貴州・ミャオ族の祭典「姉妹飯」−少数民族の村々を訪ねて−9日間

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2007年4月28日〜5月6日  文●平山未来(東京本社)

中国は近けれど奥深き国。そんなことを改めて感じる旅となりました。旅の行き先は、中国南部の内陸に位置する貴州省。なんとも奇妙なカルスト地形、多彩な民族風情、特徴的な文化、そして自然の豊かさも感じられる実に変化に富んだ地域です。貴州省の周辺はミャオ族やトン族、スイ族、プイ族などの少数民族が昔ながらの暮らしを守り続けています。そんな少数民族の伝統的なお祭りなども現代に受け継がれており、今回はミャオ族の恋のお祭り「姉妹飯節」を見るべく設定されたツアーに同行して まいりました。


姉妹飯で出会った子どもたち

にぎやかな太鼓の音頭


雨の桂林からトン族の村々へ

トン族の女性

中国最大の空港広州を経由し、国内線を利用し桂林へと移動します。ここから貴州省安順までの横断ツアーが始まります。降り立った桂林はあいにくの雨…。これから先の天気を心配しつつも、水墨画的な「雨の桂林」を車窓から堪能します。

桂林から7時間ほど走ると、広西省チワン族自治区の北の端に位置する三江に辿り着きます。西50Km先は貴州省と省境の街で、ここでは主にトン族が人口の半数以上を占めています。三江には、雨風橋と呼ばれるトン族伝統建築を施した橋が約100箇所以上あり、同じく伝統建築を施した鼓楼と呼ばれる集会所も150箇所以上あると言われています。早速、程陽村に足を伸ばし、それらの建築物と共に稲穂が育ち始めた水田と大きな風車が、のどかさを感じさせてくれました。

夕暮れが近づき、村に静けさが訪れ始めた頃、程陽村のトン族のご家庭を訪れます。そこでトン族の家庭料理を頂きました。まずはちょっぴり苦い油茶、歓迎の地酒などが振る舞われます。油茶で客人をもてなすのは、お客様を大切にするトン族の人々の習わしだそうです。村では常食のモチ米の登場に少し驚きつつも、野菜中心の食べやすい料理に一同舌鼓を打ちました。

程陽村ののどかな風景

トン族のおもてなし・油茶


五つの鼓楼が聳える肇興の村

三江から車で未舗装路を走り、車窓から古い風雨橋を望みながら小さな村を抜けていくと、貴州省に入ります。山道ながらも舗装された道になり、棚田などの美しい風景が心和ませてくれます。走り始めてから5時間ほど経過したお昼過ぎ、トン族最大の村・肇興が山間に見えてきました。小さな村には木造建築の古い家々と村を象徴する五つの鼓楼が聳えています。

もともと鼓楼は村のシンボルであり人々の団結の象徴でした。外敵が来た時は、いち早く太鼓などの鳴り物を叩いてその侵入を知らせたり、農作物の収穫の後は鼓楼を中心にお祭りが行われるなど、トン族の村には無くてはならないものとなっています。

そしてこの日は肇興村の民宿で宿泊をします。建物すべてが木造で、質素ながらも快適です。すぐ裏に鼓楼があり、夕方や朝に村の散策ができるのが村に泊まる楽しみの一つ。見晴台から村全体を望み、マーケットや村の素朴な生活の様子を垣間見ることができました。

この夜は鼓楼の下で、トン族の踊りや歌を見せていただきました。トン族の人たちは誰もが歌を歌うことができ、それを民族の誇りとしている人々です。蘆笙(葦や竹で作られた管楽器)の音色と独特の歌声が村に響き渡り、最後は我々も踊りに参加して、楽しい一時を過ごすことができました。

肇興村の鼓楼

鼓楼の下で踊りました


鉢巻と丁髷のミャオ族の村・芭沙村

芭沙村の男性

肇興を発ち、東南部最大の町・凱里をめざし北上していきます。道中、春秋戦国時代の武士のような伝統を持ち続けるミャオ族の芭沙村に立ち寄りました。村に入ると、鉄砲を持ち、頭は丁髷と鉢巻という出で立ちの勇ましい男性たちが目に入ってきました。近年になるまで漢民族と交流がなかったようで、独特の伝統や文化が色濃く残っています。

ゴールデンウィークということもあり、大きな広場で民族踊りを見せてくれました。その横で、村の女性たちは美しい刺繍をしています。女性たちの手先の機用さと刺繍の美しさにも驚かされます。普段は水牛を使った稲作と畑作をしながら、家庭では刺繍や民族舞踊の文化が受け継がれているのでしょう。男性が腰からおろす籠の入れ物には、お昼のお弁当(もち米など)を入れて畑に行くそうです。日本でも昔は同じような風習があったのではないかと、古き日本文化を回想した瞬間でした。


ミャオ族の美しい刺繍

腰からさげる籠


いよいよ!姉妹飯節が行われる施洞へ

姉妹飯節の踊りの様子

お祭り会場の観客席


河原の奥では闘牛も行われて、怖いほどの迫力のシーンが繰り広げられていました。また、お祭り会場の観客席に目をやるのもお祭りの楽しさの一つ。この日は家族総出で娘や孫の晴れ姿を一目見ようと村の人々も集まってきています。小さな子供からおばぁちゃんまで、素敵な笑顔が溢れています。特に年配の男性や女性は、町の女の子の晴れ姿を微笑ましく見守っているようにも感じられました。多くはこの姉妹節で出会って結婚しているそうなので、昔を懐かしみ、特別 な思いがあって眺めているのかもしれないですね。

河原で行われた千人踊りを見学したあと、この日宿泊する呉さんのお宅にお邪魔します。施洞の町中にあり、お祭り会場に近く、町の散策にもってこいの場所です。今宵の夕食は、お祭りのご馳走です。気になる姉妹飯は、なんと今年は黒と黄色!?お味の方は…、とっても美味しい!姉妹飯は、もともと河辺で娘達がご飯を炊いて、遊びに来た若者の中から、結婚相手をさがしたことから始まったといわれています。故に祭りの間、各家庭で用意されています。山で取れた天然の物で染められているという姉妹飯。年とともに染料も変わっているようです。

黒と黄色の姉妹飯

夜の宴もあります


朝の洗濯風景

食後は、広場で行われるという民族歌と踊りを見るべく夜の町へと繰り出します。10分ほど歩くと炎とその周りを演舞している人々が見えてきました。昼間とは違って、観光客や違う村の人々の参加も多いようです。こういう場があってこそ、めでたく恋が実るのかもしれませんね。

翌朝は、お昼まで自由行動とし、施洞の町の中を各々の好みでのぞいてみます。路地でご飯の準備をしている光景が見られたり、子供が路地を走り回っていたり、川で洗濯や野菜を洗っていたりと、ごく普通 の生活風景を見ることが出来ました。にぎやかなお祭りの時とは違って、こんな静かな日常の姿を見られるのも、村の泊まってこその面 白みでもあります。聞くところによると、幸運な方は各ご家庭で銀装のきらびやかな衣装の着付けの様子を偶然にも見ることができた方もいらっしゃったようです。なんだか日本で言う成人式のような様子だったようですよ。

そして町の広場では徐々にお土産物市が賑わいを見せ始めていました。刺繍の布や銀細工の飾り物、織物など多彩な物が一面に広がっており、まさにフリーマーケットのような雰囲気です。みなさんここでお土産物を物色し、町の人々との交渉を楽しんだようです。昼食は再び姉妹飯をいただき、午後は昨日とは違った会場で行われる踊りを見に行きました。こじんまりと行われてはいましたが、銀装のきれいな女性たち、かわいい子供たちと記念写 真を撮り、二日間滞在した施洞の町を去りました。


にぎわう土産物市

銀装の女性たち


豊かな自然とカルスト台地の安順へ

貴州省の省都である貴陽から、高速道路を利用して安順へと移動します。貴州省の中でも一番早くに開発の手が入った地域でもありますが、カルスト地形の起伏に富んだ地形のために、滝や湖が多いのが特徴です。そんな安順の風景区の一つ、まずは龍宮へ向かいます。龍宮は川と繋がった40kmの洞窟で、美しい鍾乳洞がライトアップされています。中国に鍾乳洞はいくつかあれど、ライトアップされて、船で見学するのはここならでは。10人乗りの小船で1時間ほどの船旅を楽しみます。

昼食を済ませ、車で東洋一の滝とも言われる黄果樹大瀑布へ。さすがにここは中国の観光地!ゴールデンウィーク(中国でもメーデーで連休期間)ということもあり、途中から専用バスで移動します。前日に嵐のような豪雨が降ったことも影響したのか、迫力の水量 と水しぶきでした。この滝は、滝の裏側まで歩いて見にいけるのが楽しみの一つ。暑い最中、ひんやりとした水滴を受けながら歩く滝の裏側はとても気持ちの良いもので、最後は滝つぼで小さな虹まで見ることができました。 その後は、滝近くのプイ族の村に足を運びます。プイ族の住むところは石頭賽とも呼ばれ、多くは 石造りの家に暮らしています。古くから水稲栽培に従事し、現在でも欄干式の家屋や銅製の太鼓などの特徴 が残っている民族です。そんなプイ族の村の中を散策し、家の造りなどを見せていただきました。気づけば夕刻、静かな村の裾野には美しい棚田とカルスト地形が広がっていました。

東洋一の黄果樹の滝

カルスト地形と棚田


屯堡人が暮らす石の世界へ

安順から貴陽へと戻る道の途中に、集落全体が石の壁、石の瓦、石の家の村が目に入ってきます。村の中では家の周りは石の壁、屋根は板石の瓦、部屋の仕切りも石です。庭の周り、集落の道路、小さな橋ですら全て石で出来ています。これらの石の家に暮らす人々は「屯堡人」と呼ばれています。屯堡人は独自に屯堡文化を作りあげ、中国民族文化の一部として保存されてきました。今回はまず、屯堡芸術として一番代表的な「地劇」を観賞し、その後石造りの村々を散策しました。入り口には石の城門や石の城壁などがあり、美しいまま残された独自の文化や建築様式を見ることが出来ました。どこか日本のお城を彷彿させてくれます。もちろん村の中には今も普通に暮らす人々がおり、親切に家の中や建物を見学させてくださいました。

屯堡人の女性

石造りの村の様子


どこか懐かしい風景が広がる貴州の風景。共通する稲作文化が、どこか哀愁を醸し出しているのかもしれません。もしかしたら日本人が、忘れてしまった何かが日常に溢れているような気がします。たった一週間ながら、まるで一ヶ月くらい居たような気分にさせてくれる貴州の旅でした。

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