*風のメルマガ「つむじかぜ」734号より転載
ホール間の移動で、観客に手を振って笑顔で応じ、可能な限り観客とハイタッチをし続け、試合中なのにサインボールやサイン手袋を子供たちにプレゼントする。4日間ある試合期間中、日を追うごとにファンが増え続けた。
優勝を決めた瞬間、パターを高々と天に向かって差し上げ、その日最高の笑顔で喜びを表した。観客の誰もが、前からファンだったかのように歓喜の拍手でそれに応えた。実況をするアナウンサーも、“こんな選手は今まで見たことがありません!”と驚きを隠さない。
渋野日向子。昨年プロテストを合格したばかりの20歳の新人が、海外での初めての試合・全英オープンゴルフで優勝してしまったのである。樋口久子以来42年ぶり日本人2人目というのだから、どんなに凄いことかお分かり頂けるだろう。
本人も、「驚いています。とんでもないことをしてしまいました。なんで勝ったのか分かりません。いろいろ学びたいと思って英国に来たら勝ってしまいました」と満面に笑みをたたえながら話す。勝ったことも凄いのだが、その“笑顔”で世界中を魅了してしまったことに驚く。
“立ち食いは行儀が悪い!”と小さなっころから親にうるさく躾けられた私たちの世代からすれば、渋野日向子は行儀が悪い。ゲーム中、打つ合間におにぎりや駄菓子をパクパク食べる。心臓がバクバクしそうな場面でも、お菓子を食べて笑っている。しかも、観客は、好感をもってこの姿を受け入れてるのだから、ついこちらまで笑みがこぼれる。
海外メディアは「スマイリング・シンデレラ」と称し、「強烈なインパクト、まさにカリスマ的個性」などと評した。かつて、こんな評価を受けた日本人がいただろうか。こういう日本人が出てきたことに、頭を突然殴らたような衝撃を受けるが、その要因は一体何か冷静に考えてみた。
もちろん、個性としかいいようがないし一般化することはとてもできない。しかし、私が、亜細亜大学の同世代の学生と接していて感じるのは、彼らは、“日本が一番いい、日本に生まれてよかった”と素直に思っているということだ。
井の中の蛙大海を知らずなのだが、大海など知らなくていい。井の中で十分。そう感じているのである。だから、知らない世界におじけづく必要など全くない。英語ができないなんて当たり前。なんら恥ずかしいとは思わない。西欧文明への憧れとその裏返しの劣等感が染みついている私からすれば到底考えられない感覚である。
もちろん、これからが大変だ。注目され生活が一変し、期待感が強くなればダメなら酷評もされる。もしかしたら勝たなければよかったと後悔するかもしれない。しかし、私は、こんな若者が出てきたことがとても嬉しい。静かに応援したい。
★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。