気になる本

つむじかぜ431号より


最近、気になる本が二つある。一つは、林真理子の『野心のすすめ』。もう一つは、姜尚中の『心』である。前者は手に入れたが、後者は中野のあおい書店では売り切れであった。両著ともかなり売れているらしいが、『心』はそれほどなのかと驚いてしまった。

実は、今まで林真理子の本は読んだことがない。雑誌などのエッセイや対談などで多少目にしたことはあるが、決して読もうとは思わなかった。1954年生まれで私より2歳上。そう、紛れもない同世代である。しかし共有できるものがないと感じてきた。とは言っても、同氏のことは全く知らないし、単なる私の勝手なイメージに過ぎない。

はたして、『野心のすすめ』を読んでみたら、私のイメージ通りであった。若いときは、野心丸出しの実に嫌な人間であったと本人が書いている。実際、書いてある事例は本当に醜い。

-私はどうにも、こういう見え透いた貧乏くさいことが嫌いなのですが、いつしか世の中は、しみったれたことが主流になり「おひさまの匂いのする家族の洗濯物」にうっとりするようなことを強制されるようになってしまいました。-(同著から抜粋)

同感である。「しみったれたこと」とは、日本人にとって美徳とされ、空気を読んで目立たないようにして、みんなと協調するのが大人である。それが嫌いだと素直に言っている。私とは性格も考え方も違うが、この本は共感することだらけだった。

林真理子がこの本を書く動機として、「今の若者は、こんなに野心がなくて、日本の将来は大丈夫かと思った」と先日テレビで語っていた。しかし、これは今の日本人全てに対する警鐘のように感じる。私は、自分に向けて言われているようなそんな気がした。

私だって地球は自分を中心に廻っていると思っていたし、自分は、きっといつか世に出て“有名人”になるんだと慢心していた。だから、田舎に埋もれたくなくて東京に出てきた。

結果、この年齢まで大したことをしてきたわけではないが、「まあ、こんなもんでいいや」と現状を認めたことはない。50代後半ではあるが、これからだって何かしらできるし、何かやってみたいとも思う。もちろん、趣味の世界や自己満足ではなくて。

さて、もう一冊の『心』を読むにはすこし勇気が要るように思う。姜氏は4年前に一人息子を26歳で亡くされた。そのことが、姜氏の人生にどれほどの喪失感をもたらしたのか。『心』には、その息子さんへの思いが盛り込まれているという。なんだか、姜氏のこころの奥を抉り出すような感じがして臆してしまう。こちらのこころも無傷ではいられないような気がする。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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