チベット流アポイントメントのとり方 [LHASA・TIBET]

携帯電話が鳴る。
電話をとる。 

その声の主は唐突に、
「今、どこにいるの?」
「今、会える?」

先週末の夕飯時、チベット人の友人から電話がかかってきた。
お決まりのあいさつ、そしてお決まりのアポのとり方。
この手法、その友人に限ったことではなく、
チベット人の間で広く採用されている最も一般的なアポのとり方である。
それにしても、だ。 

上の友達は、同僚の後輩とブラブラ散歩をしていて、僕を夕飯に誘いたかっただけなのだが、
それにしても、だ。 もっと早く、せめて昼ぐらいに電話せんかい!
とか思うのだが、悲しいかな、僕はすでにこのアプローチに慣れてしまっている。
「いいよ。では30分後に。」と、フツウに答える。

と、また数分後、別の電話がかかってくる。
半年前一緒にチョモランマBCに行ったガイドのペンバからだ。

「今、どこにいる?」
「今、会える?」

先約があるので、明日にしよう、ということになったが、
彼もまったく同じフレーズである。
そして全く同じ手法。
最も典型的な電話の切り出し、最も典型的なアポのとり方。

というと語弊があろうが、まぁだいたいこんなものである、こちらのチベット人は。
慣れてしまっている自分がコワイ。

来週土曜日、ジョカン寺前にある唐蕃会盟碑の広場側に、二時半に待ち合わせ、
などという芸当はまず不可能であろう。
あまりにも時間的に離れておりかつ、空間的にあまりにも厳密すぎるのである。

チベット人とのアポのとり方はまず、
例えばあさってに会うとすると、時間や待ち合わせ場所はどうあれ、
まず「あさってに会うこと」を確約するのである。
それで当日になったら、もう一度電話をし合い、実際に会うこと、
そして時間を確定するのである。
待ち合わせ場所もそのときお互いが行きやすい場所になる。

つまり、チベット流アポは、基本的に「二段階方式」で、
会う時点が「今」にできるだけ近くないと不可能ということになる。

さて、
最初の電話の主、ラモと彼女の友達が電話の後さっそく僕の家に遊びに来た。
二人は、以前ちらっと紹介した、玉樹と縁のあるチベタン二人組である。
彼女は旦那が玉樹におり、一緒に来た彼女の友達は玉樹出身の若者ミマである。

屋上にて。遠方に見えるはポタラ宮。

屋上にて。遠方に見えるはポタラ宮。

僕の住んでいる宿の屋上で、三人で中国ワインを飲む。
新疆ワインで美味いものに会った事があるが、
中国ワインで手ごろな値段で美味しいものに会ったことがない。
「この御酢、なんだかワインの味がするなぁ」と、冗談を言いながら飲む。

カムパ(東チベット人)のミマは、ラサ語はあまりできないが、非常に流暢な英語を話す。
カムパらしい体格と顔つきだが、中身は非常に繊細で、頭もよく、読書好きなようだ。
遊牧民出身ながら、三島由紀夫が好きらしく、なんとも変わった奴である。
三島由紀夫が体を張って提示した、「あの」日本の美は、本当なのか・・? 本当にあるのか? 
などときかれたが、なんと答えればよいのだろう。。
観念の中の美しさ、自分が見たい自分(の美しさ)、であって、
あんなのが日本の日常に溢れていたら、困る、とかなんとか僕はお酒の力で言いたいことを言う。

村上春樹の『ノルウェーの森』は読んだがさっぱり分からんかった、と彼は続ける。
ミマの生まれ育った遊牧世界と村上春樹の世界、あまりにも接点がなさすぎる・・。
「都会で一人暮らし」などをすれば、村上春樹を少し堪能できるようになるかもと、答えておいた。

            * * *

遠くにポタラが、広場の明かりの照り返しで、紅くなる。
夜でもラサの巨大さは、肌で感じられる。
いや、夜だからこそ、か。
ラサの夜の息吹は思いのほか、巨大なのである。

ラモもミマも幸い、家族には地震の被害はなかった。
が、家族や仲間は精神的なダメージを受けたまま、日常の生活に戻れていない。
友人や知人が亡くなったのである。

ラモはもうすぐ玉樹へ行く。
昔から彼女と縁のあるNGOが玉樹で活動しており、そこで働くためだ。
彼女は一ヶ月もある休日すべてを、玉樹の復興のために捧げる。

彼女の旅路と活躍、そして玉樹の将来を祈って、乾杯。

Daisuke Murakami

地震直後、ラサで募金活動をする玉樹出身のチベット人。

地震直後、ラサで募金活動をする玉樹出身のチベット人。

6月7日
(ラサの)天気 晴れ時々雨(昨夜は雹(ひょう)が降りました)
(ラサの)気温 0~11度(体感温度は5~20度ぐらい。晴れたら20度は超えます。)
(ラサでの)服装 昼間はシャツ、フリースなど。 夜はフリース、ジャンパーなど。 日焼け対策は必須。 空気は非常に乾燥しています。雨具は持ってきたほうがよいでしょう。また、風も強く吹くことも多いので、マスクなども役立ちます。