文●得田 充(東京本社)
東はインドネシアから西はモロッコまで広がるイスラム教圏。皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。「豚肉やお酒はだめ。帽子をかぶりヒゲを蓄えた男性。布で全身を覆った女性。モスクでの祈り。」といったイメージでしょうか。
さて今回は、モロッコのガイドから教えてもらった、暮らしと切り離せないモロッコのイスラム教について、ほんの一部ですがご紹介します。
1日5回のお祈り
モロッコの朝は、ミナレット(注)の拡声器から流れるアザーン(お祈りを呼びかけるしぶーい声)の大きな音で始まります。幼い頃から親と一緒にモスクへ行き、まずは耳でコーランを覚えます。6歳でコーランの内容を学び始め、10歳頃には一人で1日5回のお祈りができるようになるそうです。
(注:礼拝への参加を呼びかけるアザーンを朗誦する塔のこと)
コーランの教えの中に、欠かしてはならない行いの1つとして、お祈りがあります。1回に5~10分かかるこの作法を1日に5回、それを「1日の中でいつするか」もとても重要なのです。それは時計ではなく、太陽の動きとともに決められています。まず、1回目は「空が明るくなり始める頃」、2回目が、「太陽がちょうど頭の真上にくる頃」、3回目は「自分の背と影の長さが同じになる頃」、4回目は「日没の頃」、そして、最後5回目は「日がどっぷりと暮れたころ」です。
教えでは1日5回が原則とはいえ、旅行中は一部省略していいとか、女性については免除期間があるなど、ある程度寛容な部分もあるようです。
あまり信心深くなくお祈りの回数が少ない(または、やらない)人もいますが、多くのモロッコ人はこのお祈りをかかさずしようとしているそうです。
ガイドたちがお客様をご案内しているときに困るのが2回目のお祈りだそうで、ちょうど昼食時にあたるため、この間、お客様とお食事をご一緒できないのだそうです(そんな敬虔なガイドにあたったときは、なにとぞご容赦下さい)。
でも、「なぜ?」私たちが首をかしげるのは、どうしてそこまでしてお祈りをしたいのか?ガイドに言わせると、「小さい頃から習慣になっていて、しないと何か物足りなく感じる、でも、一度やるとリラックスしていい」のだそうです。私たちが「戒律」とか「必ずおこなわなければならないこと」として、厳しい掟のように見えているお祈りは、神(アラー)に願い事をしたり、悔いたりする大切なチャンスで、人によって、その思い入れレベルが違うものの、押し付けられたり、いやいややるものではないようです。
また、金曜日、迷路のような旧市街を散策していると、狭い道をふさいで座り込む集団に出くわすことがあります。人がどこからともなくやってきて、集団がどんどん膨れ上がっていくのです。毎週金曜日は集団礼拝の日。時間が許す人はモスクへ足を運びますが、商売をしている人など時間があまり取れない人が道端でお祈りをするためです。
私たちの1日がともすれば、仕事中心に予定を組むように、信心深いモロッコ人は、1日のスケジュールの中心に5回のお祈りがあり、そのお祈りとお祈りの間に仕事や遊びがあるようにも思えてきました。お祈りをすることでリセットし、毎日をポジティブに暮らしていくモロッコ流は、がんばりすぎの人にはお勧めかもしれません。
酒とタバコ
さて、お酒やタバコ事情はどうなのでしょうか?
信仰心が篤いモロッコ人は、イスラムの教えの中で禁止されているお酒やタバコを勧めたり、触ったりすることは好ましく思っていません(お酒売り場に案内してもらって、少しよそよそしく感じたら、彼は信心深いモロッコ人と受け止めてあげて下さい)。
国の法律でも飲酒は禁じられているそうですが、買うことまでは規定していません。矛盾しているようですがフランスの植民地となっていたことも影響しているようで、法律の抜け道のようなものがあるようです。マラケシュやフェズの旧市街では売っていませんが、新市街ではスーパーマーケットでお酒を購入することも出来ます。タバコに関しても特に街中に喫煙スペースはありませんが、街中のお店で購入できます。外国人用のバーやレストランの一部ではアルコールの販売をしています。
モロッコ人の中にも酒やタバコを口にする人もいます。が、驚くのは、信仰心が弱いからといって排除されるという雰囲気がないのだそうです。コーランの教えでは、宗教に強制力があってはならないし、ムスリム同士でも他人の内面の信仰をとやかく言うことは禁じているのだとか。そのため観光客にイスラムの規律を押し付けることはありません。ですので、私たちも彼らにお酒を勧めるわけには行きませんね。
イスラム教に基づく彼らの信条や習慣が少しわかれば、エキゾチックなモロッコがさらに味わい深いものに見えてくるのではないでしょうか。
*一言にモロッコのイスラム教といっても、宗教観はそれぞれに違いますので、これがすべてではないでしょう。モロッコ人の一意見、モロッコの一面としてご理解下さい。
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