旅は「出会い」があって完成する絵画

~二村忍が語る熱い思い~

西安を出発して、中央アジア(カザフスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・トルクメニスタン)、アゼルバイジャンをたどり、グルジアまでやってきました。今「ローマへの道」の添乗中です。旅は、まだまだトルコ、ギリシャ、そしてイタリアのローマと続いて行きます。
このような長期の旅は、95年から「ユーラシア大陸横断55日間」(最初は50日間)として始め、すでに13年目を迎えました。今回の参加者は、すべてその旅のリピーターであり、最高年齢の参加者は89歳にもなります。

旅のほとんどの行程は、バスで移動し、「ユーラシア大陸横断55日間」の走行距離は1万4千キロ、今回でも1万キロは軽く越えます。そこまで苦労して、なぜ辛いバス旅をするのかとお思いかも知れません。しかし飛行機で、点だけを追うツアーと比べて、毎日ほぼ同じ時間に出発し、移動中はバスでゆっくり眠ることができ、あとはバスが目的地まで運んでくれる旅は、想像以上に快適です。目まぐるしく変わる景色、花が咲いていればバスを止め、路上にスイカが売られていればしばし舌鼓を打つ旅は、列車の旅と比べてかなり自由度があります。現地の人とふれあい、様々なハプニングが起こり得る旅は、クルーズより遥かに刺激的です。

お客さん達と食事を囲んで、ユーラシア大陸横断の旅に話が及ぶ時、決まって登場してくるのがトラブルやハプニングの話です。旅の話は「バスが壊れて10時間も待たされた」、「飛び入り参加した結婚式がよかった」などで、日程に書かれている観光地は、話題にもなりません。ホテルの話も「部屋に入ってトイレに行ったら、便器にカエルがいた」「風呂場に閉じこめられて、出られなくなった」などと、5星のホテルに泊まったことは、ほとんど忘れているというのが実際です。
「5星のホテルに泊まる・・・」「世界遺産を回る・・・」と、新聞上を賑わすツアーは、物見遊山の旅行で、このツアーとはまったく別物です。さすがに宿泊地は、めったに代えることはありませんが、訪問する観光地や訪問時間はその時の状況に応じて、食事の内容も参加者の好みによって変えていき、観光地より移動中を重要視するのが、このツアーのスタイルであり、参加者の求めている旅だとこの10年で確信しました。そんななかでは、添乗員の仕事はなるべく時間でお客さんを縛らない、日程はその状況に応じて変更する、ハプニングを旅の要素として取り入れるような、自由さが求められます。

今回も中央アジアに2週間ほど滞在しましたが、「最も美味しかった食事は?」と聞いてみたところ、「それは、あのアツアツのサモサ(羊肉の入りの焼きパイ)とペルミニ(羊肉入りの水餃子)、自家製ヨーグルトだよ。」という答えが返ってきました。その日はタシュケントからサマルカンドの移動日で、時間が押してしまったため、急遽サマルカンドで昼食をとる予定を変更して、途中の一般食堂で食べた時でした。この旅を経験した参加者は、ホテルや観光地のレストランで、提供される食事は個性がなく、味気なく、現地と近い方がおいしいのは、よくわかっているのです。もちろんお腹を壊すこともありますが、それも自己責任であり、旅のうちです。

そんな旅に「ユーラシア大陸横断」「ローマへの道」というロマンを持たせたのが、このツアーです。旅の最中には、アレキサンダーや玄奘三蔵、チンギスハーン、マルコポーロなどが顔を出し、シルクロードという細い糸が各国と日本を結んでいきます。「なぜチンギスハーンが、中央アジアまで侵出できたのか?」それは、歴史的な事実とは別に、バスで走っている途中に目にする広大な草原やステップ地帯が答えを出してくれます。モンゴルの草原の向こうには、ひと繋がりの豊かな中央アジアのステップ地帯が続いているのですから。また今回グルジアのガイドが「グルジアがワインの発祥の地であり、シルクロードを伝わって、中国にもたらされ、留学僧を通じて日本に伝来した」という話をしました。中国新彊で飲んだ楼蘭ワイン、中央アジアで飲んだ各地のワイン、そしてグルジアのカヘティア地方のワインが、その歴史を舌で感じさせてくれます。大河ドラマのような壮大な歴史を、身を持って感じることが出来るのもこの旅の魅力です。
また歴史だけが見えてくる訳ではありません。バスで道を繋ぐ事は、観光地以外の田舎も訪れます。中央アジアに広がる綿花、小麦の畑、イランのカスピ海沿いの田んぼなど。たまにはバスを止めて、農村風景を写真に収め、ちょっと村で話を聞いてみれば、その国の農村、つまりはその国の素顔が見えてきます。どちらが観光しているのかわからないぐらい集まってきた人々の交流は、更に旅を思い出深いものにしてくれます。旅は、観光地を見るだけでなく、人々と交わり、引いてはその国を理解することも重要なのです。

私にとっては、そんな旅を企画し、添乗することは、画家がキャンパスに絵を描くことと同じ意味を持ち、ツアーはひとつの作品と考えてきました。キャンパスがユーラシア大陸の大地だとしたら、筆は旅行社と企画者や添乗員であり、絵の具はガイドやバスになります。そこに描かれる絵は、筆によっていかようにもなり、絵の具によって色や濃淡が変わってきます。人物画だとしら、その中心の人物は観光地ですが、途中の景色や出会った人々に当たる背景がなければ、絵は完成しません。もちろんその価値を認めて、絵を買ってくれるお客さんがいなければ、絵も旅も無意味です。

今の日本では、旅を絵に喩える事ができるプロの旅行社や企画者や添乗員が少なくなりました。旅を銀座の画廊で販売するような絵ではなく、100円ショップで多量販売するようなコピーばかりが氾濫しています。そんな中、旅を画廊に並べることができる数少ない「風の旅行社」と出会い、今回の企画が完成しました。
作風は、ユーラシア大陸横断とほぼ同じですが、題材はシルクロードから、長年温めてきたアジアハイウェーへと移っています。背景にボランティア的な要素や自然も加え、大胆なタッチにしてみました。一度はこのキャンバスを、皆様の家に飾ってみませんか? 一生ものの価値があるはずです。

<風のオーバーランド 総合プロデューサー>
二村 忍(にむら しのぶ)プロフィール

台湾留学経験から中国駐在をきっかけに旅行業に携わる。世界各国の添乗も経験した後、95年大手旅行会社で「ユーラシア大陸横断12,000km  50日間バスの旅」ツアーを企画。翌年そのツアーは、ツアーオブザイヤー・グランプリに輝く。その後、「ユーラシア大陸横断バス」に13年、そして海外ドキュメンタリーのコーディネーターなども務め、ユーラシアを縦横無尽に旅している。「旅は文化を創造する」という主張のもと、新しいステージ「アジアハイウェイ」で、風の旅行社とともに、新たな旅の文化を発信します。