スピティは、ラダックとラホール地方の南東方面にあり、チベット文化圏である。
言葉もラダック方言やラホール方言よりも西チベット方言に近い。ラホール地方、スピティ地方、キナウル地方の位置関係は、カタカナの「コ」の字をイメージしてもらえば分かりやすい。「コ」の字の上の横線がラホール地方、右の縦線がスピティ地方、下の横線がキナウル地方にあたる。
スピティ地方の行政の中心地は、カザの町で、マナリやラダック方面から来た外国人旅行者は、ここでインナーラインパーミットを取得する。ゲストハウスやレストランはたくさんあるが外貨両替はできない。旅行者は、この町を拠点に、スピティの諸寺を回ることになる。この町に二泊して周辺の寺を巡ることにした。
以下に、タボ寺以外のスピティの諸寺について簡単な解説を記す。
ダンカル寺(ゲルク派)
タボ寺を離れ2時間ほどで、ダンカル寺に着いた。ダンカル寺は丘の上に建っており、付近には奇岩が聳え立っている。かつてこの丘にはノノと呼ばれる地方領主の館があったそうだ。
ラルン寺(ゲルク派)
ダンカル寺から40分のところに、リンチェンサンポが創建したと伝えられているラルン寺がある。小さなお堂の中に、タボ寺の集会堂の内部に鎮座していた塑像と似た塑像が設置されていた。堂内は暗く、壁画を見るには懐中電灯が必要だ。この寺の下のラルン村は、謝孝浩さんの『スピティの谷へ 』(新潮社)で描かれている。
キー寺(ゲルク派)
カザの南には、キー寺がある。キー寺もダンカル寺と同じように丘の上に建っているが、下から眺めると密集した僧坊が、美しいバランスをとっている。この寺の創健者と創建年代は不明だそうだ。この寺には、リンチェンサンポの化身ラマがいるそうだが、現在は還俗妻帯し、デリーに住んでいるらしい。キー寺の屋上からは、スピティ渓谷が一望できる。眼下には、抽象絵画のような緑のパッチワーク状の畑が見える。
キッバル村
キー寺からさらに坂道を登るとキッバル村に着く。ガイドブックによると美しい村とあった。そのせいか、多くのツーリストが訪れ、レストランやゲストハウスが何軒かできており、静かな山村という雰囲気ではなかったのが残念だ。村の新しい寺も門番がおらず、入ることができなかった。
テンギュ寺(サキャ派)
ドライバーのアドバイスで、カザ村の上方にあるテンギュ寺へ向かう。高原地帯を走る途中の風景は、キバル村へ向かう道よりもよかった。テンギュ寺の下には、水が枯れたので、放棄され廃墟になった寺跡があり、その近くに修行用の洞窟があった。数年前まで、チベット人の修行僧がこの洞窟にこもって何年も修行していたと聞いた。翌日、カザの近くの修行小屋でその修行僧に会うことができた。亡命後、インドの各地で修行にはげんでいたそうだ。
新サキャ寺(サキャ派)
カザの町の上のほうに、新しく建築中のサキャ派の寺があった。来年2009年に完成予定で落慶法要には、ダライ・ラマ法王を招聘するとのことだ。堂内のご本尊は、チベット寺院には、珍しい大日如来像が奉られていた。
グンリ寺(ニンマ派)
カザからピン渓谷へ向かう。ピン渓谷の奥は、グレート・ヒマラヤ国立公園で雪豹やアイベックスなどの野生動物保護区となっている。車道からは、川をはさんで対岸の著しく褶曲した地層を見せる崖が見える。ヒマラヤの造山運動の激しさを実感させる場所だ。その後ろには氷河が見える。
グンリ寺が見えてきた。新しくできたお堂には立体マンダラが設置されていた。また天井には各種のマンダラが描かれており、新しいものではあるが、チベット仏教美術を鑑賞できる。