旅の安全確保とリスク

「健康アンケート」提出について

「お客様の健康状態を把握する」そのために「健康アンケート」を提出して頂くことにしました。50歳以上の方は極力提出して頂き、50歳未満の方で健康上不安のある方にも提出していただくようお願いすることとしました。
「健康状態を旅行会社に書面で報告するなんては、プライバシーの侵害ではないか」
と思われる方も多いと思います。そのことを承知の上でお願いすることにしました。勿論、“強制”ではありません。
何故、そこまでしなければならないのか。「健康管理はお客様自身の自己管理の問題で、旅行会社がそこまで立ち入るのはおかしい。」「健康アンケートを頂いても、お客様の疾病に旅行会社として責任を取ることはできなのだから、注意を促すことで良いのではないか」こうした意見もありました。
しかし、弊社が取扱う地域は、救急車を呼べばすぐに病院に行けるようなケースは少なく、仮に病院に行けても、医療水準は、日本人が期待するようなものでありません。ネパールでのトレッキング、モンゴルの草原にでるツアー、チベットでラサからネパールに抜けるコースなど、もし急病になれば、ヘリコプターを呼ぶか、車で何時間も走るか、ガイドが、必死になって山から担ぎ下ろすしか方法がないのです。
お客様の健康状態を事前に把握していれば、より早い段階で対処出きる。また、病院で治療を受ける際に、医者から、既往症や使用している薬の種類、アレルギーの有無などを聞かれます。ご本人が意識がない場合は、ガイドや添乗員が応えなければなりません。治療は受けていないが不整脈があるなど心臓に不安があるならそれを医者に伝えるか否かで治療方針が大きく変るはずです。今は、こうした内容を伝える情報を私たちはまったく持っていません。緊急時に、国際電話で家族の方に確認していては間に合わないケースもありますし、家族の方にお聞きしても、こうした情報は正確には把握されていないケースも意外と多いのです。
私たちは、ツアーを主催する旅行会社として、医療水準には問題はあるもののその国での治療をいち早く受けてもらうようにする責任があります。その結果 、その国で治療することができないなら、費用の問題(約1000万円くらい)はありますが治療できる国まで移送することだって可能です。
こうした観点から「健康アンケート」とご提出頂くことにしました。どうかご理解ください。

「健康アンケート」の使用について

幾らアンケートをとってもそれが現地に伝わっていなくては意味がありません。利用方法を明確にする必要があります。また、プライバシーの保護には万全を帰し、決して情報が漏れないよう留意することは言うまでもありません。そのために、「取扱マニュアル」を作って対処したいと考えております。

海外旅行傷害保険の重要性

弊社では、海外旅行傷害保険への加入を強くお薦めしています。他社でご加入になった場合はその写しを頂いたり、カード保険に加入されている方には、保証額が足りないので、二重加入をお薦めしています。時には「半強制的で気分が悪かった」とアンケートでお叱りを受けることもあります。スタッフの言動に問題があるとは思いますが、疾病や事故が起きた場合に、海外旅行傷害保険が大きな力になります。どうかご理解を頂きたいと思います。また、海外旅行傷害保険の告知事項に虚偽の申告、例えば、既往症があるのに申告されていない場合などは、保険そのものが無効とされ、一切の費用が保険では支払われなくなります。しかし、既往症で例え亡くなられても、申告さえしてあれば、保険は有効で、治療費は出なくても死亡保険は出るのです。保険の加入は任意だし、その内容にまで旅行会社が口を挟むのはやりすぎかもしれません。しかし、そこまで承知の上で保険に加入される方は殆どいらっしゃらいません。一端事が起きれば、大きな後悔に繋がります。これをきちんとご案内するのも弊社の重要な仕事だと考えています。

事故が起きたら、治療費は誰が払うの?

例えば、バスの運転手は安全運転を心がけていたが、崖崩れのために横転したとしましょう。お客様がケガをされ、ヘリコプターで病院にはこばれ、10日間入院されました。このようなケースでは、誰が、ヘリコプター代や入院代、治療代を払うのでしょうか。勿論、お客様に責任はありません。旅行会社にも、バス会社にも落ち度はありません。このように誰も悪くない場合は、治療費は、現行の「旅行業約款」ではお客様の負担となります。こんな時に役立つのも保険です。海外旅行傷害保険の傷害治療費や救援者費用に加入されていれば、保険でカバーされます。

日程が変更されたら追加費用はどうなる?

旅行の日程が天候やその他やむを得ない事情で変更になるケースがあります。例えば、天候で飛行機が飛ばなくなった場合などは、航空会社は免責ですから、それによってホテルを予約したり航空券を買い直したりする場合はお客様の負担になります。1泊のホテル代くらいは航空会社が出してくれますが、航空券の買い直し費用までは負担してくれません。残念ながら、現状では、これらをカバーする保険はありません。
弊社のパンフレットには「お申込前に必ずお読みください」というページがあり、これらの事が説明してあります。しかし、実際にこうした事態が起きると、初めてお客様が「自己負担」であることを知るケースが多くなかなかご理解が得られないこともあります。ただ、旅行会社に、こうした事態まで責任を取れといわれたら、今度は、業として成り立たなくなってしまいます。どうかご理解を頂きたいと思います。

もっと“いい旅”を作りたい

今回は、難しい内容になってしまいました。なんだか、こんな事ばかり考えていると、旅行がドンドンつまらなくなるような気がしてきました。「危険だからやめておこう」「失敗しそうだからやめよう」では、旅行会社が作るツアーは本当につまらなくなってしまいます。法で一律に規制するのではなく、もっと個々の旅行に関して自由にお客様と責任範囲を決めてやれたら、もっと色々な企画が出きます。でも、今は、約款で縛られているのでどうしても制限されます。
そんな状況に悶々としながらも、風の旅行社は、まだまだ色々なことに挑みます。事故が起きないように最善の努力をする。尚且つ、事故が起きたらどうするかを想定する。手配が難しい地域を如何に確実に手配するか。こうしたことに常に挑戦し続けることでしか面 白い旅行は作れないと考えています。作り手に夢がなくなったら“いい旅”は生まれてきません。  
まだまだ、検討課題は山積みです。時に、失敗することもありましょうが、長い目で見ていただき、どうかご理解を頂きたいと思います。

風通信 No.13(2002年春号)より転載

※本コラムは2002年当時の情報に基づき執筆しております。現状とは状況が異なる記載もありますことをご了承ください(2015年9月注)。

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