国境を越えて暮らす山岳民族 -ハニ族とアカ族-(ラオス・中国雲南省)

雲南に暮らす山岳民族 ハニ族

芸術的な美しさを誇る棚田(雲南省元陽モウピン)

芸術的な美しさを誇る棚田(雲南省元陽モウピン)


『雲南の少女 ルオマの初恋』という映画をご存知でしょうか。中国雲南省元陽にある美しい棚田を舞台にそこに暮らす17歳のハニ族の少女ルオマと都会から来た漢民族の貧乏カメラマンの物語。そこでは、ハニ族の文化とともに、世界遺産登録を待つ「ハニ棚田(哈尼梯田)」が幾度となく映し出されます。
 
この棚田は今や中国のみならず世界中のカメラマンが足を運ぶ屈指の景観地。特に朝日夕日に田に張られた水が鏡のように輝く12〜3月、稲穂が黄金に輝く9、10月は多くの人が撮影に訪れます。

きのこのような屋根を持つ民家(雲南省元陽郊外)

きのこのような屋根を持つ民家(雲南省元陽郊外)

ハニ族は、何百年もかけて山が連なるこの地に余すところがないほど丁寧に棚田を作り上げてきました。その景観は「大地の彫刻」とも呼ばれ芸術といえるほどです。稲作を文化の中心に据えるハニ族も、祖先は羌(チャン族)と呼ばれたチベット系遊牧民族といわれています。紀元前3世紀ごろ戦火に追われ南下し、6、7世紀ごろから元陽付近に住み着き農耕を始めたということです。
  
ミソや納豆といった発酵食品、焼畑農耕の歴史、歌垣の文化など日本との共通点も多く、日本人起源説もあるハニ族ですが、この地が最後の安住の地ではなかったようです。明清時代の圧政に再び南へ逃れた支族がいました。ベトナム、ラオス、ミャンマーさらにタイへと移住したアカ族と呼ばれる民族です。


ラオスへ アカ族の村を訪ねて

アカ族の暮らす村(ラオス ルアンナムター)

アカ族の暮らす村(ラオス ルアンナムター)

このたび中国国境に近いラオス北西部にアカ族の村を訪ねました。ムアンシンやルアンナムターといった町周辺は盆地になっていて広い耕作地があるのですが、アカ族は決まって山の尾根に村があります。しかし、まだ歴史が浅いからでしょうか、ここには山はあっても狭い田畑があるだけで元陽のような巨大な棚田群はありませんでした。

●森と村の結界

アカ族の村の入り口にある門(ラオス ムアンロン)

アカ族の村の入り口にある門(ラオス ムアンロン)

まずガイドから説明を受けたのが村の入り口にある門。ごく簡単な造りなのですがどことなく神社の鳥居に似ています。実際上に木製の鳥が留まっているものもあり、鳥居のルーツをここに求める人もいるようです。そして、様々な魔よけアイテムによって装飾されています。刀やライフルといったものもあります。彼らの住む周りはすぐ森。森には悪い精霊がいっぱいいると信じられているのです。
また、門には多くの場合、性器の誇張された男女の木像が置かれています。これも悪い精が入ってこないように立てられているといいます。星状に編んだ竹ひごも魔除け。門は村の結界としての役割をしているのです。

まさに「鳥居」? (真ん中に木製の鳥)(ラオス ムアンロン)
まさに「鳥居」? (真ん中に木製の鳥)(ラオス ムアンロン)
くもの巣のようにも見える魔除け(ラオス ムアンロン)
くもの巣のようにも見える魔除け(ラオス ムアンロン)
魔除けの男女一対の木像(ラオス ムアンシン)
魔除けの男女一対の木像(ラオス ムアンシン)



●住居は高床式
村は周りを森に囲まれた北向きの斜面に20戸程度の高床式の家が並ぶ小さな村。中国元陽のハニ族の民家は、土間式で泥レンガ造り、きのこのような形の屋根が特徴だったのですが、この地域のアカ族の家は高床式にシュロの葉で葺いた屋根。少し趣きが違います。南下途中でタイ族文化に触れ住居のスタイルも変わってきたのかもしれません。木と竹だけでできた民家は、事前に連絡していないにも関わらず(そこは電話線はもちろん、携帯も通じない村でした)きれいに掃除されていてびっくり。昼食の用意をしてもらってる間に小さな小さな集落を一回り案内してもらいました。

屋根の庇が長い高床式の民家(ラオス ムアンロン)
屋根の庇が長い高床式の民家(ラオス ムアンロン)
台所も2階にある(ラオス ムアンロン)
台所も2階にある(ラオス ムアンロン)



●村の習俗
村の高台には4本の柱と籐のつるで作った巨大なブランコがひとつ。村の祭りのときに豊穣を祈って村人全員がこぐそうです。そのすぐ脇には腰掛用の木枠。若者たちが語ったり歌ったりして結婚相手を探す舞台となるのだとか。アカ族の親は息子が14、15歳になると、恋人を見つけて愛を育むための小さな小屋を建ててやるのだそうです。彼らはその年で一人前ということなのでしょう。

アカ族の村には一番高いところにブランコがある(ラオス ムアンロン)
アカ族の村には一番高いところにブランコがある(ラオス ムアンロン)
村で見かけた若者のための小屋(ラオス ルアンナムター)
村で見かけた若者のための小屋(ラオス ルアンナムター)



●働き者のDNA
高床式の家は台所を含む住空間がすべて2階にあり階下はといえば物置になっていたり、豚や鶏が飼われていたりとしっかり有効活用されています。ここでガイドから面白い話を聞きました。少数民族の中でもアカ族はとても働き者だそうです。それは階下に蓄えてある薪を見ればわかるとのこと。その後、そのことに気をつけていくつかの村を巡りましたが、確かにアカ族の家にはしっかりと薪が貯め込んでありました。そして昼訪れたアカ族の村には働き手はほとんど畑に行っていて不在で、残っている女性も手を休めることなく機織をしておりました。

薪が積まれた民家(ラオス ルアンナムター)
薪が積まれた民家(ラオス ルアンナムター)
銀の飾りはアカ族の特徴(ラオス ムアンロン)
銀の飾りはアカ族の特徴(ラオス ムアンロン)



冒頭で紹介した「ルオマの初恋」にも、民族衣装姿の写真を撮らせることで楽してお金をかせぐルオマを、おばあさんが「ハニの人は人をだましてお金を取ったりしないよ」と諭すシーンがあります。時を経て国境を越えても働き者のDNAは生き続けているようです。