プナカ・ツェチュにて
ツアー名:
古都プナカのツェチュ祭とタクツァン僧院ハイキング8日間
2012年3月2日~3月8日
文●池内明穂(東京本社)
「明日の祭では、トンドルが掲げられるようです。出発は7時半にしましょう」
祭見学の前日。
夕方、ホテルにチェックインし、翌日の打ち合わせをしていた際、ガイドのリンチェンが、笑顔でこう言いました。
トンドルとは、“見ることで功徳が積め、祝福が得られる”と信じられている大きなタンカ(掛仏画)のことです。チベット仏教の聖人グル・リンポチェの偉業を称えるお祭りツェチュ。毎年必ずトンドルが開帳されるのは、春のパロ・ツェチュと、夏のクジェ・ツェチュのみ。他の祭では、開帳される前日(または当日)まで公に発表はされないのです。
ツアー中、様々な面で情報収集に余念がないリンチェン。いち早くこのラッキーな情報を掴んでいたようです。そして更に言葉を続けます。「お昼はどうしましょう。レストランでもいいですが時間もかかりますから、お弁当にしましょうか。」
私も、“せっかく終日お祭りを見学できるのだから、参加者の皆さんには思う存分楽しんでほしい”と思っていたので彼の意見に賛同します。詳しい仏教解説だけではなく、お客様への気配りや盛り上げ上手の彼の対応を頼もしく感じていた私ですが、この時は一段とその想いを強くしました。いよいよ明日はお祭りです!
プナカの祭ってどんな感じ?
標高約2,400mのティンプーから、車で約3時間。ドチュラ峠を越えた先に位置するプナカ(標高1,300m)は、約60年前にティンプーに首都が統一されるまで、「冬の都」として約300年栄えた町です。
ポ・チュ(父川)とモ・チュ(母川)の中州に建つプナカのゾン(政庁と僧院が一緒になった城塞)が今回の祭の会場です。
ティンプーのツェチュでは、スタジアムのような広い場所で見学となりますが、プナカ・ツェチュは2008年から開催されるようになった比較的新しいお祭りではあるものの、会場はどことなくのんびりとした雰囲気に包まれていました。
壁一面に掲げられたトンドル
若き僧侶たち
トンドルに並ぶ列 まだまだ続きます
菩提樹の下は恰好の見学場所
仮面舞踊や劇は視覚に直接訴えかける力強さをもっています。演目の途中で、時折リンチェンが解説を加えてくれるので、より一層理解も深まります。
「チャム」と呼ばれる仮面舞踊
ジャンプ!
生前の行いの善悪を裁く‐劇の一場面‐
一家総出で民族衣装に身を包み、演目を鑑賞しているブータン人の方々を見ていると、仏教への信仰心だけではなく、家族の繋がり、子供への躾や善悪の判断(倫理観)など人格形成においても大切なものが脈々と受け継がれている、そんな気がしました。
宗教行事というと、堅苦しいのでは?と思う方もいるかもしれませんが、実際の雰囲気は「ちょっとオメカシして、家族でお出かけ」的な和やかなものです。また以前の添乗報告記でご紹介しているように、若い男女の出会いの場でもあります。
会場を埋め尽くすほどの人々から発せられる高揚感と、着飾った華やな衣装、音響装置を通して響きわたる音楽に、独特の空気が流れたプナカ・ゾン。
家族で来ました
おもちゃも持ってきてます
お客さまも、現地の方に混じって交流を楽しんでいました
おめかししてきました!
お布施を求める道化のアツァラ
普段神様、仏様などあまり意識した生活を送っていない私ですが、外国人観光客の一人として、その空間にお邪魔させてもらったこと、温かく受け入れてくれたブータンの方々の優しさを有難く思いました。
そして、出会った初日にリンチェンが雑談の中で言った、真っ直ぐで奥深い一言が、ふっと胸にこみ上げてきました。
苦行??寺院拝観までのハイキング
見て功徳が得られるトンドル、1回廻すと1回お経を読んだことになり功徳が得られるマニ車…。チベット仏教には便利で有難いお祈りアイテム(?)がありますが、仏教の業に限らず、やはり辛い体験の後に得られるものの方が、心にも身体にも深く刻み込まれると思います。
ブータンに来るほとんどの観光客が訪れる、タクツァン僧院。ガイドブックや雑誌、テレビ等にも数多く紹介されているブータン随一の聖地です。断崖絶壁に聳え立つその佇まいは聖地としての威厳と格式の高さを物語っています。風のツアーでもこのタクツァンへの軽登山を組み入れています。
さあ、出発!
休憩所でひと休み
みなさんでタルチョを掲げました!
タルチョの合間から見える断崖の寺院
「普段運動をほとんどしていないのですが…」「足(膝)が弱いので心配です…」
そういった問い合わせや相談を受けることも多々ありますが、まずは無理しないことが一番。途中の休憩所で休むこともできますし、せっかくやってきて疲れと辛さだけが残ったらもったいない。
だけど、もし元気なら是非ブータンの人々と同じように、山道を歩いて登って、ちょっと辛いかもしれませんが、僧院を目指してみましょう。
タクツァン僧院以外では、他にティンプー郊外に位置するタンゴ僧院までの軽登山も歩き応え十分です。。12世紀に創建され、静かな山奥に建つ僧院は国内有数の高等仏教学校です。片道1時間~1.5時間程の道のりですが、登りきった後に見える建物の曲線が、これまた美しく、登山中の疲れも飛んでしまうほど。
また、手軽にハイキングを楽しみたいなら、プナカ近郊のロベサ村に建つ子宝の寺チミ・ラカンがお勧めです。棚田のあぜ道を歩いたり、村の中を通ったりと、のどかな風景が広がります。
壁面に描かれたグル・リンポチェ(タンゴ僧院までの道中)
かなり急勾配な坂道を登ります(タンゴ僧院までの山道)
曲線の壁面が美しい タンゴ僧院
春霞の中をチミ・ラカンまでハイキング
すれ違うブータン人を見ていると、家族や友人同士、恋人同士で来ていて、一人の人は
見かけません。寺院参拝は、功徳を積むということ以外にも寺院までの道のりで、大切な人と時間を共有しているようにも思われました。
ブータン人がお参りする際のお祈りは、生きとし生けるもの全てのために捧げられます。もちろんその中で家族円満、健康に過ごせることへの感謝、合格祈願や安産のお礼参りなどをすることもあるようです。またより良い来世のために、祈ることも多いそうです。
日常の人々の「祈り」の場面が垣間見られ、その何気ない光景が私の心にも響いてくるのでした。
おしゃべりしながら、登ればあっという間かな
家族で寺院へお出かけ
母娘のまっすぐな瞳が印象的
‐何を祈ったのかな?‐
普段オフィスで仕事をしていますが、「ブータンって何があるの?何が魅力なの?」といった質問や、行かれた方からは「ガイドさんや現地の人の温かさに触れて、行ってよかった」という感想も頂戴します。
現地ガイドのホスピタリティや詳しい仏教解説に満足いただけた結果と嬉しく思っていますが、ブータンは、それ以外にも“自分の心と向き合える貴重な時間が与えられる旅”とも思います。お寺を訪れ、仏の前で手を合わせて、祈る。時には膝をつき、額を床にあて、祈る。
多くの日本人は仏教を身近に感じていると思いますが、異国であっても、仏の前で自分の想いを伝え祈る。そして自らを省みる。普段忙しく生活をしていると、忘れがちな自分の心を呼び起させる気がするのです。祈る行為が、心の余裕を生み、旅の満足度を高めているのかな、とも思えます。
2010年、2011年にネパール研修も行き、今も毎日仏教の勉強を続けているリンチェン。
ブータン初日に彼が発した、「一番大切なのは心です」という一言。今も時折思い出しています。
※一部の写真はツアー参加のお客様より提供していただきました。
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リンチェンのネパール研修の様子はこちら(風通信42号より転載)
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