アルマトイからビシュケクへ道は彼方へと続く
2012年8月10日~8月18日
文・写真●中村昌文(東京本社)
まずはお隣カザフスタンへ
我々一行9名を乗せたアシアナ航空機はほぼ時間通りにキルギスのお隣カザフスタン共和国のアルマトイへ着陸した。
なぜキルギスに行くのにわざわざカザフスタンに入ったのかといえば、日本からキルギスへ直接乗り入れている航空会社は無く、同日に乗り継いで入国できる経路はモスクワ回りのアエロフロートくらいしかないという交通事情のせいだ。
しかし、アルマトイからキルギスの首都ビシュケクまでは車でわずか4-5時間の距離。国境があるとは言え、旧ソ連のお隣同士の国なので、両国民同士は頻繁に往来していて、我々の目指すイシククル湖畔は、ロシア人、カザフ人の保養地としてソ連時代から人気なんだそうだ。
のんびりし過ぎの国境通過
カザフ国境 木陰もほとんどない
午前中ホテル近くの中央バザールを巡り、早くも中央アジアの雰囲気に浸る。
しかし、そんな我々一行を出迎えたのは、国境での「旧ソ連」の洗礼。
乗客の国境通過はとてもスムーズで、係員もとても友好的。しかし、キルギスの車で国境を通過しようとすると、免許証やら車検証やらあれを見せろ、これを見せろと色々難癖を付けられ、さらに車内の隅々までチェックされ、通過に2時間もかかる。
それだけならいいのだが、国境地帯はなーんにもない草原のど真ん中。暑い中、わずかな木陰で座って待っているしかない。
付近を流れる小川の涼しげな様子を恨めしげに眺める一行であった。
首都ビシュケクはシルクロードのにおい
翌朝、移動前に、ビシュケクのアラメディンバザールに立ち寄る。
草原に暮らす遊牧民のイメージの強いキルギスだが、すれ違う人々は日本人に近いモンゴロイド(キルギス・カザフ人)以外に、日本人そっくりの韓国系、金髪碧眼のスラブ系(ロシア・ウクライナ人)、彫りの深いイラン系(タジク人)など多種多様。どことなく中央アジアの香りが漂ってくる。
パン屋のおばさん
日本人のような少女
これぞキルギスの男!
マーケットに並ぶ野菜や果物、パンにナン、シシカバブなど見ると、ここはその昔、天竺にお経を取りに行ったという「西遊記」でおなじみの唐代の僧侶・玄奘三蔵一行も訪れたと言うシルクロードのオアシス都市であることを感じさせてくれる。
チーズ屋さん、乳製品が豊富
子羊の「ひらき」
キルギスの桃源郷チョンキミン
カルマック・アシュー村
今日、目指すのはキルギスの桃源郷チョンキンミンのカルマック・アシュー村。
この村は南のキュンギョイ(クンゲイ)・アラトー山脈と北のイレニン・アラトー山脈に挟まれたチョンキミン川が作った谷間にある。
村の人々は、南北にそびえる天山山脈(アラトー)に馬を放牧しつつ、麦やジャガイモを育て、半農半牧生活を送っている。
取り立てて「これ」という特徴のない村なのだが、山と川と草原、そしてのんびりした空気で、とにかく居心地がいいのだ。
村では馬車が現役の“足”
乗馬練習で村を闊歩すると、草のにおいがさわやかに香る。ただの草っぱらと思っていると、生えているのは天然のハーブだ。
どこからか犬が付いてきて、ニワトリやウシが顔を出す。
乗馬初心者の方はここで簡単な馬の扱いを覚える。
キルギスの馬はモンゴルの馬ほど小さくはないが、サラブレッドほどは大きくない。
初心者でも扱えるように村の中でもおとなしい馬を集めているので、1時間も乗っていると、落ちたり疲れたりしない体勢を覚えて、止まる、進む、曲がるといった基本的な動作がだいたい不自由なくできるようになる。
こちらは朝食のメニュー
キルギス風肉じゃが「コルダック」
さあ、明日からの峠越えの騎馬トレッキングに向けて準備万端。ロッジ・アシューのおいしい家庭料理で英気を養うのであった。
馬に揺られて花と緑の草原へ
林と草原を抜けて進む
朝、大量の荷物を馬に積み先行するキャンプスタッフを見送り、前日の乗馬練習での軽い筋肉痛を感じながら騎馬トレッキング開始。
村はずれから、ぐんぐんと山を上がり鬱蒼としたシラカバの樹林帯へ突入する。基本的に登り基調なので馬はのんびりのんびりと歩く。
キャラバンを進めながら、馬子さんがスッと道端の赤い実に手を伸ばす。甘酸っぱいベリーを取ってくれた。緑豊かな山なのだ。
昼食の弁当を済ませ、さらに登ると樹林帯は針葉樹となり、標高2,500mほどで森林限界を越える。
低いところにはルリタマアザミやリンドウ、標高が上がっていくに従い黄色いヒナゲシ、ナデシコ、フウロソウ、リンドウ、トリカブト、エーデルワイス、オドリコソウやキキョウの仲間など色とりどりの花が咲き乱れる草原地帯に出る。我々も草原で腰を下ろして、登ってきたチョンキミンの谷を眺めてしばし休憩。「ハー」と大きく息を着くと、自然に頬が緩む。
トリカブトの一種
ルリタマアザミ
リンドウの一種
フウロソウ
ヒナゲシ
ナデシコ
すると、向こうの丘の上から馬の群れが近づいてくる。放牧している馬の群れだ。盛りに付いたオスがケンカをしたり、メスを追い掛け回したりと厄介ごとが起こるというので、我々についてきた犬が猛然と吠え掛かり、ちょっと距離を置く。放牧しているとはいえ、鞍も馬具もつけず、山の中を自由に駆け回る馬たちは身体が引き締まり、毛並みもたてがみも美しく、どこか気高くすら感じる。馬とは本当に不思議な生き物である。
キャンプサイトでくつろぐスタッフ
野馬を追い払う犬
途中、雲行きが怪しくなってきていたが、雨に降られること無く本日のキャンプ地に到着。標高は2800mほど。
キャンプでも温かいお食事
先行したスタッフがすでにテントを張り、夕食の支度にかかっていた。
やがて太陽が西に傾き、見上げる東向きの岸壁が真っ赤に染まる。
夕食は、何故か韓国料理のキンパプ。コックを兼ねたガイド氏が韓国料理屋のコックに以前習ったんだとか。
夜は気温が急降下。皆がテントで寝息を立てるころから突風が吹き荒れていた。明日が心配だ・・・。
峠を越えて 見ろ、あれがイシククルだ!
翌朝。まだ上空は厚い雲に覆われていたが、強い風が次第に雲を彼方へと吹き飛ばしていく。
再び騎馬トレッキングで、今日のハイライトであるカマック・アシュー峠を目指す。振り返れば、チョンキミンの谷が遥か眼下に広がる。
頂上付近にたくましく咲く花
頂上が付近は岩がごろごろと転がるガレ場に変わる。
ようやく、頂上に到着。岩の合間を縫うようにコケや地衣類、そしてクッション植物が生えている。
短い夏の間以外は雪に閉ざされてしまうという3700mもある峠で、「選りによってこんなところに生えなくても・・・」と同情するほど厳しい環境にたくましく立ち向かっている。
危険な場所は馬を下りて
我々も長居はせずに、30分ほどの滞在で下り始めるが、ここからはガレ場でしかも下り、と言うことでゆっくりゆっくりと進む。
なかなかのスリルだが、7人のお客さんに対して4名の乗馬スタッフが前後をフォローするという万全の体制。
さらに馬だって滑って転びたくないので、無理はしない。こちらが無理に進めようとしても危ないときは自分で勝手に方向を変えてしまう。
こうして先導する乗馬スタッフと馬に身を任せて下るうちに、無事に危険地帯を通過。
最後は、ちょっと馬では無理という岩場を、馬から下りて通過すると彼方には巨大なイシククル湖が!
広すぎて端から端まで見渡すことができない。ここでしばしランチタイム。
三蔵法師も天竺への旅路の途中で訪れたと言うイシククル湖。
騎馬で峠を越えてこの地にたどり着いた我々一行も、気分はまるで三蔵一行の気分でした。
(私は悟空か? え、八戒? せめて梧浄にしといて・・・)
頼りになる乗馬スタッフたち
見えてきた!イシククル湖だ!
高級リゾートでのんびり骨休め
1泊2日の騎馬トレックのあとは、「中央アジアの真珠」とも言われる景勝地イシククル湖の湖畔でのんびりリゾート。
自分たちが馬で越えてきたキュンギョイ(クンゲイ)・アラトー山脈とは湖を挟んで反対側にそびえるもうひとつの天山山脈の支脈テルスケイ・アラトー。天山山脈の雪解け水を湛えた湖水はひんやりと冷たく、対岸が遠すぎて良く見えないため、湖に飛び込むと、自分も山々も空に浮かんでいるよう。
そんな湖畔で、騎馬トレッキングの疲れを癒し、しばしリラックスタイム・・・。
イシククルとテルスケイ・アラトー
気分は空中浮遊
バザール、農村、騎馬トレッキング、リゾートとキルギスの文化、歴史、自然を楽しみつくすこのコース。
まだまだ書ききれない魅力にあふれているので、次は是非皆さん自身の目でお確かめください。