添乗員報告記●2つの秋ツェチュ祭とパロ・ホームステイ 7日間(2010年9月)

躍動感あふれる舞

躍動感あふれる舞

(ウォンディフォダンのツェチュ祭)

2010年9月15日〜9月21日 文●相澤俊昭(東京本社)

ブータンは第4代国王が『GDPよりGNH(国民総幸福量)』という理念を提唱し、自国の伝統文化、人々の心の安らぎを大切にしている魅力のある国としてその存在感を世界へ放ってきました。また、自然保護にも力を入れており、手つかずの自然が多く残っていて訪れる人を魅了する風景がたくさんある国でもあります。今回、私が同行したのはブータンのベテラン日本語ガイド、シンゲさんとブータンの代表的な秋祭りツェチュ祭を訪れ、パロで民家にホームステイするというブータンの魅力を詰め込んだ7日間のコースでした。


頼りになるベテラン日本語ガイド・シンゲさん

寺院にて説明中のシンゲさん

寺院にて説明中のシンゲさん

今回、私たちの旅の案内をしてくれたのがブータン・カゼ・ツアーズ&トレックスの日本語ガイド、シンゲ・ナムゲルさん。彼は流暢な日本語を喋り、ブータンの宗教、伝統文化、人々の暮らしぶりを初めてのブータンを訪れるお客様にも分かりやすく丁寧に説明してくれます。特に、その豊富な仏教についての知識は驚くほどでした!また、ときどき冗談を言ってツアーの雰囲気を和やかにし、細やかな気配りで訪れる人をもてなしてくれます。そんな彼のおかげで今回のツアーでも「ブータンに来て良かった、楽しかった!」というお客さんの声がありました。最後の空港では、別れ間際にお客さん一人ひとりに『カタ』をプレゼントし、ブータンの忘れられない思い出を作ってくれるという優しさを持っている人です。

「せっかくブータンに来たのだから、民家に泊まってブータン人の暮らしをお客さんに知ってもらいたい」とホームステイ先で語っていたのが印象的でした。彼が日本語を勉強したのは、ブータンと日本の架け橋になりたいという思いがあったからだそうです。いまではその夢が叶い、ガイドという仕事を通して訪れる人々の心を豊かにしてくれるブータンの魅力を伝え続けています。


ブータンのお祭り「ツェチュ」

ツェチュ_親子づれもたくさん

親子づれもたくさん

ツェチュとはゾンと呼ばれる現在では行政と寺院の役割が一緒になった城塞でおこなわれる、チベット仏教の聖人グル・リンポチェの偉業をたたえるお祭りです。ツェチュは「月の10日」を意味するゾンカ語(チベット語も同様)で、グル・リンポチェの身に起こった宗教的な重大な出来事はすべて各月の10日に起こった、とされることに由来しています。

ツェチュはチャムと呼ばれる仮面舞踏、劇、僧侶たちの行列、そして地方によってはトンドルという大掛仏画のご開帳というのが一般的な流れです。劇やチャムは見ている人にわかりやすく作られており悪行をたしなめるものや、生前の行為を裁かれる演目など日常の道徳を描いており、善悪が理解できるように作られています。ツェチュを見に来ている家族は、その倫理観や道徳観を子供や孫にこのお祭りを通して受けついでいくそうです。


『ハレ』の日を楽しむブータン人

色とりどりの晴れ着で埋め尽くされる会場

色とりどりの晴れ着で埋め尽くされる会場

このお祭りの期間はブータンの人々にとって、着飾り、見栄をはる「ハレ」の日です。特に女性にとってはファッションショーのようで初日はおしゃれ着程度、最終日には一番豪華な衣装を着るのが普通で、男性も同様です。当日は、すれ違う着飾ったブータンの人々のファッションチェックも楽しみのひとつです。特に、ブータンの女性は服の生地にこだわるようで、自分の好みに“キラ”と呼ばれる民族衣装の生地を織ってもらい、自分の体に合うように仕立屋で採寸してもらうそうです。こうして作られた、とっておきの衣装を祭りの当日に身に纏い自分の一番美しい姿を見せるそうです。お祭りの最終日には華やかな民族衣装を身に纏った女性達を見ることが出来ます。

ゴを纏った添乗員(左より2人目)とブータンの男性(右)

ゴを纏った添乗員(左より2人目)とブータンの男性(右)。本家の着こなしはさすがです!

男性の方は衣装の着こなし、身だしなみに気を使っており、不適当な衣装の着方は格好が悪いと思っているようで、髪をきちんと整髪料で整え、綺麗に磨かれた革靴を履いています。そのこだわりようは他人の着こなしも気になるようで、祭りの当日に“ゴ”を着ていた私の衣装が乱れてくると袖の折り方、カムニ呼ばれる肩にかける白い布のかけ方を『これは今、一番イケてる着こなしだ』とかあれこれ教えてくれるのでした。

また、若い人にとって祭りは出会いの場でもあり、年頃の若い人はグループになって出会いを楽しんでいるようでした。会場内にはお弁当を持参してきている家族も多く、友人や親戚同士で一緒に座り、お祭りを楽しんでいる光景があちこちで見られます。お客さんの中にも地元の人に混じって一緒にお祭り見て会話をしたりして楽しんでいる姿が見られました。


いざ、ツェチュ祭へ!

ウォンディフォダン・ツェチュ

今回、訪れたのがティンプーとウォンディフォダンのツェチュ祭。ウォンディフォダンのツェチュ祭にはお祭りの最終日に訪れトンドルのご開帳を見学しました。まだ辺りが薄暗い朝にウォンディフォダン・ゾンの駐車場に着くと、朝早くからトンドルを見るために来ている人々が大勢いました。そしてゾンの中へ入ると正面の壁一面にとても大きなトンドルが掛けられており一同その大きさに圧倒されました。そのトンドルを見ることで祝福と功得を得ると信じているブータンの人々が長い行列を作り、祈りをささげている姿には何か静粛なものを感じぜずにはいられません。日が昇るとトンドルは下に降ろされ、いよいよチャム(仮面舞踏)が始まります。


壁一面に吊るされたトンドル

壁一面に吊るされたトンドル

トンドルの前で祈りをささげる女性

トンドルの前で祈りを

ささげる女性


ツェチュの主な踊りとしては、パチァムと呼ばれる英雄の舞、鹿の面を着けて踊るシャツァム、残骨の仮面をつけた墓場の守り・ドゥルダの踊り、ギン・ダン・ツォリンと呼ばれる太鼓を激しく打ち鳴らし仏法の勝利を告げ、喜びの舞を表すもの、若い女性たちによるフォークダンスなどがあります。そして、これらの演目をつなぐのがアツァラという赤い顔の仮面をつけた道化です。アツァラは観客や子供の近くまで来て笑わせたり、ふざけたりして場をつなぎ和やかにします。時にはふざけの度が過ぎているのではと思うようなことをやることもありますが、アツァラは祭りの全体をサポートする役割も担っているため欠かせない存在です。

 

ティンプー・ツェチュ

ティンプーのツェチュ祭は都会で行われるお祭で、タシチョ・ゾンに併設された大きな特設会場で行われます。祭りに来ている人々も着飾って大勢いて、なんと3万人以上!!とても華やかな感じです。踊りは、ティンプーのツェチュでは王立舞踏団と宗教的に特に重要な舞は肌を隠した僧侶によって演じられ、地方では地元の人々によって演じ歌われます。この違いもそれぞれに良さがあり見る観客を楽しませてくれます。


大勢の人で埋め尽くされる会場

大勢の人で埋め尽くされる会場

大観衆の前で繰り広げられる舞

大観衆の前で繰り広げられる舞



楽しかった、ツェリン家でのホームステイ

今回、ホームステイしたのはパロにあるツェリン家の伝統的な民家でした。私たちが到着するとツェリン家のお父さん、お母さんが「Kuzug zang pola!」と笑顔で迎えてくれ、一同、これからお世話になる家族とご対面です。2人も素晴らしい笑顔の持ち主でこれからどんな生活が始まるのか期待を膨らませてくれます。

家の中へ案内されるとご主人のクンガさんのお母さんがバター茶とザウと呼ばれるブータンのお菓子で私たちをもてなしてくれ、その後は夕食前に民族衣装の『ゴ』と『キラ』の試着タイムです。日本人とブータン人は顔がとても似ているので民族衣装を着ると皆さん、すっかり気分も外見もブータン人です!年配の男性の方は周りから『ブータン人と見分けがつかない』と言われたほど!今回は女性のお客さんの中に男性の民族衣装『ゴ』を着てみたいという方が何人かいて、ホームステイだからこそ出来る体験もしました。


さぁ、ブータン人になりきるぞ!

さぁ、ブータン人になりきるぞ!

お母さんと一緒に記念写真

お母さんと一緒に記念写真


夕食はクンガさんのお母さんが作ってくれたブータン料理を楽しみます。ご飯と野菜をふんだんに使った料理が並び、ブータンの代表的料理でもある唐辛子をチーズで煮込んだ『エマ・ダツィ』も食べることが出来ました。とても辛い“エマ・ダツィ”ですが辛いもの好きにはぜひ試してもらいたい料理のひとつです。町のレストランでは味わうことのできないブータンの素朴な家庭料理にとても満足です!

そして食後に女性のお客さんからホームステイのお礼にとクンガさん、ツェリンさん夫妻へ和菓子を用意してお茶を立ててくださり、初めて味わう抹茶にクンガさんも始めは戸惑っていましたが、一口飲むと「シメ」(おいしい!)と言って喜んでくれ、目の前で繰り広げられている交流に私自身も感動しました。


文化交流の真っ最中

文化交流の真っ最中

初めて抹茶をいただく、クンガさん

初めて抹茶をいただく、クンガさん


ホームステイ最後の夜には近所のおばさん達が来て、ブータンの歌や踊りを披露してくれ、私たちも輪の中に入り一緒に踊り最後まで楽しみました。私たちからもお礼に日本の歌を披露したり、お客さんの中には空手の型や椅子を引いても倒れないという面白いマジックをしてくれる人もいました。特にマジックはクンガさんとおばちゃん達には大ウケで、ついには一緒にやるほど大盛り上がりでした!


近所のおばさん達と歌い、踊った最後の夜

近所のおばさん達と歌い、踊った最後の夜

ブータン人に大うけだったマジック!

ブータン人に大うけだったマジック!


再会を信じてのお別れ

次の日の朝はいよいよ、お別れの時です。短かったけど「楽しかった!」という皆さんの笑顔が忘れられないホームステイ。お母さんの家事を手伝ったり、テラスで語った夜、お父さんと一緒に囲んだ夕食、疲れを癒してくれたブータンの石焼風呂、ホームステイだからこそ経験できる忘れられない思い出がたくさん出来ました。最後は、一人ひとり、クンガさんのお父さんとお母さんと握手をし、再会を信じてお別れしました。出発の間際、バスから家のほうに目をやると、窓際に立ち手を振り続けているお母さんの姿あり、自然と「お母さん、また来るね!」という言葉が出て感動的な別れでした。



ブータンの棚田 title=

ヒマラヤ山脈に面する小国、ブータンが大切にしているのは国民の幸福です。いまでは先進国からいろいろな情報が入り、若い人たちの習慣が少しずつ変化しているそうですが、棚田の広がる風景、子供たちの無邪気な笑顔、美しい織物、山奥にある僧院など初めて訪れるのに懐かしさを感じさせてくれるブータンの魅力がいつまでも続いてほしいと願うばかりです。