「もう、田舎では、商工会が成り立たないよ」先日、信州に帰省して菓子製造業を営む兄と話をしていたら、そんな話が出た。何年か前にも兄から同じ話を聞いたが、いよいよ事態は深刻らしい。
商工会・連合会の実態調査によれば、全国の商工会の会員数は、平成13年は107万1,542、平成23年は87万4,515とこの10年間で19万7,027の減、しかも、年間約20,000の減少には今も歯止めがかかっていない。
会員減少の大きな理由は、かつて中小事業者が金融機関から融資を受けることが困難だったころ、商工会の会員になればマル経(小企業等経営改善資金融資制度)への商工会斡旋システムを利用することで融資を受けられたのだが、今は、商工会の会員でなくても比較的容易に融資を受けられるようになり、加入する理由がなくなってしまったからだという。
しかし、根本的な問題は、そのような組織の存在価値以前の問題で、個人商店が急激に姿を消しているという点にある。地方都市のバイパスを走ればチェーン店の看板が競い合い、その殆どはフランチャイズで、純粋な意味での地場の個人商店は少ない。また、大規模量販店の進出で地方都市の商店街は客を奪われ、何年も前からシャッター街になってしまっている。
確かに、地方都市のバイパスの景観はひどい。走っていると、そこはかとなく悲しくてなってくる。特色は薄れ、日本中どこへ行っても同じような店が立ち並ぶ。果たしてこれでいいのだろうか。いや、よいはずがない。もちろん景観だけの問題ではない。地域社会が脆弱化し文化が衰退していくという問題である。
どんな小規模な個人商店でも一国一城の主として、地域の慣習に左右されながらも、社会的な責任と役割を果たし地域を支えてきた。なのに、その多くが都会からやってきた大手資本の傘下に入りサラリーマン化すれば、都会と同様、核家族化が進み責任感は家庭にしか向かなくなる。その結果、社会への責任感はおのずと薄れていく。それは、確実に、社会を脆弱化させる。もちろん、文化を伝承していく担い手もいなくなる。
日本には多くの中小企業があり、その数を上回る個人事業主がいる。営業基盤が脆弱で労働条件が劣悪で給料水準も低いと言われ問題視されることもあるが、それだけ、個人がリスクを抱えながら頑張っているということであり、自立した人間が大勢いるということでもある。そうした社会は、非効率で脆いと指摘する人もいるが、むしろ、色々な問題や矛盾を吸収する力があって逆に強い社会であると私は思う。もちろん、遥か昔に日本の農村は解体され、文化の伝承は日本全国で途絶え消えてしまったものが多い。個人商店が消えることも負けず劣らず、日本を大きく変えてしまうように思う。
少し前までは、中が大に飲み込まれ、大と小に2極化すると言われていた。しかし、どうも事態はそれに留まらないと私は最近思い始めた。その理由は、インターネットという化け物にある。私たち、旅行業界では、そのインターネットが業界を一変させてしまった。何故なら、嘗ては、オンライン販売が流通に占める割合はそれほど大きくなかったのに、今では、流通を支配し始めている。インターネットは、規模の集積による集中化が運命付けられたような仕組みである。しかも、勝ち残るためには際限のない大規模な投資が必要だ。旅行業界では、大きな資本を投下し、大量なコンテンツを瞬時にオンラインで裁ける仕組みを構築できるところが、航空会社やホテルのホストと直結させたり、それを仲介するインターネット開発企業の仕組みを導入したりして、インターネット内で大量流通を可能にした。「楽天トラベル」、「じゃらん」、「エクスペディア」、「アゴダ」、いずれもその例である。中小は、流通から外されるか、どんなに悔しくても、これらの大手の川下に陣取るしかなくなってきている。もしかしたら、インターネットは、小の存在すら許さないのかもしれない。
私は、ついこの前までは、こうした現象は航空券やホテルの宿泊券を扱う流通の世界のことであって、弊社のようなツアー販売を主とする会社にはあまり影響しないと考えていた。しかし、ツアー販売も急激にインターネット販売に移行しつつある。何故なら、消費者の多くが旅行に限らず全ての消費行動においてインターネットから情報を得てネットで買うことが常態化しつつあるからだ。もはや、会社のホームページを見てもらえなければ、その会社は社会に存在していないのと同じとまで言われるようになった。
そんなバカな。今まで弊社を使ってくれたお客様もいらっしゃるし、多くの方が紹介だってしてくださる。インターネットが全てではない。ただ、より多くの方々に弊社のツアーを知っていただき参加してもらいたい。その手段がインターネットなら避けては通れない。ここは踏ん張りどころである。
小がなくなるとしたら、それは、自らが戦いを諦めた時だろう。大手ばかりの世界じゃ面白くない。没個性、そんな社会は真っ平ごめんである。
※風の季節便(2014年秋〜冬号)より転載