太平洋を渡り、 たどり着いたのはハワイ
割れ目から赤い光を放ちながら
じりじりと迫る溶岩
私が初めてハワイに来たのは15歳の時でした。アメリカ本土でホームステイをした帰りにオアフ島に立ち寄ったからです。お土産を買った思い出しか残っていません。次は18歳の時。オアフ島で学生生活を送りました。当時のハワイの思い出は、心地よい気候、海、ショッピング、友達と過ごした楽しい時間などです。再びハワイに戻ってきたのは23歳の時。オアフ島ではなくハワイ島。そして観光客が多いコナではなくヒロ。
ハワイ島に移ってきてから現在まで、3人の娘を育て、仕事に励み、人生の山や谷を超えてきました。無我夢中で頑張った時期には気が付かなかったけれど、今振り返ってみると、直接的にも間接的にも、この島からたくさんエネルギーを与えてもらっていたのだと実感できます。
リゾート観光地としてのハワイには興味がない私にとって、ハワイ島の東側は、とても住み心地のよいところです。
ハワイ島の魅力
10代、20代のころの私よりも、現在の私のほうが、もっとハワイに惚れ込んでいます。それは、長い歴史に育まれた固有の自然に出合うことにより、自然の力と不思議さに魅せられたからなのです。33歳でハイキングするようになり、それがきっかけで、火山について、植物について、鳥について興味が湧き出し始め、それ以降、止まらなくなってしまったのです。固有種の植物たち、そして固有種の鳥たち・・・これこそ、ハワイの誇りです。
ハワイ諸島は、海底火山の活動によって誕生し、今もなお北西へ移動している島々で、地理的には、世界で一番孤立しています。そのため独自の進化を遂げた固有種が多く存在します。天敵になるような大型の哺乳類が存在しなかったので、毒や棘を失ってしまった植物、クチバシが餌となる食物に合うような大きさや形へと進化した鳥たちなど、不思議な種が多いのです。また、ハワイ諸島の島々は、それぞれ古さがちがい、地形が異なるだけではなく、鳥や植物の中には、島によって異なるものもあります。
北東から吹く貿易風により、島の北東部に雨が多く降ります。季節によっては、南西から吹くコナウインドにより、島の南西部にも雨が降ります。ハワイ島には 4,000mを越える山が2つもあるので、風上と風下での気候の差だけではなく、標高による気候の差もあるので、緑豊かな雨林もあれば、乾燥した地帯もあり、熱帯もあれば、寒帯もあるので、まるで「ミニ大陸」のようです。多様な地形と気候、植生の変化を見るのが、とても面白いのです。
年間、何百万人という観光客がハワイを訪れています。オアフ島だけではなく、他の島も訪れる人が増えていますが、それでも主な目的は、これまでの傾向と変わりなく、リゾート観光です。一般観光客が頭に浮かべる「ハワイらしい」イメージに造り上げた人工的な美と快適感で満足し、ツアーに参加したり、レンタカーをドライブしても、日本にはない「景色を楽しむ」だけで帰ってしまう人が多いようです。
また、外来種の草が一面に生えた大地を見て、人工的構造物がないので「手付かずの自然だ」と誤解していたり、ホテルや町の中などで見かける、アフリカ産やアジア産や南米産の色鮮やかな花を見て、「南国ハワイの花」だと誤解していたり・・・というケースが多いのではないでしょうか。実際、ハワイ島でも、農地、牧場、住宅地、ゴルフ場、リゾート施設などのために開発された場所では、人間が持ち込んだ多種多様な植物がほとんどです。イギリスの自然学者、チャールズ・ダーウィンが、ガラパゴス諸島ではなく、ハワイ諸島で進化論を提唱していたら、ハワイ諸島の開発に対する考え方、観光のあり方も異なっていたかもしれないですね、とても残念でならないです。
ただ自然を訪れるだけではなく、一歩踏み込んで深く知ることにより、今まで漠然と平面的に見えていた風景が立体的に見えてくる。景色の一部分として眺めていた動植物が個性を持って、生き生きと見えくる。自然や文化を大切にしようという気持ちや、保全活動に協力しようという気持ちが生まれてくる。そんな体験がエコツアーです。
知ることによってさらに大きな喜びを感じる有意義な旅。ただ見るだけではなく、聞いたり、手で触れたり、匂いを嗅いでみたり、五感を使い、時には第六感も使って、自然との一体感を感じ、自然の面白さや不思議さを発見し体験する。それがエコツアーです。
私はハワイを訪れる人々に、ハワイの自然についてもっと知ってほしい、ハワイの自然が秘める不思議さをじっくりと観察してほしいという強い気持ちと、こだわりを持ってハワイ島でエコツアーの案内をしています。
ハワイ島では、現在も火山活動が続いているので、地球の鼓動を感じ取ることもできます。ぜひ、ハワイ島でお会いしましょう!
※風・通信No28(2006年秋号)より転載