「ラダック・フェスティバルなんて、どうせ政府観光局主催の観光客向け人寄せイベントにすぎないだろう」と高をくくって、期待せずに初日のイベントである民族パレードがスタートする地点に行ってみた。
(行進の先頭を行く旗)
10時にパレードが始まるとのことだったので、9時半に行ってみると、パレード参加者は、全員路上で待機していた。そして、各地域や、各グループ代表のチームごとに、異なった民族衣装で着飾った参加者たちは、行進が始まる前なので何をするでもなく突っ立っていた。その間を、数多くの外国人観光客が、カメラを持って動き回り、まるで民族衣装の撮影会のごとく写真を取り捲っていた。
(行進開始を待つ少年舞踊団員)
(兵士コスプレ)
この夏、ラダックで行われた、寺院の宗教儀礼である仮面舞踏にも、村人の観客は民族衣装を着けた人もいたが、その数はまばらで、ラダック地方特有のトルコ石が縫い付けてあるペラクという有名な頭飾りを着けた人は数えることができるくらいしかいなかった。
ところが、このフェスティバル初日は、大勢の頭飾りを着けた女性が参加していたのだ。また、花飾りで有名なドクパ族のなど地域によって、民族衣装と、飾りつけ具合が微妙に異なっている。これでは観光客が喜ぶはずだ。
(トルコ石の頭飾りペラクを着けた女性)
(ペラク後ろ側)
(頭に花飾りをつけた濃厚ソース顔のドォクパ族男性)
インドではめずらしく、10時きっかりに、パレードが始まった。
(しずしず)
(そんなに、くっつかなくても)
地元住民と外国人観光客の群集が沿道を埋め尽く。パレードは途中何度も行進を中断して、路上で踊りを披露した。ラダックやザンスカールの踊りは、群舞であり、大きな円を描いて周りながら踊る。踊りそのものは、シンプルでゆったりした動きである。「催眠がかった盆踊り」とでもいうべきか? 観客にとって刺激が足りない踊りだ。
(自らの踊りに酔うオヤジ1)
(自らの踊りに酔うオヤジ2)
ただ、チベットの踊りの音楽と異なり、太鼓の早いビートにタイのムエタイの試合前に奏でるようなチャルメラの音がかぶさり、スローな踊りには、不似合いなサウンドである。
(チャルメラ吹き)
(俺のビートに酔ってくれ!)
これまで、何度も踊りを見ていたので、飽きていたが、群集の中、路上で行われているパフォーマンスには、意図せずして興奮させられてしまった。映画館で「ET」を見たとき、ETを自転車の買い物かごに乗せた主人公の少年が逃げ、絶対絶命の瞬間、ETの念力で自転車ごと空を飛ぶシーンがあったが、「こんな場面で泣くなんて恥ずかしい、ここで泣いたら監督の意図に載せられてしまう」と理性では泣くまいとしながらも、涙がボロボロ出てきてしまったときのように、「こんな、踊りで興奮しては、主催者の意図に乗ってしまう」と思いながらも、雰囲気に飲まれてしまった。
(頭の上に水差しをのせていますが、何か?)
(なぁーん でぇーす かぁー?)
(KKKか?)
ステージや、通常の会場で見た踊りの場合、観客は、動かずにイスや、地面にじっと座って見ているので、ラダックの踊りのような、緩慢な動きの踊りでは、途中から飽きてしまいがちなのであるが、この日に限って、観客は全員が混雑した沿道に立ち、異なる衣装をつけた各チームが続々とやってきて披露する踊りを見ているうちに、群集の熱気+衣装のカラフルさ+絶え間なく鳴り響く太鼓のビートよって、知覚に入力される情報が過剰になりアドレナリンの分泌が活発になってしまった。
こうなりゃ、主催者の意図に乗ってやろうではないかと、心を切り替え、パレードを楽しむことにする。
(ヒゲオヤジ)
(ヒゲダンス)
(金の帽子大賞)
(最優秀アンジェリーナ・ジョリー賞)
パレードを追っていくと、ポロ・グランドに着いた。ポロ・グランドが、この日のメイン会場である。会場に着くと朝から待機していた、地元住民と外人観光客がすでに場所を取っていた。そこへ、パレード参加者とその後を追ってきた群衆が加わったので、敷設してある天幕をはみ出して地べたに座って次ぎのパフォーマンスを待つことになった。
会場正面は、インド政府のお偉方たちが座る雛壇になっており、踊り手はその前のグランドで踊ることになる。最初に、2グループの踊りが披露されたが、路上パフォーマンスと異なり、観客席からの距離が遠いので、迫力が足りない。
しかも、予想していたとおりに政府高官のスピーチが始まった。主に英語で話されるので、内容は分かるが、「観光客が年々増加している、特に今年はインド人観光客が増加した」などのスピーチが、入れ代わり立代わり、1時間近くも続くことになる。「しまった!早目に席を立ってしまえばよかった」と思いつつも取材のため、次の演目を待つ。
スピーチがやっとのことで終わり、各グループの踊りが始まったが、路上で見せた踊りとほぼ同じであった。ただ、獅子舞だけがこの会場だけで行われた。しかも、上に書いたように、観客席から遠く、政府高官の雛壇に向けて踊るので、後ろの席に座ったらよりぱっとしない。
コメント ラダック・フェスティバルを見るなら、朝のパレードだけを見れば十分。ポロ・グランドでのイベントは、気の長い人向けである。
二日目は、ティクセ寺で行われる仮面舞踏を見に行った。この日の舞踏は、外国人観光客相手のパフォーマンスとあって、見事なほどに、村人がいない。ほぼ100パーセント外人とインド人観光客で占められていた。
実際に寺院で仮面舞踏が行われるときには、菩薩や憤怒尊の舞がメインとなるのだが、今回のイベントでは、観光客向けのため、黒帽子や護法尊の舞のみが演じられたそうだ。
わたしたち、外国人にとって、宗教儀礼である仮面舞踏を見てご加持を受けるという心構えがないので、観光のためであると割り切っているなら楽しめるパフォーマンスであった。
(黒坊主の舞)
(黒帽子の舞)
(墓場の主の舞)
(牛君と鹿君)
二日目の夕方5時から、ポロ・グランドでポロ競技が始まった。ポロのブランドで有名なポロである。「ポロ」というどこかなさけないような語感とはうらはらに、勇壮な競技であった。馬に乗って騎上から、ボールを打って敵方ゴールに入れるホッケーと同じルールの競技だ。一試合1時間。前半戦30分で休憩10分、後半戦で互いのコートを入れ替える。一チーム、6人のプレイヤー。ルールを知らなくても楽しめるゲームだ。
試合が始まると、観客席と競技場が一体となり、というか、観客がグランドの中にどんどん侵入していく。
硬いボールと疾走する馬がいつ飛び込んでくるか分からないため、サッカーの何倍も危険なのに、さすがインドだけあって(死んでも生まれ変わる)観客は、平気でグランドの中に入っていく。実際に、この日は、3回、玉を追って熱中した馬とプレイヤーが勢いよく、群集の中に突っ込んでいった。屋根のついた中央観客席に陣取った人は、目の前でどんどん増えていく人垣のために、ゴール近くで行われているプレーが観にくくなってしまった。
(ポロのロゴのような)
(疾走する馬)
(カーン!)
ポロ・グランドに隣接した、特設会場では、地元物産店が開かれていた。
(木彫の器)
(木彫郷土産)
ポロ競技の熱狂が醒めて帰路に着く観客たちを、丘の上のナムギャル・ツェモ寺院が静かに眺めていた。
(丘の頂に建つナムギャル・ツェモ寺院)