いざ「オグロヅルの里」ポブジ谷へ
ポブジ谷はブータンを東西に貫く「国道1号線」を、ウォンディフォダンからトンサに向けて走り、ペレラ峠の少し西側で分岐点南下するとたどり着く広大な氷河谷です。世界的にも希少なオグロヅル(Black necked crane)が冬の間、越冬のためヒマラヤ山脈を飛び越えてやってくる地としても有名です。電気を引くために電柱を立てると、ヒマラヤを飛び越えてきたオグロヅルたちが引っかかって怪我をしてまうかも知れないと「電気を諦めてツルを取った」というエピソードとともに紹介されることが多いのですが、実際は、電柱を立てるより時間は掛かったものの電線の地下埋設工事によって村の電化は進みました。とは言え、この谷の人々がツルたちを大切にして共生していることは間違いありません。
そんな「オグロヅルの里」ポブジ谷でのホームステイの様子をご紹介します。
ホストファミリーのソナムさん一家
ホストファミリーであるソナムさんとそのご家族は、ポブジ谷の北側ガンテ村に住んでいます。オグロヅルの保護を目的に作られた王立自然保護協会(RSPN)のインフォメーションセンターからすぐ近くです。ガンテとは「山頂」という意味で、ポブジ谷の中央部に岬のようにせり出す小高い丘の頂上部に建つガンテ僧院を指します。広い谷のあちこちから仰ぎ見ることができる僧院は谷の象徴ともいえます。
この家の女主人はソナム・ユデンさん(35歳)。ソナムさんのお母さんサンゲ・オムさん(81歳)、旦那さんのカルマ・テンジンさん(31歳)、3人の息子と暮らしています。18歳になる長男は、3歳のときに家の庭に埋まっていた経典(埋蔵経典=テルマ)を発見し、その後、高僧の生まれ変わりだと認められて、現在はパロのお寺で修行中です。将来はブータンの宗教界を背負って立つことを期待されているくらいの高僧だそうです。そのため、ソナムさんは村では「ユム」(母親を指す尊敬語)と呼ばれています。
ソナムさんとサンゲさん母娘は、家の周りでジャガイモやカブの畑を耕し、牛を飼って乳からチーズやバターを作って暮らしています。元はガンテ僧院の僧侶だったというカルマさんは、還俗してソナムさんと結婚し、現在はフリーのドライバーとして働いていて、風の旅行社のお客様も何度もご案内しています。3人の息子たち(15歳のシャチャ・テンジン、12歳のサンゲ・ドゥルクパ、4歳のクンザン・テンジン)のうち上の2人は近くにある学校に通っています。お婆さんと末っ子のクンザン以外は英語が話せます。もちろん、ガイドも同じ家に泊まるので、コミュニケーションで困ることはありません。
ただし、ブータン人にとっては「お客様に手伝いをさせるなんて失礼」という考え方がまだまだ一般的。自分から積極的に声をかけないと家族が働くのをボーっと眺めることになってしまいますので、家事を手伝いたいと思ったら、何でも声に出してみましょう。ジャガイモやカブの畑仕事、牛の世話、乳絞りやチーズ作り、薪割り、料理など季節ごとに仕事はたくさんあります。
食事作りも手伝ってみましょう
食事作りも手伝ってみましょう
さて、どんなお宅だろう?
ソナムさんのお宅は築35年ほどの「the 伝統的な建築」です。谷に一本だけ走っている舗装道路沿いで、近所には同じような家が10-20軒くらい建ってます。家の周りはジャガイモとカブの畑。牛が闊歩するのんびりした風景が広がります。家は幹線道路沿い(と言っても通る車はまばらですが)なので、荷物の搬入も楽チンです。
2つあるゲストルームにはそれぞれベッドが2つあり、仏間にもマットレスを引いて3~4人泊まれるので一度に7-8人の宿泊が可能です。真冬のポブジ谷は寒さが厳しいのですが(とは言っても極寒ではなく12月~2月は最低気温がマイナス3~5度くらい)、ゲストルームには暖房(ヒーター)を入れてくれるし、毛布もしっかりあるので暖かく過ごすことができます。そして冬の朝はオグロヅルの鳴き声で目覚めることになります。(意外にうるさいです) トイレは2つ(和式)あって、浄化槽へ紙ごと流す水洗式なので、全く臭くありません。
電線埋設工事が完了し電気は通じているので、24時間電気には困りません。デジカメやスマホのバッテリーも充電が可能ですが、コンセントの数はちょっと少なめです。2,3名なら問題ありませんが、人数が多いと「譲り合い」が必要でしょう。
家族が集まって食事をする居間には薪ストーブがあり、暖を取るだけでなく、煮炊きにも利用します。ストーブの上にはカブの葉や干し肉などがぶら下がり乾燥されています。キッチンは居間とおなじスペースに竃がしつらえてあり、ガスレンジも利用しています。
家全体が木造なので隙間風が入ります。また板の間なので、夏は涼しいのですが、冬は底冷えします。厚手の靴下やスリッパを用意すると快適でしょう。
お風呂の設備はありませんが、石焼風呂(ドツォ)も可能です。
湯船は小屋の中なのですが、隙間がなくもないので特に女性の方は全裸に抵抗あれば水着をご用意下さい。
石焼風呂の入り方
※現地事情によってご家庭で石焼風呂がご用意できないことがあります。
※個人宅なのでタオルや石鹸などはご持参下さい。着替えを入れる袋やサンダルがあると便利です。
なぜ、ポブジ谷でホームステイなのか?
最大の理由はこのポブジ谷の環境が素晴らしいことです! すでに述べた通り、ポブジ谷には電柱がありません。広い谷を見渡したとき人工的に造られた物が民家くらいしかなく、電線が邪魔をすることもありません。しかも、民家自体がとても少なく、わずかに耕された畑も、人々の暮らしが自然の中に溶け込んでいるように感じられ、本当に美しい風景なのです。
春はシャクナゲを初め花々が咲き乱れ、夏は緑の湿原が広がり、冬は枯れた湿原にはオグロヅルたちがやってきます。
ブータンのほかの地方と比べても「のどかだなあ」と思わずにいられません。そんな谷で自然と共存しながら暮らす人々のお宅に泊めていただく。こんなに贅沢なことはなかなかないでしょう。
美しい夏のポブジ谷の湿原
さらに、ポブジ谷では、2011年から日本のJICAの委託を受けて日本環境教育フォーラム(JEEF)とブータンの王立自然保護協会(RSPN)が共同して、地元のコミュニティとともに「地域に根ざした持続可能な観光の開発プロジェクト」を進めました。(風の旅行社の代表である原優二もアドバイザーとして参画しました)
その一環としてJEEFとRSPNがホームステイの受け入れ方について指導し、ゲストのベッドルームやトイレの設備はもちろん、家を清潔に保つために掃除の仕方や、調理のの仕方、外国人の習慣とマナーなど観光客を受け入れるにはどうしたらいいのか、を村人たちに教えたのです。その結果、それまでほとんど外国人が訪れることがなかったポブジ谷に20軒ものホームステイの受け入れ先が現われました。ソナムさんたちもそのうちの1軒で、風の旅行社では彼らのお宅でホームステイを始めることにしたのです。
これまで外国人と接する機会の少なかった地域なので村人は素朴で伝統的な暮らしをしていますが、ゲストを受け入れる体制もしっかり整っています。ブータンの伝統的な田舎の生活を体験するにはピッタリの環境だといえるでしょう。しかも、ブータン唯一の国際空港のあるパロから1泊2日で来ることができるので、アクセスもよいのもお勧めポイントです。
また、地元の人たちも「自分達のことをもっと知ってもらおう」と積極的になり、自分達の文化に自信を持つようになってきたそうです。
ブータンにはいわゆる「観光地」は数えるほどしかありません。ブータンという国を知り、ブータンという国を楽しむには彼らの暮らしに入り込むのが一番です。あなたも昔ながらの暮らしを保ちつつ、自然と共存するフォブジ谷でのホームステイで異文化体験をしてみませんか?
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