ネパールが元気です

1月20日、1年ぶりにカトマンズを訪れた。今回は、空路、ブータンのパロからドゥルクエアーで入ったので、カンチェンジュンガ、ローツェ、マカルーなどの8,000m峰を一望に見渡せた。特に、雲の上に浮かんだエベレストの美しさには、思わず見とれてしまった。一人で見るにはもったいない。やはり、ネパールは、世界屈指の宝を持っている。カトマンズに降り立つと、日中のせいか、汗ばむくらいの陽気で、迎えに来た NAPAL KAZE TRAVEL(以下、NKT)のスタッフ、ドゥルガは、「今年は、ちょっと異常です」と不安げに語っていた。ヒマラヤも雪が少ないそうだ。
街は、車やバイクのエンジン音とクラクションで喧騒に包まれ、人も車もごちゃ混ぜだ。人々の声が、甲高くあちこちで飛び交う。カトマンズは、すっかり元気を取り戻していた。

王制廃止決まる

暮れの12月28日、ネパール暫定議会で王制廃止が決定された。来る4月10日に行われる憲制議会選挙後の議会で正式に決まるが、もはや、王制維持派が多数をとることはない。約240年続いた王制は、その幕を閉じる。1996年以降、共産党毛沢東派(以下、マオイストと称す)は、激しく武装闘争を繰り返し警官や軍隊とぶつかった。その結果、多くの死者を出したが、マオイストは、観光客は巻き込まないと宣言し、無差別テロという手段には打って出なかった。最終的に暫定議会に参画し、王制廃止を主張しそれを実現してしまった。
政治への関わりを形式的なものに限定して立憲君主制を残すケースはあっても、王制を議会で廃止するというコペルニクス的転換はあまり聞かない。今、ネパールは、最も大きな歴史的転換を迎えている。私も、正直、本当に驚いている。王制廃止の賛否はともかく、ネパールは一日一ドル未満の所得しかない貧困ライン以下の人々が人口の約40%にも達すると言われている世界最貧国の一つである。この貧困問題を全く解決できなかった政治に大きな責任があることは間違いない。民衆は、小手先の改善ではなく根本的な変革を望んだということだ。

物価高騰

元気になってきたことは大変喜ばしいが、最近のネパールの物価高騰には舌を巻く。特に、ガソリン代や、ホテル、食事などの料金の値上げは旅行代金にストレートに響いてくる。その上、この1月から、ホテルや食事代には一律10%のサービスチャージが掛かるようになった。それに従来からある14%の日本でいうところの消費税が掛かるので税金だけで25.4%にもなる。ガソリンは、80ルピー(約130円)と日本とあまり変わらない。ネパールの物価を考えると車に乗ることはかなり贅沢なことだ。

また、今回、NKTの全スタッフを集めてミーティングをしたが、トレッキングの費用の高騰をしきりに訴えられた。最近は、赤字になるケースも出てきたというのだ。昔は、ミルクティーは10ルピー、ご飯だって20ルピーも出せば肉が付いた。今は、一杯のコーヒーをバッディー(山小屋)で頼めば150 ルピーもしたりする。ポーターも、今は、マオイストの影響で組合ができて賃金交渉を行うようになり、一日600〜700ルピーの賃金を払わなければボイコットされてしまう。
風は、事故対応や、お客様が歩けなくなったりすることを考慮に入れ、ガイドの他にサブガイドもつけるので、その費用も他社に比べれば高くなる。テントトレッキングでなら自分で湯が沸かせるが、バッディー利用のトレッキングでは、湯たんぽ用のお湯をバッディーから買わなければならず、300ルピー以上は取られる。とにかく、昔とは全く違う。しかし、日本人の方々は昔のイメージがあるのか、NKTのカウンターに来店されたお客様からは高い高いと言われてしまう。
最近、日本人でも、大手のH社やJ社などの高齢者グループの観光旅行が目立つ。ホテルの料金や食事などはグループだから風のような個人のお客様とは比較にならない安い料金が出る。日本の新聞でこういうグループ旅行が随分安く売られていると聞く。それと比較されたらたまらない。いいサービスをして、ネパールを好きになってもらい、また来て欲しいから、ああいうグループ旅行のようなことをやろうとは思わないが、お客様にもっとネパールの実情を理解してもらって欲しい。等々、彼らの愚痴は尽きることが無い。

2007 年ネパールを訪れた観光客は史上最高を記録したそうだ。しかし、日本人だけは、殆ど増えていない。ネパール航空が、5月以降、未だに運休していることが大きな原因だ。しかし、日本人に、ネパールに平和が来たという実感が伝わっておらず、不安を拭い去れないままでいることの方がむしろ影響している。それを伝えきれない私たちの力不足も否めない。

確かに、ツアー代金が高騰するのは困るが、ネパールに平和が訪れ、みんなが元気になり、貧困が少しでも解消されていくならむしろ歓迎すべきことと思う。

もっともっと多くの方々にネパールを訪れて欲しい。ネパールは、風の原点です。すべてはネパールから始まりました。NKTのスタッフが、みなさんのお出でを、今か今かとお待ちしています。
(1ルピーは約1.7円)

※風通信No33(2008年2月号)より転載

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