チベットのサイコロ遊戯賭博 [LHASA・TIBET]

八月末、香港の大学のある研究会に出席してきた。
その名は、「東アジアの賭博と遊戯」研究会。

仕事もついでにこなしてきたが、
今回の旅の主な目的は、この研究会で発表するためであった。

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(香港のホテルの窓から)

ちょうど今から半年ほど前―。
アメリカ人の研究者の友達から、
チベットの遊戯や賭博について研究している人間はいないか尋ねられた。 
「そんなマイナーなリサーチしている人、知らないなぁ」などと答えると、
じゃぁダイスケが研究して発表してくれ、と。 
チベットの遊戯や賭博に関しては僕はほとんど知らず、関心もなかったので気のない返事をすると、
香港までの旅費や宿泊費は大学が面倒みるから(!)と言われ、
即・承諾したのであった(笑)。

チベットでは最近、麻雀やトランプゲームに興じる人が多くなってきているが、
昔ながらの伝統サイコロ遊戯も依然人気が高い。 
その名は「ショ」(ショは「サイコロ」の意味)。

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(ショに興じるチベット人ガイド・ヤスオ、現役ドライバー・プチュンさん、そして元ドライバーのニマさん。 
ニマさんのファンは風の東京・大阪スタッフの女性陣に多いとか。)

ショは、茶館や路傍、ピクニックなどで好んで遊ばれるゲームである。 
日本でいうところの双六に似ている。 ただし、ゲーム盤はない。 
ラサでは女性がこのショに興じることはタブーとされているが、
男たちの間では世代を超えて、職業や社会的階層などに関わらず、幅広く愛されている。 
チベット男でショをやらないのは、カムやアムドなど他のチベット地域から来た男たちだけである。
ラサ人、特に年配のラサ人は、チャンやビールを飲みながら、
さも楽しそうにこの賭博ゲームに興じている。

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(ショのセットは、バルコルで売られている。)

このショ。
ただのサイコロ・ゲームと思っていた。
事例報告程度のつまらん研究になるか、と最初は正直思った。

ところが、どっこい。
出てくる、出てくる! 
チベット民俗の小さな宝が! 
まるで、花咲じじいの「ここ掘れ、ワンワン」である。 笑。

狂信的な博徒に憑依し、運を呼ぶ霊、
サイコロを振る際の祈りの詩歌、
女性の禁忌の裏側に垣間見える宗教的な世界・・・。  

ショに興じながら僕が見聞きした事柄は、新鮮なものばかりであった。 
ショにまつわる社会性、それと関連文献などを参照して微かに見えてきたその世界は、
たんなる「賭博」を超えてチベットの宗教文化の内奥に一部触れるものさえ、あった。

こう書くと、なにを大袈裟な・・、と思われるかもしれないが、
それほど僕にとっては新しい「発見」であった。
たかが賭博、されど賭博!

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(ショ賭博の“戦場”。 貝殻や昔の様々な硬貨が、ヤク皮のパッドの周りに並べられている。)

生(ナマ)のチベット人が何を考えているか、どういった世界の中に生きているのか―。

おそらくは昔の聖人の仏典などよりも、
「賭博」などの欲望の吐露の結晶体のようなものに現われやすいのではないか、
とさえ思ってしまう。
たぶん、チベット文化を堪能するためには、聖俗両方知る必要があろう。 

チベットにハマっている皆さんは、(言語化しなくとも)おそらくは本能で知っていよう。
その魅力の秘密は、「聖」の只中に「俗」が当たり前のように含まれていたり、
「俗」の極みのような世界でも、「聖」がしっかりと侵入しているところである。 
ショは後者であった。

論文そのものは英語で書いたが、
香港の研究会で発表されたものは、日本語と中国語にも翻訳されるそうだ。 
いつか、このブログでも少し紹介したいと思っている。

Daisuke Murakami

9月5日
(ラサの)天気 曇りときどき雨
(ラサの)気温 9~16度 (少し涼しくなってきました)
(ラサでの)服装 昼間はシャツ、フリースなど。 夜はフリース、ジャンパーなど。 日焼け対策は必須。 空気は乾燥しています。 雨具は必ず持ってきてください。