添乗員報告記●温かい家族と一緒に迎える
パロ・ツェチュ祭とホームステイ9日間(2007年4月)

2007年3月31日~4月8日  文●田中真紀子(東京本社)


トンドルを前に人・人・人・・・

「生きている間に一度は行ってみたい国」の一つとしてよく名前があがる国、ブータン。 かつてはヒマラヤの小国、最後の桃源郷などイメージで語られることの多かったブータンですが、今では伝統が色濃く受け継がれている国、素朴で温かい人々、国民総幸福量 などその姿の一片をテレビや雑誌で見かける方も増えてきたのではないでしょうか。そんな魅力あふれる国ブータンのお祭、人々、風景に触れる今回のコース「パロ・ツェチュ祭とホームステイ9日間」に私も添乗員として同行させていただきました。

いざ、ブータンへ

ブータン目指して、いざ出発!
その前にまずは経由地、灼熱のバンコクで一泊。東京組、名古屋組、そして大阪組全員が無事にバンコクに到着し、全員揃って夕食へ。翌日早朝出発のため、この日は早々に就寝。

2日目。早朝まだ夜中といわれる時間にバンコクのホテルを出発。ドゥルク・エア(ブータン航空)もほぼ定刻通りにバンコクを出発し一安心。経由地コルカタを離陸した後、遠く雲の切れ間からヒマラヤ連峰が少しだけ顔を出していました。白く輝く雪山にお客様も大興奮。いよいよブータン・・・の期待も高まる中、着陸態勢へ。パロ空港は山間の谷にあるので、高度を下げる毎に窓から山々、木々、民家、タルチョなどがぐんぐん近くまで迫ってきます。飛行機に乗り慣れている方でも少しドキッとするランディング風景になるかもしれません。でもドゥルク・エアは機体も綺麗で安定しているし、パイロットの腕もいいのでご安心を!パロ空港着後は無事に日本語ガイドのシンゲさんと合流。この日はドゥゲ・ゾン、キチュ・ラカンをのんびり見学し、ホームステイ先のツェリンさん家へ。夕食前には全員で民族衣装のゴ(男性用)、キラ(女性用)を着て記念撮影もしました 。

パロ・ツェチュ祭見学


ツェリン家のみんなとツェチュ会場で
(一番左が添乗員です)

いよいよツェチュ祭見学当日。夜明け前にツェリンさん宅を出発し、一路ツェチュ会場であるパロ・ゾンへ向かいます。この日はツェチュ祭の最終日(5日目)にあたり、夜明け前に「トンドルご開帳」があります。私達がゾンに到着した5時には参道も、広場も既に溢れんばかりの人人人。
トンドル(大タンカ)は見る(トン)だけで解脱(ドル)が得られるというもので、近寄り、頭をつけることで祝福を受けられます。お客様も何名かトンドルに頭をつけて祝福を授けられたそうです!

ツェチュ祭りは地元の人々と交流できる絶好のチャンスでもあります。地元の人たちも普段なかなか会えない親戚 や友人とこの日会場で会えるのを楽しみにしているようで、あちこちで同窓会のような光景もみられました。そしてお祭の日は誰もが晴着を着てゾンに来るので、ファッションチェックもお楽しみの一つです。

午前10時頃、広場の周囲は踊り手たちを待つ観客で埋め尽くされ、祭への期待もいよいよ高まります。広場には椅子が用意されている訳ではないので、地元の人と場所を譲り合い、彼らに交じって各自持参した茣蓙(ござ)を敷いて座ります。私も知り合いの方にはお茶を振舞われたり、隣に座っていた若い女性にご主人を紹介されたり、アツァラの即興劇に一緒に笑い転げたり、ブータンの人々との日常的な交流を楽しみました。

祭りの終盤ハイライト「グル・リンポチェ八変化のダンス」。その中心にいる仮面姿のグル・リンポチェはパロ地区で最高位のラマ(高僧)が自ら仮面をつけてらっしゃいます。地元の人々にはラマ・ネンテンと呼ばれている方です。ラマ・ネンテンに限らず、法衣(肌の見えない衣装)を着ている踊り手は実は全て僧侶達なのです。(*一部の演目は王立舞踊団(RAPA)などプロダンサーによるものもあります。)


八変化ダンスの一幕

グル・リンポチェ(仮面姿)を囲んで


日本でも時々ブータンの仮面踊りの公演がありますが、ツェチュの会場で見る踊りは一味も二味も違います。舞台が違うだけで踊り手の気持ちの入り方、観客の受け止め方など全て違うのでしょう。響き渡る太鼓や角笛の音がブータンの空気とうまく溶け込み、舞い上がる埃や強い風も演出のひとつに思えるほど、すべてが調和しているように感じられます。
夕方、ツェチュ祭が終わってから間もなくして夕立が降りました。
ツェチュのすぐ後に降る雨は「神様が祭(の踊りや歌)に喜ばれている表れ」とされ、豊作・豊年の吉兆とされます。恵みの雨を受け、ゾンへ戻る僧侶達や家路へつく人々の顔はどこか誇らしげで、安堵と喜びの色がにじんでいました。
私達もツェチュの余韻に浸りながらツェリンさん宅へ帰宅。夕食前に天然の石焼風呂に浸かり、疲れを癒しました。 。

タクツァン・トレッキング&チミラカン・ハイク

パロ・ツェチュ見学とはうってかわり、趣向を変えて4日目はタクツァン僧院へトレッキング、5日目はチミ・ラカンまでハイキングでした。
タクツァン僧院へはおおよそ往復7時間強の道のり。断崖の寺院の名にふさわしく、切り立った崖の上に悠然とその姿を構えています。「え~、あんなところまで登るの~」との声もあがっていましたが、みなさん道端に咲く花や植物や空を眺め、話しながら、そして時々青空トイレをしながら(笑)どんどん上へと登っていかれていました。

チミ・ラカンへのハイキングは棚田の畦道をゆっくり歩きながら進みます。チミ・ラカンは子宝の寺として有名なお寺です。(本当にご利益あるらしいですよ!)途中、ゲンゴロウやおたまじゃくしを見つけては、皆で教えあい、はしゃぎました。歩いてきた道を振り返れば雲間から光が差し込み、山が美しく陰影をつけていました。「あぁ、なんだか懐かしい・・・」そんな言葉が自然とこぼれます。


チミ・ラカンへ続く風景

畦道ウォーキング


さよならパーティー


輪になって踊ろう♪
さよならパーティー@ツェリン宅

ブータン最後の夜はツェリンさん宅へ戻り「さよならパーティー」でした。歌と踊りが得意な近所のお母さん達が私達のために集まってブータンの唄を披露してくれました。日本側からも何かやってくれ、ということで道中シンゲさんから教わったブータン唱歌「ジョゲジョゲ」を歌い、みんなで炭坑節を踊りました。その後も宴は続き、ブータン勢が輪になって踊りはじめ、そこに一人二人と私達も参加し、輪はどんどん大きくなっていきます。簡単そうに優雅にステップを踏むブータン勢。見よう見まねで必死についていく私達。リズムよくステップを踏むお客様の横で、私はというと・・・大苦戦していました(苦笑)

パーティーの後はみんなで揃って3階へあがり、夕食。旅行中、食事がみなさんの口に合うか心配していましたが「美味しい!」と皆さんたくさん食べてくださり、ツェリンさん宅ではアマ(お母さん)のレシピが欲しい!と女性陣からはリクエストも。ポテトチーズ、かぼちゃのスープやお漬物などを教えていただきました。
悲しいかな別れの時が近づき、みんなでお父さん、お母さんと熱い抱擁をかわし「ありがとう、また来ます」と言って車に乗り込みました。きっと車に揺られながらそこにいる全員が温かいものに包まれたような心地よさと一抹の寂しさを感じていたに違いありません。

8日目。ついにブータンともお別れです。 空港の入口でシンゲさんにカタ(敬意を表すスカーフ)を首にかけて貰い、みんなで飛行機へ。 それぞれの思いを胸にブータンを後にしたのでした。

冒頭で「一度は行ってみたい国」とブータンを紹介しましたが、訪れた方の多くがブータン再訪を強く望まれるというのもまた事実。その一番の理由はやはり人と国全体に流れている空気によるのだろうな、と思いを強くした旅でもありました。ブータンの人々の笑顔は真夏の抜けるように青い空に似ていて清々しく、迷いがなく、笑顔を向けられたこちらまでふっと心が軽くなります。是非みなさんもご自分でブータンの心を感じにいってみてください。余談ですが、2008年にブータンは王制を廃止し、民主化(立憲君主化)されます。それに伴い国は大きく変わるのかもしれません。どういう形で国が発展していくにせよ、今あるブータンの良さ―緑溢れる風景、人々の笑顔、伝統など―が残ることを祈ってやみません。