この3月6日(木)から1泊2日で、福島県飯舘村の「いいたてフィールドミュージアムツアー 環世界探索紀行」というモニターツアーに参加してきました。かれこれ17~8年前の「やまがた観光まちづくり塾」で知り合い、飯舘村でも活動されている馬場誠さんからの招待でした。
飯舘村は江戸期、中村藩(藩主・相馬氏)の領土で、海のない阿武隈高地の中にあり「山中郷」と呼ばれていました。ご存知のようにこの村は、東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故の影響で深刻な事態を招きました。土壌からは放射性物質が検出され、全村民の9割ほどが避難をよぎなくされました。現在は一部の地域を除き避難区域は解除されています。
さて、そのモニターツアーですが、とても刺激的な内容でした。企画・主催は(株)MARBLiNG(マーブリング)という組織で、マーブリングとは水面に絵の具を垂らし、作った模様を紙などに転写する技法、のことだそうです。
ツアーのイントロダクションでは図図倉庫(ずっとそうこ)という場所で、プロデューサーの矢野淳さんが語り始めました。宇宙の始まり、インフレーションからビッグバンにいたりそして素粒子の誕生などなど、大きな図面と語りで現在の飯舘村へと導いてくれました。その他、盛りだくさんのツアーの内容は別にあらためるとして、とても気になったコンテンツを紹介しておきます。
まず1日目に村内にある、東北大学惑星圏飯舘観測所を訪ねたことです。阿武隈高地の山中にあるこの施設の大きさにびっくりしました。観測所内のドームにも入室でき、東北大学准教授の三澤浩昭先生の映像メッセージも拝見できました。地道な研究の積み重ねで世界(宇宙)が少しずつ解明されていくのだなと、つくづく感じました。
次にエピローグの場で現在、飯舘村に暮らしている福島再生の会理事長の田尾陽一さんの話しです。ギリシャの哲学者の話から始まり、現在の宇宙論まで簡略に説明されてから、普通の社会の組織論とは違う「この指とまれ」で集まってきた人々と動き、暮らしており、「風と土の家で、今、少年のように楽しんでいる、」、「ここで死ねるか?」と柔らかに語ってくれました。田尾さんは1960年代後半の東大紛争で、その渦中にいた方です。
さてこのツアー中に聞いた話ですが、天明の大飢饉は、相馬中村藩にも甚大な被害をもたらし、飯舘村を含む領内に多くの北陸からの人びと(真宗信徒)がやってきて飢饉後の農村復興に当たったそうです。芥川賞作家の柳美里さんの全米図書賞を受賞した「JR上野駅公園口」にも、江戸期の南相馬市地域への移民が北陸から真宗のお坊さんに連れられてきた人たちだったと書かれていました。
そして、このモニターツアーに関係する多くのスタッフも、地元の生産者やお店の方々を除くと、ほとんどが“よそ”から来た方々でした。居場所を失くし、喪失した「ふるさと」は再生が可能か?という問いが、改めて頭の中をよぎっています。
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追記です。前々号の「遠野物語を読む」で約束した村上大輔さんの論文「民俗学のフロイディアン・メソドロジー ~『遠野物語』の人類学~」(出典・駿河台大学 『論叢』 第68号 令和7年(2025)2月 発行)もご参照ください。こちらも刺激的です。