ひさびさの駐在日記。
今日は種々雑多のメッセージを。
まず、今月下旬に一時帰国します。
東京や大阪で所用ということであるが、本音を少し言うと、締め切り間近の原稿があってそれを仕上げたいがためでもある(笑)。 そして、大阪のきつねうどんが食べたい! 美味しいラーメンも食べたい! 日本の鍋も!! 「食べ・書き」しているうちにあっという間に時間が過ぎていきそうだ。
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数ヶ月ほど前になるが、ラサの西蔵大学(チベット大学)の外国語学部に大量の日本語書籍が寄贈された。 寄贈主は東芝国際交流財団。 僕は仲介役として関わらせて頂いたが、辛苦と快楽のデカダントな思い出がたくさんのチベット大学に、少しだけだが恩返しのようなことができてとっても嬉しい。 先日、東芝財団の担当の方と連絡を交わしたところ、来年度のプロジェクトにも関心を持っていただいている。 このようなご時世に、教育文化交流のために助成金を出してくれる企業がどれほどあろう。 この場をかりて財団の審査委員・担当の皆様をはじめ、すべての関係者の方々に感謝の意を表したい。
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寄贈されたものは書籍のほか、補助教材として邦画のDVDもあった。現在チベット大学で教鞭をとる日本人教師のセンスのせいか、「東北弁」バリバリの映画が何本もあった。 数年前に一世を風靡した(?)『スィングガールズ(Swing Girls)』や『フラガール』など。 これらの映画を見て日本語を勉強し、将来東北弁でチベットの歴史を説明するチベット人ガイド通訳が出てくるのであろうか。 そこまで日本語ができれば素晴らしいが。
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そういえば、チベット人で史上初めて日本語を勉強したと思われる、セラ寺の高僧ツァワ・ティトゥーは、なんと秋田弁を習ったようだ。 20世紀はじめ、西本願寺の大谷光瑞の招きで京都に来たこの高僧は、これも縁なのか、のちにセラ寺に留学することになる秋田出身の多田等観から日本語を習ったのだ(多田はこの高僧との交流からチベット語会話をマスターしている)。 多田によると、寒地で話される秋田弁がチベット人の相性や嗜好にどういうわけか合ったようだ。 しかし、さすがに大谷光瑞をはじめ、地元の京都人と話すときには苦労したらしい。 以下、『チベット滞在記』(多田等観;白水社)より抜粋:
「・・・ツァワ・ティトゥーが大谷光瑞師とはじめて会見するとになり、日ごろ私の教えておいた日本語でツァワ・ティトゥーがしゃべったところ、光瑞さんには彼の日本語が一向に通じないのである。通じないというよりは、よく聞き取れないのであった。今にして思えば無理もないことで、ツァワ・ティトゥーのしゃべった日本語は立派な秋田弁なのであった。・・・東京では、ずうずう弁でもどうにか通用するのだが、京都ではそうはいかない。一言ごとに問い返されるのが、私にはひどく不愉快なのであった。むしろずうずう弁は、生粋の日本語だぐらいに考えていた・・・」(14頁)
などとある。
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僕がチベット大学で日本語を教えていたとき、チベット人の生徒達に大阪弁を教え込んだことがある。 今でも要所要所で彼らはお客さんのこころをつかむべく、使っているようだ。 「そんなんわからへんわ」とか、「なにいうてんねん」といった具合に。 しかし、それらを言うべきところの適切なタイミングを十分把握していないため、きれいに「はずす」ようだ。 だが、そこがかえって受けているらしい。
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今チベット大学は冬休みということで、映画『スィングガールズ(Swing Girls)』を先日個人的に借りて観た。 おもしろかった。 完成度という点で(日本の文化コンテキストを越えてウケるか?という意味で)もう少しかもという感じだが、いい映画だと思う。 あんまり芸能関係は詳しくないので、いい加減なことは言えないが、一言感想。
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あのトランペットの貫地谷しほりは、将来大物女優になるかもしれない。 若手で演技が一番輝いていた。 ピアノのあの男の子(平岡裕太)は、僕の大好きな映画のひとつ『転校生』の尾美としのりを彷彿とさせた。 トロンボーンの本仮屋ユイカは、ストーリーの段階的発展のために導入されたキーガールか。 サックスの上野樹里は、(役柄のせいかもしれないが)正直、大阪的とでも形容すべき無駄な動きが多い。 しかし、そこがかえって親近感が持たれるというか、リズム感があるというか、普遍的な意味での主人公ぶりを演じきれていた。 感性が鈍いようで実は鋭く、不器用な天賦のオーラがあって大変よろし。 あのドラムの豊島由佳梨はいい味が出ている。系譜的には樹木希林か。
「日本語はむずがしいべした。頑張らないといけないべした。」とか、
「おでら(寺)のながでは写真とっだらいかんから、外で撮ってけろ。」
などと、なんちゃって山形弁を駆使しながらガイドをしてくれるチベット人が出てきたら、なんてステキだろう(笑)!
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ラサはこれからある一つの歴史的節目を迎える。
「誰も無益に傷つくことのないように」と祈るような気持ちでこの時期を過ごすのは、チベット人も含めてこの世界に何百万・何千万はいようか。 僕もその一人だ。 このブログを読まれている多くの方もそうであろう。
深く傷つく者は、深く他者を傷つけた者である、と言われたりする。
しかしながら、最も深く傷つけられたり、傷つけてしまうのは、自分を盲目的に愛しすぎるからではなかろうか。 我々はどれほど悲劇的に自分を愛しすぎているか、あまりにも無知すぎる。
(愛猫シロと、遠方にポタラ宮)
Daisuke Murakami
2月15日
(ラサの)天気 晴れときどき曇り
(ラサの)気温 −2〜10度 (昼間は結構アツイです。)
(ラサでの)服装 厚手のジャンパーやコート、長ズボン。 日焼け対策は必須。 空気は非常に乾燥しています。 念のために、雨具は持ってきたほうがよいでしょう。 昼間はコートは暑すぎるでしょう。