文●寺山 元(大阪支店)
カイラス~聖地が聖地たる所以~
ご存知チベット仏教の最大の聖地、カイラスへ行って来ました。よりよき来世を願うチベットの民が現世において一度は!と憧れる巡礼地。今回はさらに「サガダワ祭」の最中。釈迦の生誕・悟り・入滅を一度に祝ってしまうチベット最大のお祭りで、チベット全土、各地で行われている。
さらに今年は午年。午年のサガダワは12年に1度の大祭。通常カイラスへの巡礼はカイラスを歩いて1周するコルラを13回繰り返す。しかし、午年特典として、1回のコルラで12回廻ったのと同じ功徳を積むことができるという超お得な年。
さらに「サガダワ期間中に行った善行は普段の300倍の功徳に値する」というサガダワ特典があり、サガダワ期間中のカイラス巡礼は300×12=3,600倍の効能(?!)があるという超お買い得巡礼当たり年であった。
お得とは言え、数千キロの距離を乗り合いトラックで、あるいは五体投地で、荒涼としたチャンタン高原を越えてくるのは過酷な旅。標高は4,000~5,000m 、空気は日本の約半分。溢れんばかりに巡礼者を満載したトラックが、何台もカイラスを目指していくのを目の当たりに、自らも一巡礼者として、少し厳粛な気分になった。
▼1~7日目
ラサにて高度順応
ネパールより空路、ラサに入る。今回のラサは5連泊。テーマは「高度順応」。完全に3,000m台順応を終えたうえで、ハードな巡礼の旅に出る作戦だ。今回の参加者10名のうち、7名はすでにラサは経験済み。観光の内容もかなりダブった方がいたが、その分余裕もあり(余裕がありすぎて長湯で体調を崩した方もいたが)、体調の波はあったものの、出発までにうまく順応を仕上げた。
▼8~12日目
目指せカイラス:チベット高原ドライブ
4台のランドクルーザーに分乗し、荒涼たるチベット高原を走り出す。ホテル暮らしから一転、ここからは長いキャンプ生活の始まり。2週間以上のキャラパンのため、食料、テント、炊事道具そして車の燃料を満載したトラックも一緒だ。なんと表現したらいい地形だろう・・・広い、平らな、ヤルツァンポ川の幅 20kmの河川敷とでもいうような原野から、うねるように丘が波打ち、緩やかなだだっ広い峠に至ると、その向こうにまた、同じスケールの荒野が広がる・・・。日本の峠とはまったく違う峠越え。モンゴルの大草原に似てるとも言えなくない。しかし、時折その平原の向こうに白く輝くヒマラヤが、今、世界の屋根の中にいることを教えてくれる。
1日8~10時間をランクルで悪路に揺られ、キャンプ地に着き次第テント設営、炊事、翌朝にはまた撤収して出発、とハードなキャラバンであったが、参加の皆さんの協力と、荘厳な風景、ドライバーの運転&修理技術に助けられ、カイラスへと、着実に近づいていった。
▼13~19日目
聖地巡礼:カイラス山トレッキング
「なるほど、聖地だ・・・」
はじめてカイラスとマナサロワール湖が姿を現したチャンゼカンという小さな峠で、理屈なしに納得した。それが独特な山容のせいか、盛大にささげられたタルチョ(経文の描れた旗)や五体投地を繰り返すチベタンによる雰囲気のせいかは、よくわからない。ただ、辿り着いた、という実感があった。
サガダワ祭の最大の神事、カイラスを望む地に立つ御柱の建て替えは3,600倍の功徳を求める巡礼者で、ワールドカップのごとき熱を帯びていた。
その後の2泊3日でカイラスを一周するトレッキング中も巡礼者は途切れることなく、たぶんこのときカイラス上空から航空写 真を撮ったなら、カイラスを取り囲む50kmに及ぶ「人の鎖」が確認できたことだろう。
▼20日目
最奥の秘境へ:グゲ、ピャン&ドゥンガル遺跡
グゲに至る谷の手前、異様な岩峰を見つけ、その名をガイドに聞いた。「あれぐらいのは名前はないさ、ここから先はすべてが変だからね(いけばわかるよ)」という表情で彼は応えた。
そこはグランドキャニオンばりの渓谷に、サトレジ川と強い日差しが、石仏を思わせる奇岩の彫刻を数千年をかけて削り込んだ、壮大な谷。その奇岩そそり立つ谷の懐深く底を目指し、ヘアピンカーブを抜け、時に奇岩をくぐり、崖の麓を這うドライブは、さながらディズニーランドのビッグサンダーマウンテン(ただしスケールは100万倍!)。風の添乗としていろいろなところに行ったが、ここはすごかった。もし一人であそこへ行ったなら、一種の恐怖で、進めなくなったかもしれない。人の営みを超越する風景がそこにはある。
グゲ、ピャン、ドゥンガルなどの遺跡は、これら奇岩の岩壁に穿たれた石窟とともに残る。その壁画に描かれる仏画はラサとは明らかに違い、シルクロードの風を強く感じる。ラサから辿った1,500kmの道のりとともに時空の旅に思いをはせた。
▼21~29日目
帰路:ヒマラヤを越えて
再びチベット高原をひた走ること1週間。サガから渡し船で対岸に渡り、ヒマラヤを越える最後の峠へ。8,000m峰のひとつ、シシャパンマ峰を 間近に臨み、国境への下りにかかる。一気に3,000mを下り、空気が濃く湿気をまとってくる、緑が増え、やがて、木が現れ、雨期を迎えつつある新緑の森が我々を包み込む。ああ、帰ってきた。そこはまだネパール国境であったが、ある世界からの帰還を実感した。
カイラスの旅は何から何まで、特別であった。
お客さんでありながら、テント設営も共同で行った参加者の皆さん、チベット、ネパールのスタッフ、そして20日間3000kmの間、我々を運んだランクルと、それを作った15年前のトヨタ(?!)に深い感謝を捧げます。
トジェチェ、ダンネワード、ありがとう!
※2名から催行します。日程アレンジやグループの手配もお受けしております。ご相談ください。
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