文●得田充(東京本社)
ウォンディフォダンの小学校
校庭を埋め尽くす朝礼
ガソリンスタンドの建つ広場を取り囲むように商店が並ぶ小さな町ウォンディフォダン。その町の一角にある学校を訪れた。ちょうど朝の全校集会の最中で民族衣装を身にまとった子供たちが校庭をきれいに埋め尽くしている。よく見ると校長先生らしき人が英語でスピーチをしていた。聞くと朝礼は国語のゾンカ語と英語の両方でアナウンスされるそうだ。
英語が第二公用語としてしっかりと浸透しているようで、多くの日本人が抱えているような語学への壁はここでは感じられない。その後、生徒の代表が最近起きたニュースを話し、国家斉唱にあわせて国旗が掲げられた。
ブータンでは通学途中にお弁当を手にした子供たちの姿をよく見かけた。家が学校に近い子供は一度お昼に帰宅したり、場合によっては学校近くのお店で軽食を買うこともあるらしいが子供たちの多くはお弁当を持って通学する。寮制の学校では給食もあるそうだが私達が訪れたウォンディフォダンの小学校では学校の決まりで、お弁当を持って行かないと一度家に帰され、2度目には親が呼び出され校長先生にお叱りを受けるという。
無邪気な笑顔の子供たち
恥ずかしがりながらも好奇心旺盛
朝礼が終わると校庭を取り囲むように建てられているクラスにみんなが散ってゆく。見慣れない我々に好奇心いっぱいの笑顔で近寄ってくる子、この人たちは誰だろうと不思議そうな顔をして通り過ぎでいく子、恥ずかしがりながらも興味がありそうな子。そんな子供たちのワクワクが伝わってきて心が躍る。こんな無邪気な反応に触れたのはいつ以来だろう。
大黒柱のある教室
その後、運良く学校で一番下のクラスにあたるPP(pre primary)をのぞかせてもらえることになった。突然の訪問者に子供たちはソワソワしながらも快く歌と踊りを披露してくれ、訪問を前から知っていたかのように時間を割いてくれた。今回案内してくれた日本語ガイド(ウゲン)の日本を知っていますか?という質問には元気よく手をあげてくれたが、日本語ガイドになりたいですか?の質問にはきょとんとした顔をしていた。日本語ガイドを目指す子はブータンには日本語学校がないため、隣国のインドやネパールに行くことになるそうだ。
ブータンの学校制度
ブータンは6-2-4の学校制度で、8年生(日本の中学2年生)までは義務教育にあたる。地方ではまだ学校に行かない子供もいるので就学率は100%ではないものの公立学校ならば誰でも無料で授業料を受けられ、教科書も無料で支給される。ちなみにこれら公立学校の教育費用は観光客が支払う公定料金にその多くがまかなわれている。(但し制服、文房具、特別授業などの費用は各自負担なので、家庭への負担が全くないわけではない。)その後の進学は各自負担となるが驚いたことに、たとえ海外留学などで一度国を出ても9割の学生が、ブータンでの生活がいい、ブータンのために仕事がしたいと、帰国する道を選ぶ。これは欧米の有名エリート大学に進学したものでも例外はないそうだ。
今回の学校訪問を通して
ブムタンの小学生
パロの小学生
ティンプーの私立小学校にて
ブータンの学校は、先生が生徒に何かを教えるというより、生徒が自ら学べる環境を作っているという感じがした。近年、日本で導入されている英語のORAL(口語)クラスのように特別にネイティブの教師に教わるのではなく、聞いたり、話したり、英語に触れる時間が学校生活の中に当たり前にある。そんなブータンの子供たちに勉強はしたけど英語が話せないという悩みはないだろう。
民族衣装のゴやキラも制服に普段着、そして晴着と生活の中に活躍の場が用意されているし、そんな当たり前の生活の中にブータンの魅力がたくさん詰まっているように感じた。今は国民の9割が農業に従事しているというこの国も、いずれオフィスワークをする共働きの夫婦が増え、コンビニエンストアができ、コンビニ弁当を持って登校する生徒が現れる日が来るのだろうか。
ブータンが初めて訪れたものに懐かしさを感じさせるのは、日本では薄れてしまった伝統文化が色濃く残っているからかもしれない。無くしてしまうとすぐには取り戻せない文化を大切に独自の発展を遂げてほしい。
※学校見学の際は、授業のさまたげにならないようにご配慮願います。長居は学校側への迷惑にもなりますので、節度ある対応をお願いいたします。
※学校によっては観光客の見学を歓迎していないところもございます。
※試験期間中は一切見学できません。