ラダックの祭 ~聖者を称える極彩色の仮面舞踊や神降ろしの奇祭まで~

祭の始めに踊られるシャナ(黒帽の舞)。大地を清め、神々が降臨する場をつくる。

祭の始めに踊られるシャナ(黒帽の舞)。大地を清め、神々が降臨する場をつくる。

チベット文化圏であるラダックでは、チベット仏教を深く信仰している人々が多く暮らしており、仏教がらみの祭が数多く行われています。有名なのはチベット文化圏に仏教を広めた聖者グル・リンポチェを称えるツェチュ祭ですが、ラダックではツェチュ祭に限らず、各地のお寺や季節にあわせて厄払いや豊作や無病息災を祈願する祭など、他のチベット文化圏では見られないようなお祭も開催されています。以下に代表的なお祭を紹介します。

*文中にあるチベット暦とはチベット文化圏で広く採用されている太陽太陰暦です。月の満ち欠けにあわせて暦が作られているため、毎年日程が変動します。なおラダックでは、一部チベット自治区の暦とは異なります。ここでは「チベット暦」として記載します。

グル・リンポチェを称える ツェチュ祭

ツェチュとは「(月の)10日」の意味で9世紀にチベット文化圏に仏教を伝えたインド出身の聖者グル・リンポチェ(別 名:パドマ・サムババ)の起こした12の奇跡が毎月の10日に起きたことにちなんでいます。
ツェチュ祭では、かつてグル・リンポチェを始めとする高僧たちが、仏教に反抗した土着の神々を調伏し仏教を守護する護法神へと変えた物語を、ミュージカルのような仮面舞踊「チャム」に仕立てて人々に披露します。本来は宗教儀式ですが、娯楽の少ないチベット文化圏では近隣の住民が着飾って年に一度の楽しみとしています。またお寺によっては見るだけで解脱するという「トンドル」と呼ばれる巨大なタンカが開帳されます。

中心にいるのがグル・リンポチェ(タクトク・ツェチュ祭にて)

中心にいるのがグル・リンポチェ(タクトク・ツェチュ祭にて)


ストク・グル・ツェチュ(チベット暦1月9-10日、太陽暦2-3月頃)

ストク・グルプク・ゴンパという小さな寺院で行われるツェチュ祭。法要や踊りの他、僧侶ではなく村人のラバ(シャーマン)が神降ろしを行い神託を告げる珍しい祭。関連ツアー「ストク・グル・ツェチュ祭とホームステイ8日間」

ストク・グル・ツエチュの祭会場風景(撮影:西田愛様) ストク・グル・ツエチュの祭会場風景(撮影:西田愛様)
ストク・グル・ツェチュ。屋根の上を走る神降ろし中のシャーマン(撮影:西田愛様)ストク・グル・ツェチュ。屋根の上を走る神降ろし中のシャーマン(撮影:西田愛様)

へミス・ツェチュ(チベット暦5月10-11日、太陽暦6-7月頃)

ラダックを代表するお祭で、グル・リンポチェのお誕生日を祝うツェチュ祭。お祭の舞台となるへミス・ゴンパはもともと王家の庇護を受けていたこともあり、ラダックでもっとも裕福なゴンパのひとつ。当然お祭も盛大で、国内外の観光客も押し寄せます。関連ツアーはこちら

へミス・ツェチュの仮面舞踊

へミス・ツェチュの仮面舞踊

タクトク・ツェチュ(チベット暦6月10-11日、太陽暦7-8月頃)

タクトク・ゴンパはラダックでは珍しいニンマ派のお寺で、グル・リンポチェが修行したと言う伝説の残る瞑想洞窟から発展したラダックでも珍しい洞窟寺院。 へミスほどの盛り上がりはありませんが、田舎の素朴なお祭が楽しめるでしょう。関連ツアーはこちら

タクトク・ツェチュ、16妖精の舞。 タクトク・ツェチュ、16妖精の舞。
タクトク・ツェチュ、護法神の舞。 タクトク・ツェチュ、護法神の舞。


その他のお祭

ロサール(チベット暦の元旦、太陽暦では12~1月頃)

ロサールとはお正月のこと。チベット本土のロサールは2月頃だが、ラダックはチベットより2ヶ月早い12月頃。
大晦日の夜には各家で灯明を灯し、男性は松明を持って村を練り歩く「メト(火)」と呼ばれる儀式を行う。元旦には正装して寺院に参拝するのがならわし。その後は家族、親族、友人と集まって新年を祝う。

大晦日の夜に男性が松明を持って集まる「メト(火)」の儀式。(写真:小貝宏様) 大晦日の夜に男性が松明を持って集まる「メト(火)」の儀式。(写真:小貝宏様)
正月に正装して経文旗を新調する正月に正装して経文旗を新調する

ゴチャック(チベット暦1月14-15日、太陽暦では3月頃)

家内安全、無病息災、豊作を祈願して五体投地を繰り返しながら巡礼する行事。レーをはじめ、上ラダック
、下ラダックの各地で行われる。

五体投地で巡礼するゴチャック (撮影:西田愛様)

五体投地で巡礼するゴチャック (撮影:西田愛様)

ピャン・ツェドゥプ(チベット暦5月28-29日、太陽暦では7-8月頃)

ピャン・ゴンパはカギュ派の一派であるディグン派のラダックにおける総本山。 ツェドゥプのお祭はそのディグン派の開祖ジクテン・ゴンポの誕生日を祝うお祭で、掲げられるタンカもジクテン・ゴンポのものです。ツェチュと同じようにチャムが奉納されます。

ガンダン・ナムチョ(チベット暦10月25日。太陽暦では12月頃)

ゲルク派の開祖ツォンカパの命日を記念する灯明祭。レーでは王宮周辺をはじめ、各家々やチョルテンなどもライトアップされ幻想的な風景が広がります。2021年は12/29に行われるので特別企画を設定予定です。

ガンダン・ナムチョ。灯明の光に包まれるレーの街。(撮影:小貝宏様)

ガンダン・ナムチョ。灯明の光に包まれるレーの街。(撮影:小貝宏様)

レー・ドスモチェ/リキル・ドスモチェ(チベット暦12月28-29日。太陽暦では2月頃)

チベット暦の年度末に行われる厄払いと幸運祈願のお祭。レー・ドスモチェの場合は、1日目はレー王宮脇の広場でチャム(仮面舞踊)、2日目は「ド」と呼ばれる色とりどりの糸で作られたお供え物が街を練り歩き、最後は市民が翌年の幸運を祈ってドの糸を奪い合う。

レーの街を練り歩く「ド」 レーの街を練り歩く「ド」(撮影:西田愛様)
レー・ドスモチェ2日目。お練りが終わった後、人々は「ド」の糸を奪い合う。 レー・ドスモチェ2日目。お練りが終わった後、人々は「ド」の糸を奪い合う。(撮影:西田愛様)



このほかにも、毎年9月1日から15日まで行われる観光局が主催するラダック・フェスティバル、ブッダの悟り入滅を記念するサカダワ(チベット暦4月15日)、秋の収穫祭などのお祭も各地で行われています。