交じりで、スピーチを切り出した。2015年の5月22日、71歳の時だ。最後の“And you’re fucked(君らは終わっている)” でNew York University’s TISCH School of the Arts.の卒業生から拍手と指笛の大喝采を浴びた。
考えてもみな。看護学部や歯学部の卒業生は必ず雇用される。ビジネススクールの卒業生も問題はない。ロースクールの卒業生も大丈夫だ。会計学科の卒業生もみんな仕事がある。彼らは、成功と安定が予想される仕事に就くために、理性と論理と常識を用いたんじゃないか。君らにそんな選択はできたか? “理性、論理、常識。TISCHの芸術学校で?冗談だろ?”君たちは自分の才能に気づき、野心を抱き、自らの情熱を理解した。そう感じた以上、もう抗うことはできない。従うしかない。今日、君たちには拒絶の扉が開かれた。一生、拒絶され続けるだろう。避けられない。これが実社会だ。しかし、拒絶されたら自分が悪いなんて考えなくていい。“Next”だ。やるべきことは明確だ。Break a leg(がんばれ、幸運を祈る)!
大分要約してしまったが、冗談交じりで皮肉もたっぷり交え、社会に出た途端に終わっているような卒業生たちの選択を、自分と同じだと歓迎をし、自分もTISCHの内輪だと思ってやってきたと言っては、また拍手喝采を浴びている。
実は、私は、ロバート・デ・ニーロが大好きだ。1974年のゴッド・ファーザーPARTⅡの若きヴィトー・コルレオーネ、タクシードライバーのトラヴィス、ディア・ハンターのマイケル、レナードの朝のレナード、そしてこのスピーチをした2015年のマイ・インターンのベン。意外に優しい声質で、か細い声だ。あのヴィトー・コルレオーネが、紳士で道理をわきまえながらも少しだけ熱の思いをもったベンになる。ロバート・デ・ニーロの人としての成長が、役に重なるようだ。
私自身、自分の思いに抗うことができないまま、ここまで来てしまったように思う。多少年齢を重ねて、無茶をすることは少なくなったが本質は変わっていない。否、変わりようがない。他者を気にしない。前へ。“Next!”