入学祝い

つむじかぜ279号より


息子が大学に入ったので、手掘りの印鑑を贈った。3本組でそれなりの値段がする。本人は、「こんな印鑑何に使うのさ?」と訝しげだが、「大人の記だ。今に使う時が来る。但し、借金の請け判だけは絶対にするな」。と教えた。

かくいう私は、長野県で教員をしている頃、菓子屋を継いだ兄から、ある日電話が掛かってきて、新しい店を出すから保証人になれと、半強制的に請け判をさせられた。もちろん教員の給料で保証できるような額ではなかったが、形だけだからと押し切られた。小さな頃から、親父には「請け判だけはするな。曾じいさんはそれで苦しんだ」。とよく言われてきたのに、身内とはいえ釈然としない話だと当時は感じた。

その時、兄に金を出させて手彫りの印鑑を作った。今は、その印鑑が役立っている。

先週、息子は、大学の入学式に一人で行った。朝、慌ててネクタイのしめ方を聞いてきたので、その日が入学式だと私は初めて知った。翌日の朝、大学生4,000人の入学式に8,000人の親が出席し、履修申告の仕方を親が熱心に聴いている様子がテレビで報道された。いつになったら大人になるのか。否、いつになったら大人扱いしてあげるのか。

親は、見守りながらじっと我慢する。これが一番大切だと私は思う。しかし、転ぶ前に杖を出したくなることも多い。四六時中、親は子供についてはいられないのだから、自分で、大怪我をしない転び方を身につけないといけない。そんなことは、私も、解ってはいるが、ついつい先回りし、あれこれ言ってしまう。

息子はこのニュースを見ながら、「え~?結構みんな一人で来てたけどなあ。大学の入学式で、親が来るなんておかしいよ」とあきれていた。私は、内心、入学式に行かなくてよかったと安堵した。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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