『インパラの朝』(中村安希著、集英社発行)という本を、高校の先輩に薦められて読んでみた。日本の高校を卒業し、カリフォルニアの大学を出て、東京で3年働き、突如、会社を辞めて“西”に向けて旅立ち、ユーラシアとアフリカ大陸を放浪した、20代前半の女の子の684日間の心模様を綴った本である。
壁にぶち当たって悩み苦しみ、どこかイライラしながらも、まったく諦めることなど到底できない、若者の、どうにもやるせないまっすぐな熱い心を、火傷するくらい感じさせてくる一冊だ。私には、懐かしい感覚が戻ってきた。何故か、ふとシアンクレールでコーヒーを飲んでジャズを聴いている高野悦子の姿が浮かんだ。35年も前に読んだ本のことを思い出すなんて・・・。
旅のルートは、まさに弊社の扱う国、地域をなぞるように進んでいく。モンゴルから中国に入り、チベットをぬけてネパール、インド、パキスタン、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコ、シリア、ヨルダン、イスラエル、イエメン、ジブチ、エチオピア、ケニア・・・とアフリカへ続いていく。
街の様子や、地名や、観光地などはほとんど出てこない。出会った人々との間で起きた出来事や、交わされた膨大な会話の中から、心を揺らされた幾つかのことを綴っている。
「経済的な優位性と人的犠牲が組になり、人命の尊重と経済面の不利益が別の組になっていて、世界に可能な選択はその二組に一つのはずだったが、現実は、四つを混同させて、建前を本音に再分割した。お金を持った先進諸国は、高い技術と道徳心で世界を救うはずだった。」(P117〜118から抜粋)
半径10m以内の自分の幸せしか考えられなくなった日本人だが、きっと何時の日か、若者が、世を根底から問い直すようなそんな時代が来るに違いない。今は、そんな機会もなく、エネルギーをもてあましている若者が大半だが、若者は何時の世もラジカルだと私は信じている。
共感する若者は少ないかもしれないが、共感する熟年は多そうだ。
どうぞ、ご一読あれ。