中央ユーラシアでこの習慣が強く残って地域のひとつが、新疆ウイグル自治区です。神輿やカーニバルといった特別なイベントがあるわけではなく、一見地味そうなお祭ですが、この日新疆ではいたるところで羊が屠られます。ムスリムが多い団地では、地面が血で真っ赤に染まるほど。これは、コーランに記載の故事に倣った慣わしで、羊などはアラーへの供物としての意味を持っています。(※捧げられるド物は、羊、山羊、牛、水牛、ラクダと定められています。)
羊が捧げられるのには、こんな言い伝えが多くのイスラム教徒の間に、残っているからだそうです。
『・・・昔々、イブラヒムという人が自分の息子を殺してアッラーに捧げよというお告げを受けました。アッラーへの忠誠を守るため、イブラヒムは息子を殺そうとしました。が、まさに息子を殺そうとしたとき、アッラーから1頭の羊が与えられ息子の身代わりとしてアッラーに捧げられた』ということです。
羊を屠る前には、アッラーへの祈りの言葉があります。またそれらの動物に対しては、苦痛を味わわせないように、熟練しているムスリムの手によって、速やかに行われます。そしてその肉は家族や友人のもてなしとして、又は貧しい人への施しとして少しも無駄にすることなく振舞われるのです。皮、毛、内臓、腸など全てを頂き、アッラーが与えてくださった恵への感謝の表明と、アッラーの道を進んでいく証として犠牲を捧げるのです。
クルバン祭りの日は親戚や友達が家に集まり、食事の際には朝一番に屠られた羊で作った新鮮な羊料理が供されます。遠方で働いている人も自宅に帰ってきます。特に、お客さんには羊料理、お菓子や果物なども歓迎の意味を込めて、たくさん振舞われます。
クルバン祭りの朝、男性はモスクへと祈りを捧げに向かいます。新疆最大のモスクであるカシュガルのエイティガール寺院の広場では、集団礼拝が行われ、時間を決めて全員でメッカの方向に向けて行うお祈りをします。厳粛なお祈りの後はお祈りに参加した男性達が太鼓やチャルメラに合わせてサマー踊りと呼ばれる踊りを踊ります。これは、一昔前まで女性や子供が見ることは許されなかったそうですが、今ではどんな人も見学することができるようになりました。
(ただ残念ながら、ここ年々サマ踊りは規模が縮小されてきているようです。)
日本でいうところのお正月のような、家族や親戚が一同に会する犠牲祭。イスラム文化を濃く感じる時期に訪れてみるのも面白いでしょう。