*風のメルマガ「つむじかぜ」574号より転載
海外旅行のガイドブックといえば『地球の歩き方』(ダイヤモンド・ビック社)と思うのは、もはや若者には殆どいない。1979年に創刊された『地球の歩き方』は、1999年まで右肩上がりで伸び続けた海外渡航者数と連動して部数を伸ばしてきた。
バックパッカーのバイブルのようになった『地球の歩き方』は韓国へも波及し、海外で『地球の歩き方』を持っている韓国人を良く見かけたりもした。パッケージツアーではなくエアーオンリーで旅に出る若者からは“地球のさまよい方”などと揶揄されながらも、必需品であったことは間違いない。
しかし、21世紀に入って、テロや戦争、伝染病の発生などが頻繁に起こるようになって若者が、海外旅行から遠のくのにつれて「年配のひとが読む本」になってしまったようだ。最近の学生は『ことりっぷ』(昭文社)などの到底ガイドブックとは思えない写真集のような本を買うようだ。最近はそれも買わないでスマホですべて済ませてしまうようだ。
ダイヤモンド・ビック社も『地球の歩き方新シリーズPlat』を昨年の11月に創刊している。“これで本当に旅が出来るのか?”と首を傾げるくらい情報が少ない。「あれでは、旅は出来ないですよ。でも、売れてるんです。何故か?癒しですよ。どうも、疲れた体と心を癒すために買うらしいんです」。ある出版社知人はそういう。
2014年の絶景ブームの火付け役になった『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』(著者:詩歩/三才ブックス)を、私は、2年ほど前に、何かの席で見せてもらったことがある。まさか、あれが絶景ブームとなって海外旅行のスタイルを変えてしまうとは思わなかった。勘が鈍い。私の志向は、文章表現の方に偏っているから“綺麗な写真だな”くらいにしか感じなかったのである。
時代は、説明的なものを排除し見ただけで、“きれい”、“すごい”と感じるものへと価値基準が移っているように思う。だから歴史とか、文化論のような見ただけでは分らないものを理解しようという志向が消えてきているようだ。
スマホというカメラを備えた通信機器を常にもち、撮った写真をfacebookやInstagramで瞬時に共有できる。そんな環境がこの絶景ブームをつくったともいえよう。私は、それを嘆いているわけではない。人間が獲得した一つの表現であり素晴らしいことだと思う。ただ、残念かな。私にはついていけないというだけのことである。
「いくらスマホが普及しても、雑誌としてのガイドブックはなくならないと思いますよ。何故なら、インターネットで得られる情報との最大の違いは“編集”にあると思うのです。インターネットで情報を検索しても、それを使えるように自分で編集しなくてはならない。これは大変ですよ」。私は、知人にそう答えた。本当に旅がしたいと思う人は、役に立つ詳しい情報がほしいに違いない。
ちょっと話はずれるが、弊社はずっと『地球の歩き方』に広告を出してきた。しかし、今年度から殆ど止めにする。広告を出すことで「風は○○をやっている専門会社だ」と胸を張ることができ、どこか誇らしかった。寂しいが、そろそろ卒業ということらしい。
★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。