先月、亜細亜大学の学生たちと釜石へ東北大震災の支援ボランティアに行った帰りに、釜石の駅前のビルにあった古本屋で、以前から気になっていた『アフリカの牙』(ウィルバー・スミス著、福武文庫)を見つけ、帰りの電車の中で読んでみた。象牙を巡って繰り広げられる“復讐の物語”は、ハリウッド映画張りの“娯楽物”に近いが、アフリカの実態に関しては真摯に書かれていると感じた。
この本が書かれて20年以上経つが、象の密猟が後を絶たない。特に、アフリカでは、アフリカ象を絶滅危惧種に認定して保護しようという動きも出てきている。私は、動物保護団体の熱烈な賛同者ではないが、象の密猟に関しては、象牙という嗜好品に群がる人間の欲望と醜さを感じてしまう。
今回、この原稿を書こうとあれこれ調べてみたら、先月の10日、CNNが、『中国人の「象牙の女王」が少なくとも760本(約3億円相当)の象牙を密輸したとして逮捕された』と報じている記事を見つけた。いやはや、まるで『アフリカの牙』そのもののような記事に呆れてしまった。
逮捕されたのは「ヤン・フェン・グラン」容疑者(66)で、タンザニア当局によれば、同容疑者は、1975年に翻訳者としてタンザニアを訪問。2006年には、象牙密輸を開始したという。タンザニアは、アフリカでも最も象の密猟が盛んで、英環境保護団体「環境調査機関」によると、過去10年で象の生息数は3分の2近くを失った、と同記事は書いていた。いやはや凄まじい数である。
そんな記事の横に「トロフィーハンティング」という言葉を見つけた。「趣味で行われる狩猟」のことだ。人気は5大獲物であるライオン、ヒョウ、サイ、バッファロー、そして象である。そういえば、モンゴルでも山羊のハンティングに西欧人がやって来る。弊社では扱っていないが、モンゴルの旅行会社で、この手の手配はよく行われている。かなり限定的で、極少数しか当局に許可されないからか、余り疑問を感じなかったが、次のような記事を読むと言いようのない違和感を覚えた。
『The Huffington Post Japan』の2015年8月3日の記事によれば、「トロフィー・ハンティングで、毎年推定600頭のライオンが合法的に殺されている一方、狩猟許可料は貧しいアフリカの国にとって貴重な収入源にもなっている。実際、今回セシルが殺されたジンバブエも、観光収入のおよそ3.2%にあたる約2000万ドルの収入を、トロフィー・ハンティングから得ている」とのことだ。
賛否を問われれば、賛成できないと答えるだろうが、倫理で断じようとは思わない。動物保護も自然環境を守ることも、倫理だけではできない。莫大な金がかかる。また、人々が暮らす上で現金収入をどう確保するかは重要かつ切実な問題である。トロフィー・ハンティングを禁じても、現金収入の道が確保されなければトロフィー・ハンティングはなくならない。
時々、アフリカなどのこうした実態を取り上げたBBCのドキュメンタリーが放映される。私は、アフリカについて知らなさ過ぎると反省している。どうもアフリカの事情は、その歴史ゆえか、アジアとは大分異なる。こうした問題をどう考えるかは、もう少しあれこれ読んでからにしようと思う。