2008年4月29日~5月5日 文●池内 明穂(東京本社)
伝統的民家に泊まる
タクツァン僧院トレッキングが無事に終了し、いよいよ2日間お世話になるツェリンさん宅へ向かいました。 パロの街から車で約15分。見上げる高さの大きな3階建て民家に到着です。 入口では石焼風呂の準備をしていたご主人のクンガさんが笑顔で出迎えてくれました。
ツェリンさん宅
ホームステイ到着時
ご主人のクンガさんと挨拶
重い木の扉を開け、一歩その空間に足を踏み入れると、不思議な世界に引き込まれたような、大きな何かに包み込まれたような感覚になりました。 以前は家畜小屋だったというその一階の空間は、現在では衛生上の理由で許可されておらず、別に家畜小屋を建て、空いた一階は農器具などの物置となっています。
急な階段を上り、一気に視界が開けました。西日が傾き、日差しが広いテラスを明るく照らします。テラスのベンチへ腰掛け、しばし休憩。
お母さんがザウ(煎り米)とバター茶を運んできてくれました。
到着後テラスでお茶をいただきます
中に入ると、更に急なはしごがあり、履物を脱ぎ、ようやく3階の居住空間に到着です。
仏間を中心として、その周りを囲むように7つの部屋がありました。自宅にある仏間の豪華絢爛さに少し驚きましたが、仏教が生活に根付いていることを裏付けるかのように、クンガさんは日に何度もその仏間で蝋を灯し、香を焚き、祈りを捧げていました。
私達は3人~4人で一つの部屋を使用します。食事や団欒は大広間に集まり、この伝統的造りの民家の生活を体験しました。
夜の団欒 仏教の話に耳を傾ける
応接間
お待ちかね 石焼風呂!
実は石焼風呂、準備がとっても大変なのです。
私達がトレッキング中、クンガさんは半日かけて焚き火で石を焼いていてくれました。
自宅の脇に建てられた小屋は脱衣所の段階から一人用になっていて、一度に二人が入浴可能です。間に仕切りの壁があるので、姿はもちろん見えませんが、お互いの声はよく聞えます。
浴室の造りはいたってシンプル。大人一人が足を伸ばせる大きさの木製の浴槽と、体を洗う為のお湯の入ったバケツ、そして洗面器。衣類やタオルなどは、壁のフックに吊るします。
石を焼くクンガさん
石焼風呂の準備をする
クンガさん
石焼き風呂
熱々の真っ赤になった石をクンガさんは慣れた手つきで、しかし一つ一つ注意深く運び、木製の浴槽に沈めていきます。ジュワーッ!という音が響き、湯気が立ち込めます。 順番を決め、一人約20分。まだ日の明るい夕方から入り始め、最後は星のまたたく夜の世界が広がっていました。
クンガさんは常に小屋の外で待機し、ぬるくなったお湯に石を足したり、水を準備したりと、皆さん安全に、そして最高に気持ちの良い時間を過ごしました。
浴室の中に灯った小さな光、静寂の中、芯まで温まるお風呂に身を沈め、皆さん、どんなことを感じたのでしょうか・・・。
ブータン料理を食す
民家での夕食
ブータンの家庭料理、皆さん何を思い浮かべますか?
基本は唐辛子。唐辛子をチーズで煮込んだ料理「エマ・ダツィ」に代表されるように、薬味としてではなく、野菜としてふんだんに使った料理が多いのが特徴です。(辛いものが苦手な方もご安心下さい。辛くない料理もあります)
そして主食は赤米。普段食べなれない私達にとって、粘り気のないぼそぼそとした触感にはじめはやや違和感を覚えましたが、慣れてくるから不思議です。辛いおかずが更に食欲をそそり、箸が進みます。
他、豚肉の脂身を煮込んだものや、ジャガイモのクリーム煮、大きなアスパラの一本丸ごと茹でたものなど、野菜をたくさん使ったおかずが多く、まさに健康食です。素材そのままの美味しさに『もうちょっとおかわり・・・』と皆さん笑顔でたくさん召し上がっていました。
決して派手な豪華料理ではありませんが、それは手間ひまかけて作られた愛情たっぷり母の味でした。
民族衣装ですっかりブータン人?!
ブータン人は普段から民族衣装を着用している方が多いです。それは民族としての誇りでもあり、また伝統的な儀礼を重んじている国だからこそ、寺院拝観などの際、その着用には大きな意味があります。
ツアー中、ガイドのウゲンさんは毎日違った民族衣装を着て、私達の目を楽しませてくれました。
ホームステイ2日目の朝、ついに私達も民族衣装であるゴ(男性)、キラ(女性)の試着しました。背丈や体の大きさに合わせ、一人づつ着せてもらい、美しいラインが浮かび上がりました。
ゴの試着
キラの試着
キラは意外と動きやすいです
男性は茶色やグレーを基調とし、落ち着いた雰囲気です。
女性はどこの国でもおしゃれが大好き。準備されたそのキラは青、赤、ピンク、緑などとても色鮮やか。
大きな布を巻きつけるように着込みます。テュゴと呼ばれる上着との色の組み合わせもそれぞれ異なりますが、この着こなし、いかがでしょうか?
田園風景をバックに、テラスで記念撮影です。
民族衣装を着て記念撮影
歌い、踊り、そして笑う
最終日の夜は、クンガさんの娘さんも町から駆けつけ、また近所の方も5人ほど来て下さり、歌と踊りの饗宴です。流れるような優しい音楽あり、足を踏み鳴らすような激しい踊りあり。ツアー中、ウゲンさんから教えていただいたブータンの歌も日本人のみで歌い上げました。
また今回参加者の皆様は、本当に盛り上げ上手で、自らも盛り上がり上手。炭坑節や東京音頭など日本の歌と踊りも披露し、近所の皆さんにも喜んでいただけたようです。
宴も中盤、参加者のお一人が、率先して近所の方の手をとり、「茶摘」などの童謡を歌い始めました。
ウゲンさんや近所の方からも、向かい合った二人が歌いながら、相手の顔を手で触れたり、撫でたりという手遊び歌を教えてもらいました。
目の前で大笑いしている異国の友人と、その手から伝わる優しい温もりが、今でも忘れられません。
3階の広間は暫くの間、熱気冷めやらぬ興奮状態に包まれていました。
・・・深夜、外に出てみると満天の星空が広がっていました。
いよいよ明日はお別れの日です。
再会を信じて
あっという間に過ぎ去った2日間。
早朝5時ごろから畦道散歩に出かけたり、民家の周りを散策したり、通学途中の小学生とサッカーをしてきたり、お母さんの料理を手伝ったり、ウゲンさんから仏教のお話を聞いたり・・・ 参加者の皆様も、各々ホームステイ滞在を楽しんでいたようです。
お世話になったホームステイ先に
別れの挨拶
お世話になったクンガさん、ツェリンさんご夫妻
別れの場面はやはり寂しいものでしたが、再会を信じてクンガさん夫妻は笑顔で手を振って見送ってくれました。
緑豊かな環境の中、自然体になれる、ブータンは『また行きたい』と思わせる不思議な魅力をもっていました。
ホームステイ最後の夜
近所の方との交流