文・写真●丹羽 隆志
ブータン 子供たちが水遊び。いいなぁ、飛び込んじゃおっかなぁ〜。
自転車って人の旅なのだ
「自転車で人跡未踏のチベット高原を走破する」
そんなことを息巻いて、ボクが初めてチベットを訪れたのは1986年。19歳、大学2年生のときだった。
鼻息荒くて、今に思うとかなり恥ずかしい。ホントはこのことは秘密にしておきたいくらい……(笑)
そして行ってみたチベットでは、あちこちでチベタン達が
「お茶、飲んでけ~」
「ハラ減ってないか?」
「ウチに泊まっていけ」といってくれる。
「あれれ、人跡未踏のはずだったのに……」と脳裏をよぎる。
荒涼とした大地に一人座り込み、休憩しているといつの間にか、放牧中のチベタンがそばにいる。こちらからは姿形が見えなくても、好奇心旺盛な彼らは、ぶらりと立ち寄るようにやってくる。
後になって分かったことだが、この荒涼とした大地は、実は広大な畑。冬なので気づかなかっただけで、数年後に夏に行ってみたら、見渡す限りに菜の花が咲いていた。
地の果てのようなイメージをチベットに重ね合わせてしまうけれど、そこはチベタンが生まれ、暮らし、そして死んでいく場。彼らにとってはそこが世界の中心なのだ。
その後、チベット以外にもいろいろなところを走り回り、
「自転車は道を走るもの」
「道は生活があるからできる」ことを実感。
つまり自転車って、人の暮らしをちょっとお邪魔する旅なのだと気づいた。当たり前のことだけれど……。
この原稿を書いている今、実は北海道のツアーを終えたばかり。7月は北海道に行きっぱなしで、そこで数回のツアーを開催するのが恒例となっている。
今回の旅は、オホーツク海に沿って海沿いを走行。内陸に入ると雄大な丘となり、ジャガイモの花が咲き、麦の穂が黄金色に大地を揺らす。知床連山から続く尾根を越えると、根釧台地となり牧草地が広がる。漁業、農業、酪農地帯へと変わっていく。
「北海道=大自然」というイメージがある。しかし大自然=人の手が入らないところ、という意味なら、北海道の自転車ツアーも、人の旅で大自然ではない。先人が開墾し、耕されてきた大きな風景を目で感じ、ペダルを踏みながらその広大さをカラダで感じ、そしておいしい食事を頂くことで、その恵みを舌と胃袋で感じる、という旅だ。
「こんな旅をしたかった」と思える旅
モロッコのオアシスの村にて
サハラ砂漠を走っていくと、ナツメヤシに囲まれたオアシスの村が現れ、子供たちは私たちをハイタッチで大歓迎。こんなちょっとした出会いが、いつまでも印象に残ります。
ところで「自転車は人の旅」と書いたけれど、自転車で移動さえすれば人の旅になるか? といわれるとそうでもない。例えば交通量の多い日本の国道。ここを自転車で走っても、誰かと挨拶を交わすことはほとんどない。その道はクルマという鉄の箱に人が入って、移動する空間に過ぎない。歩いている人はほとんどいないだろう。
でもその道をちょっとそれてみると、生身の人が歩いていて、挨拶を交わす。「自転車で旅をする」という目で見たら、これが「生きた道」である。
それは海外でも同じだと思う。風カルチャークラブで開催してきたチベット、ネパール、ブータン、モンゴル、モロッコ、ペルー。そのどこの国も、自転車で走っていると、道端の人たちが手を振り。
「どこから来たの?」
「ニッポンで~す」
「どこまで行くの?」
「これからプナカ・ゾンまで」
同じやりとりが1日に何度も繰り返されると、いつの間にか現地語でのやりとりは、様にもなってくる。子供たちが追いかけてきて、おばあさんは「お茶でもどう?」と手招きしてくれる。
「あぁ、こんな旅をしたかった」とガイドしている身ながら、そう込み上げてくる。
どれくらい普通の暮らしに出会えるか?
アンデスからアマゾンへ3日間かけて下る途中のキャンプにて
下っていくと、アマゾンで作られる酸素に包まれることを実感するのも自転車ならでは
チベットで出会った旅行者どうしで、「普通の人たちにどれくらい出会ったか?」について雑談になったことがある。一般的なバスツアーの参加者の答えは「ガイドさん、運転手さん、ホテルの人、お土産物屋さん、散歩しているときに出会った人……」。
都市間を結ぶハイウェイといわれる道は、チベットに限らずどこにもある。そんな道は、乗用車、バス、トラックなどが集中する。途中にある休憩ポイントでは、バスから降りてくる旅行者目当ての物売りが押し寄せる。便乗して子供たちも、お金を乞う。
人の旅のことをあれこれいうつもりはないが、自転車の旅は普通の人と出会う数が圧倒的に多い。その分、有名な観光ポイントを訪れる数は絞られるが……。
素顔の村の魅力
例えば、チベットの村を行くと、壁に貼り付けられた乾燥ウンコを目にする。ガイドとしてボクがわざわざそれを見せようとするのはどうか? と思われるかも知れない。しかしそのウンコにこそ、チベットの暮らしがある。
家畜である牛馬、ヤク、羊やヤギなどのウンコを拾い集め、水を混ぜて練る。直径30センチくらいにして壁に貼り付けて干す。草食動物のウンコというのがキモで、それはほとんど草の塊といってもよい。それが貴重な燃料となるのだ。これならば森林伐採もない。(森林がない?)
翻って、我々日本の進んだ暮らし(?)というものは、石油などの化石燃料をいつかは枯渇することを恐れながら使っている。チベットのウンコ燃料はその心配は極端に少ない。すぐに日本でそれを実践はできないが、その姿を見ることはとても重要だと思う。
ちなみにウンコを練る、燃やすというのは臭いと考えがち。しかし草食動物のウンコは臭くない。臭いのは人間や犬などの雑食のウンコなのでご安心を。
村の前を通り過ぎたら、子供たちがわぁ~~っと追いかけてきました。正面の山はチョモランマです。
これがチベットの村の乾燥ウンコの壁。ホントに臭くない。
自転車はきつい???
さてさて。とはいってもよく質問されるのが「自転車ってきついでしょ? ましてチベットみたいな高地で乗るなんて?」ということ。
確かに自転車はハードに走れば立派なスポーツだけれど、ゆっくり走って楽しむこともできる。こちらで推奨しているのは、鼻歌が歌えるペース、おしゃべりができるペース。これなら風景も見えるし、長い時間を楽しむこともできる。
高山病予防には、低負荷、長時間カラダを動かすのがよいが、まさにこれがピッタリなのだ。使用する自転車はマウンテンバイクが多い。マウンテンバイクというと、岩場をジャンプしたり、荒れた地形を乗りこなすイメージがあるかも知れない。でも農村などは未舗装が多く、マウンテンバイクの太いタイヤは安定感抜群。またギアもたくさんあるので、上り坂でも大丈夫。ギアがたくさんあると、速く走らなければいけないと思われがちだが、実は逆。ギアは上り坂で、平地と同じような負荷(ペダルを踏んだ時の重さ)にするためのものなのだ。
「自転車の旅」では、何が何でも自転車で走り切ることを目指しているワケではありません。時にはクルマで移動して、楽しいところを選んで走って頂きます。
とはいってもそれ自体がアクティビティであるし、登りや向かい風になることもある。汗をかくことは絶対に嫌だ、という人には向かないが、トレッキングをする体力、それを楽しそうだという感性があれば大丈夫だと思う。
現地スタッフと作ってきた旅
2011年にネパールで現地スタッフ向けの研修を開催
これまでの風カルチャークラブでは、2005年に初めてチベット自転車ツアーを開催。以来、いろいろな国々で開催してきた。企画するときは、こちらで望むような道があるかどうか、それが出発点となる。事前の情報収集として、そのあたりを風の旅行社の現地支店(あるいはパートナー)に問い合わせてみると、100%の確率で「そんな道はありません」との答え。ボクの嗅覚が動くのは、川沿いにハイウェイが続いていて、その対岸に村が点在するところ。きっとその村々を、ハイウェイに出なくても、直接結んでいるのではないか、ということだ。しかし現地からの答えは「道はない、見どころもない」という程度。知らないから、そしてそういう視点で見ていないから仕方がない。だから自分で行くしかないのだ。(それが楽しみなんですが)
2011年2月にモロッコに下見に行ったときもそうだった。
「グーグルアースなどの衛星写真では道があると思うから、是非、見に行ってみたい」と伝えて現地入り。モロッコ支店のラシッドとドライバーとで道探しの旅が始まった。そしていよいよ、ハイウェイを外れて村へ、そして村々を結ぶ道を探る。荒涼とした砂漠が続く一帯の中で、意中の道に行くと、オアシスが現れ、ナツメヤシの林が広がった。その中の道をさらに進むと、モスクが見えてきて、村の中心にたどり着く。そんなことを何度か繰り返した。
「まさにサイクリングにぴったり」と喜ぶボクに、ラシッドも納得してくれる。
モロッコはフランスからの情報が多いせいもあって、サイクリングというとツール・ド・フランスのような競技スポーツを思い浮かべてしまうらしい。欧米からサイクリングに来る人もいるが、その走り方はかなりスポーティ。でも、風として日本人向けにやりたいのは「農村散策の足」としての自転車だということを、彼も理解してくれた。
「私もこんなふうにモロッコを見てもらいたい」
ラシッドも村で子供たちとたわむれ、時にミントティーをごちそうになりながらテンションが上がる。そして彼は
「私にもいい考えがあります」
といってドライバーに行く先を指示。行ったところが、これまた素晴らしい村を結ぶ道だった。彼は旅行業を始める前は、アラビア語の先生としてその村に住み、小・中学生に教えていたとか。道には詳しいはずである。
モロッコのラシッドだけでなく、これまで関わった国々では、こちらの意図を理解してもらいながら、一緒に旅のプランを練る。そのときに現地スタッフは、自らの国に根付く暮らしの中に、尊いものがあることを再認識する。欧米の国々にはサイクリングツアーが数多あり、それに“乗っかる”ことで旅行商品はできる。それにはない大きな意味が、風の旅行社の現地スタッフとの間に生まれる。この仕事をしていてボク自身が、本当によかったと思えるときだ。
大きな風景が広がる北海道
7月は北海道ツアーが恒例。毎年、コースを変えて、北海道の雄大な光景を、カラダいっぱいに楽しみます。写真は道東、女満別の丘。観光地でもない
普通の風景をめいっぱい楽しみます。
埼玉県春日部市の裏道で桜並木を独占
あまり知られていないところを発掘して、
楽しんでいただくことも自転車ならではです。
自転車はきつい???
これまでは風カルチャークラブの企画として、サイクリングツアーを実施してきたけれど、今後の新たな展開には大いに期待して頂きたい。「自転車の旅」という枠組みで、
① 2名様から常時催行
② 日本語ガイドが案内
③ マウンテンバイクとヘルメットを現地に用意
が大きな特徴。行き先はチベットとネパール、ブータン、モンゴル、モロッコ、ペルーの5か国。これまではボクが行くということを前提に、出発日が限定されていたけれど、これでご参加の皆さまの自由度が大きく広がった。自転車の旅は道草を楽しむもの。道端のおばあちゃんと写真を撮ったり、農作業を手伝ったり、そんなことも少人数なら、心置きなく楽しめることだと思う。
ガイドするのは、先に紹介したラシッドのように、一緒に旅を作ってきた現地スタッフ。マウンテンバイクのメカニックに不安がある場合には、現地のメカニックを別に付けるなど、自転車のトラブル対策もバッチリ。
道は生もので、道路工事やがけ崩れなど、状況は刻々と変化する。現地ガイドはそうした情報にも精通しているので、安心して旅立って頂けると信じている。
風の「自転車の旅」ここが違う!
3つのポイント
●2名から催行!
●自転車、ヘルメットは現地でご用意
●日本語ガイドが一緒に自転車で同行!
風の自転車ネットワークのある各国の魅力を写真と文章で分かりやくす紹介。自転車を使ったツアーに参加したことのない方でも、眺めてるうちに、行ってみたい!と、きっと思ってもらえるはずです。
どうぞパンフレットをご請求ください。
なぜ風の旅行社と?
最後になったけれど、なぜ風の旅行社と?についても触れておきたい。
① 支店(あるいはパートナー)のある国が、とっても魅力
② 支店との連携がとても緊密
③ 現地スタッフの熱意、ホスピタリティが素晴らしい
④ 日本側のスタッフも、その国々が大好き
⑤ 小人数の旅を大切にしている
と、書き出すと次々に出てくる。あまり書くと、読まれる皆さまからは自画自賛に見えるのでこのくらいに……。
「自転車の旅」という新たな展開も進むけれど、これまで同様、風カルチャークラブの枠組みの中でも、ボクが同行するツアーは、国内も海外も続けていく予定。自転車を通じて見える、現地の普通の暮らしの魅力を、これからも感じて頂けたらこの上ない喜びだ。
「風通信」46号(2012年11月発行)より転載
丹羽さんの講座・旅行情報
09/26(金)〜9/28(日)3日間 09/26(金)〜9/28(日)3日間
【講座】
【旅行】
【海外】