木沢地区の稲荷神社の釜は二つ。宮司さんも二人一組で二組が交代で務めます。宮司さんといっても、平素は、別の仕事をお持ちで専業ではありません。四人の宮司さんのお一人は白沢さんとおっしゃって、木沢の中立地区で、農家をされています。全体の目付け役の長老である瀧浪さんが、「そうじゃない、こう。違う、逆だ。」などと細かな指示を出すなかで祭りは進んで行きます。なんとなく、もっとどこか厳かな儀式を想像していた私は、そのやり取りにどこと無くほっとしました。集落の皆さんが総出で行う本当に素朴な民衆のお祭りなんですね。
伝承の世界ですから、形も少しずつ変わっていくようです。釜の四方を火打石で清める場面が何回も出てくるのですが、最初は、火打ち石でしたが、二回目からは、マッチを使っていました。「ひよしの神楽」では、歌詞カードを見ながらうたいます。昔は、きっと、見なくても歌えたんだと思いますが、祭りの担い手が少なくたった昨今、こうした工夫が必要になったんだと思います。
私も、村の衆の輪に入れてもらいうたいましたが、この歌詞カードを見ても、さっぱり歌詞が分かりません。実際にうたう歌詞の音と、書いてある歌詞の読みが違うからです。きっと、歌が伝承で伝わり、それを文字に起こすとき文語の表意文字に変える。すると、今度は実際の歌詞の様には読めない。ということなのかもしれません。それでも、皆さんは、ちゃんとうたっている訳です。なんとなく、それについていくしかありませんが、実際にも、そうして覚えていくものなのかもしれません。
祭りの式次第は、本堂の壁に貼ってありましたが、破れた部分もありよく分かりませんでした。以下、木沢・正八幡神社のものを掲載します。これとほぼ同じ形で進んだと思います。全国の神々を呼ぶために清め、氏子代表が神名帳で神々の名前を読み上げて、さあおいで下さいとお願いします。神名帳を読み上げるのも、それはもう大変な苦労で、思わず「頑張ってください」と応援したくなるくらいでした。慣れないと、読めないのだと思いますが、事前に練習するものでもないようで、横に長老が付いて教えていらっしゃいました。周りの村の衆も不安気ながらも、応援の眼差しを向けておられ、どことなく、ほのぼのとした光景でした。
◆ 祭りの式次第
- 大祓い
- 御扉開き
- 三条の祓
- ひよしの神楽
- 神名帳
- 湯立(先湯) (後略)
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信州遠山郷「霜月まつりの様式」
「湯立」、これが長い!大体一回40分くらいの一連の儀式と舞が、10回近く繰り返されます。全国からお出で戴いた神々に湯を差し上げます。一編にさあどうぞなどという様なずぼらなことはしません。それは、もう、丁寧に、神々をそれぞれ遇します。同じ、リズムと旋律で太鼓と笛が繰り返されます。この繰り返しがきっと神々に近づく下地を作っていくのかもしれません。湯たてが終わったのは、日没になってからでした。
さて、ここから、面(おもて)が登場し、いよいよ祭りはクライマックスに入って行きます。
(つづく)